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水曜日のカンパネラはライブ・エンタテインメントの新基準を示したーー『未確認ツアー』レポート

2016年07月16日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

水曜日のカンパネラ

 6月22日に、ワーナーミュージック・ジャパン(Atlantic Japan)から新作EP『UMA』をリリースしたばかりの水曜日のカンパネラ(以下、水カン)が、6月25日より全国ツアー『未確認ツアー』を新木場STUDIO COAST公演を皮切りにスタートした。


 結論から言おう、本公演は水カン史上最高にエンタテインメント性が高くこだわりの強い、素晴らしいコンサートだった。


 水カンは、オールドスタイル化しつつあるJ-POP文化に対し、今の時代に響く音響&ポピュラリティーを注ぎ込むことで再構築しようとしているアーティストだ。


 まず、コムアイの身体能力の進化に注目してほしい。2年前、渋谷WWWで主催したイベント『水曜日の視聴覚室』の頃から、コムアイはコンテンポラリー・ダンスを取り入れたライブ表現へと足を踏み入れていた。あれから恵比寿リキッドルームでの『鬼ヶ島の逆襲』、東京ZeppDiverCityでの『ジパング』、赤坂ブリッツでの『OEDO!』など、ターニングポイントとなるワンマン公演を重ねたことで、パフォーマンスに大きな成長を感じられたのだ。ダンス・ミュージックを基調としたビートに呼応するフリーフォームな舞いは、オーディエンスを立体的な昂揚感で刺激してくれる。決めどころが絶妙なのは、努力の賜物であるしっかりした体幹の影響か。


 未確認動物を冠した楽曲と、これまでの人気曲によって展開されていくトランシーなステージ。ステージには新作EP『UMA』のアートワークのごとく、原生林やクリスタルな照明物体が目を惹く。オープニングはファンキーなギター・カッティング・チューン「メデューサ」で幕を開けた。しかし、ステージにコムアイの姿はない……。ステージ後方のスクリーンに映し出されたのはチャイナ服風のコムアイだった。コムアイは何処? ここで突然ステージ向かって左手に灯りがともった。いわゆる新木場STUDIO COASTのVIPルームにコムアイはいたのだ。全国ツアーなのに、ハコの特性に応じた演出をおこなうなど、水カンのアヴァンギャルドな魅力を再確認させられた。その後も、たぶん歩いてはいけなそうなところを、ひょいっと駆け抜けていく忍者のようなコムアイ。


 水カンは3人組だが、ステージに立つのはコムアイひとりだ。歌唱や舞いとともに、MCでは距離感の近いトークで場を和ませてくれる。次から次へと繰り出されるこだわりの音作りは、低音の効いたEDMカルチャー以降のサウンドで鳴り響く。バンドサウンドでは味わえない芳醇な音世界をコムアイはMCで「ひとりカラオケ大会」と言っていた。言い得て妙だが、そこで奏でられる音は、世界レベルのサウンドを照準としていることを付け加えておきたい。


 中盤「小野妹子」では、人気写真加工アプリ『MSQRD』を駆使して、コムアイが自撮りで変顔するリアルタイムVJがユニークだった。オープンに公開されたテクノロジーをアイディア活用するパンクな遊び心がたまらない。


 さらに「雪男イエティ」では、フロアに泡?のような雪を振らせ、「フェニックス」ではコムアイが蓮の花風の脚立神輿に乗ってフロアの群衆の中心へ突き進んでいくという、まさに『風の谷のナウシカ』のワンシーンを思い起こさせる奇跡的風景に。「チュパカブラ」では、歌詞の世界観を再現説明するはずが、注射器を持ったナースがダンサブルに走り回るカオスな世界を打ち出す。一瞬、サウンドプロデュースを担当するケンモチヒデフミが登場したような気がしたが、初見の方には謎だったろうな(苦笑)。


 スペーシーなダンスチューン「ウランちゃん」、続くトライバルに妖しいサウンドが響き渡る「バク」では、ステージ前に森のようなスクリーンが降りて、コムアイが懐中電灯片手に不穏な雰囲気を表現。そして、森を駆け抜けた地は至福のサウンドを奏でる「ユタ」だった。水曜日のカンパネラにおけるアヴァンギャルドなサウンドの集大成がこの3曲の流れに集約していたように思う。次から次へとUMAを登場させることで多様性ある未体験カオスを表現 → 不穏な森を抜けて → 至福の地へ。そんな物語性を勝手ながら感じたのだ。本編のハイライトはここにあった! そう思う。


 その後は、人気曲「ラー」で共演した着ぐるみ? カレーメシ2くんとの、Twitterタイムラインを経由してスクリーン上で会話する漫才のようなやりとりからの「ラー」。続いて、手塚治虫の漫画『ユニコ』がルーツという世の不条理を描いたナンバー「ユニコ」でのメロディアスな展開。本編ラストには、みんなが笑顔になるポップチューン「桃太郎」を披露。サービスタイムと言わんばかりに透明バルーンに入り、オーディエンスの頭上をクラウドサーフィンするコムアイは痛快だった。


 ここまでで全17曲、90分が経過。一般的なワンマン公演より尺は短いが、情報量が多いので満足度は高く、あっという間の90分に感じた。このセンスは次世代ライブ・エンタテインメントの基準になると確信した一夜だった。ライブは長くやればいいというものではないのだ。


 このままスパっと終わるかと思えば、コムアイはすぐにステージに再登場し、メロウに歌える合唱チューン「ドラキュラ」で大団円を迎えるステージを表現。なんだこの、すでに年末を迎えたかのような至福なる昂揚感は(笑)。心がほっこりと暖まり、とても自由なコンサートだったというのが感想だ。世間一般の常識に捕われないパフォーマンスの数々によって、心の解放をしてくれるのが水カンなんだなと確信。カオスな多様性から生まれる自由さを体感した夜だった。


 引き続きツアーは続いていく。各地でプレミアム・チケットとなっていると思うが、2016年を代表するライブ・エンタテインメントを是非とも体感して欲しいと願う。そして、水カンは昨年に続き夏フェス『サマーソニック2016』出演が決まっており、今年はなんと、最大級のキャパを誇るマリンステージへと立ち向かう。前のめりに期待したいと思う。(文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ))