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ドリカム『ウラBEST』に見る音楽的奥行き J-POPフォーマットを逸脱したヒット曲も

2016年07月16日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

DREAMS COME TRUE『DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム』

【参考:2016年7月4日~2016年7月10日の週間CDアルバムランキング(2016年7月18日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2016-07-18/)


 7月7日が「ドリカムの日」に認定された週のチャート。『DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム』が初登場1位を記録しました。


(関連:ドリカム「LOVE LOVE LOVE」は、ベースの中村正人が当時の彼女に贈った楽曲だった?


 昨年の同日に発売されたベスト盤『私のドリカム』は、ロングセールスの果てにミリオン突破(この時代に!)。今回はそのウラ盤と銘打っているから、いかにもコアファン向けのアイテムかと考えがちですが、なんと売上は初週で108,797枚! それもそのはず、確かに名曲多数なんですね。「うれしはずかし朝帰り」がベスト盤ではなくウラベストに入るのか! というのは10代の頃にドリカムが流行っていたアラフォー世代の驚き。いかにヒット曲が多いグループなのか、改めて思い知らされます。


 3枚組からなる『ウラBEST』の面白さは、「MIWA DISC」こと吉田美和が選曲したDisc-2、「MASA DISC」こと中村正人選曲のDisc-3です。オフィシャルサイトのインタビュー(http://tickets.yahoo.co.jp/special/dct2016/interview1/2/)を読むと「(ドリカムは)『うれしい!たのしい!大好き!』とか『未来予想図 II』とか、ピュアな恋愛のイメージでしょう? 吉田の選んだ曲、もうドロドロですから(笑)」「僕の選曲はファンクですね。(中略)そこから先祖返りしてもらってもいい。(中略)我々は新しい音楽の入り口、いろんなカルチャーの入り口になりたいんです」という中村の発言があるのですが、まさに! と膝を打ちたい曲ばかり。たとえばDisc-2の「そうだよ」。このJ-POPフォーマットから大きく外れた洋楽的かつ複雑な楽曲が、かつてシングルとして発表されたという事実は、たぶん「ドリカム大好きアラフォー」にも「ドリカム後追い世代」にもあまり知られていないのでは? 奥行きの深さ、そこから開ける扉の数の多さという意味で、まさに今アンテナをMAXにしている音楽ファンが聴くべき一枚です。


 そしてまた、アイドル皆無、珍しくロックバンドの健闘が光っていることも今週チャートの特徴でしょう。3位にはUNISON SQUARE GARDENの『Dr.lzzy』(37,414枚)が、5位にはthe HIATUSの『Hands Of Gravity』(24,411枚)が、7位にはくるり『琥珀色の街、上海蟹の朝』(11,906枚)がランクイン。昨今はメジャーであっても初週で1万枚以上売り切るバンドが少ないのが現実ですから、これらは立派な数字です。ただ、以上を「ロックバンドの~」とひとまとめにするのも難しい。


 というのも、ハイエイタスの新作はジャンルではまったく語れない独創的かつ先鋭的なサウンドであり、くるりの新作(というか、新曲+タイアップ曲などをまとめた6曲入り)の表題曲は強烈なインパクトを残すラップナンバー。強いて言うなら、どちらも「オルタナティブ」であることを強烈にアピールしている作品です。「だから今はオルタナが来てる」と言うつもりは全然ないし、要するに「細美武士と岸田繁だから売れる」というのが現実なのですが。でも、逆にいえば「一度ロックのフォーマットで支持層を得れば、あとは何を自由にやったってOK」という見本がここにあるわけですね。


 たとえば、アイドル時代に100万枚売っていてもソロになれば売上が激減する例があります。また、ミリオンを連発してJ-POPの頂点に立ったとしても、サウンドの指向性が変わればファンはさっさと離れていく例も。その栄枯盛衰こそがチャートの醍醐味だと考えてみれば、ロックバンドのファンというのは、いかにチャートの原理とは違う動きをしているのかがよくわかる。そんなことを考えた今週でした。(石井恵梨子)