2016年07月16日 10:02 弁護士ドットコム
7月10日午後7時半ごろ、六本木の路上で21歳の女性に突然殴る蹴るの暴行を加え、あごの骨を折るなどの重傷を負わせたとして、41歳の男性が逮捕された。
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報道によると、現場は東京メトロ・六本木駅の地上への出入り口付近。2人に面識はなく、男性が階段をのぼって来た女性に突然襲いかかったようだ。男性は通行人に取り押さえられ、駆けつけた警察官に傷害容疑で現行犯逮捕された。
男性は当時泥酔しており、取り調べに「覚えていない」と容疑を否認しているという。「酔っていて覚えていない」という事情は、罪の重さに影響があるのだろうか。德永博久弁護士に聞いた。
刑法上、「自分の行為の意味を理解する能力(事理弁識能力)」と「自分の意思に従って行動する能力(行動制御能力)」をそろえていない行為については、刑が軽くされたり、犯罪不成立とされたりすることがあります。今回の場合、「犯行当時は2つの能力を有していたが、単に覚えていない(=忘れただけ)」ということなら、問題なく犯罪は成立しますが、「酔っていて自分の行為を理解していなかった」場合は、刑の減軽などがありえます。
どちらに該当するかは、通常の飲酒量や酩酊状態に陥る限度量と、犯行当日の飲酒量との比較などで判断されます。単に記憶がないのではなく、当時の行為を理解していなかったということなら、程度に応じて犯罪不成立(刑法39条1項)または刑の減軽(刑法39条2項)となります。実際、この条文を根拠として、鬱状態に飲酒による酩酊が加わった状態で行われた傷害行為が無罪とされた裁判例などもあります。
もっとも、この基準だけで判断すると、「酒を飲めば飲むほど刑が軽くなり、さらには犯罪が成立しなくなる」といった不都合な結果が生じるので、裁判例や学説では「原因において自由な行為」という理論により、不都合の回避を図る場合があります。
これは、犯行当時に判断能力等を欠いていたとしても、自分が大量に飲酒した場合、他人に危害を加えるおそれがあると認識していれば、刑事責任を負わせうるという理論です。飲酒による粗暴癖がある人物だけでなく、薬物による幻覚妄想状態(粗暴癖)がある人物などの裁判例でも採用されており、無罪または刑の減軽となる裁判例よりも圧倒的に多数となっています。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟では「無敗の弁護士」との異名で呼ばれることもあり、広く全国から相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/