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Awesome City Clubは“特別なバンド”になり得るか? リキッドワンマンで見せた変化と可能性

2016年07月15日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『Awesome Talks -One Man Show-』の様子。(写真=古渓一道)

 Awesome City Clubが7月8日、満員の恵比寿リキッドルームでワンマンライブ『Awesome Talks -One Man Show-』を行なった。このライブは、バンドが抱えていた課題を解消し、明確に次のステージを提示した内容だった。


 ライブのハイライトは早くも2曲目「Vampire」で訪れる。最新作『Awesome City Tracks3』のリード曲であり、PORIN(Vo./Syn.)がメインボーカルと作詞を担当した同曲。これまでのライブではクールかつ妖艶に歌い上げていた彼女が、跳ねるように動き回り、キュートな歌を披露しながらガンガンと客席を煽る。この変化は先日のインタビューでも触れたが、「自分を作るというよりは、自分の素をもっと出せばいいんじゃないかという考え方に変わった」という心境から、先日出演した『CONNECTONE NIGHT Vol.1』を境に一気にギアチェンジしたことで起こったものだ(参考:「これまでは“傾向と対策”でやってきたバンドだった」Awesome City Clubが語る、3rdアルバムでの明確な変化)。


 この日は彼女のパフォーマンスだけではなく、各メンバーの演奏にも変化がみられた。ユキエのドラムはこれまで見たライブよりもずっしりと重心の低いものになっていたし、フロントマン2人を強調するために一歩後ろの立ち位置に変更したというマツザカタクミ(Ba./Syn./Rap.)とモリシー(Gt./Syn.)も、atagi(Vo./Gt.)とPORINの勢いに触発されてか、より力強いパフォーマンスで応えていた。ACCはどちらかというと、atagiの歌声やメロディ・アレンジに巧さや心地よさを感じるバンドだったのだが、「Vampire」で見せた演奏は、5人の個性が前面に出ており、リズム、歌、メロディのすべてが同居する、絶妙なバランス感覚だった。


 5人がこの絶妙なバランス感覚を会得したことには、しっかりとした理由がある。最新作『Awesome City Tracks3』についてのインタビューで、atagiが「今までと違うものを作らなければと試行錯誤したのですが、うまく組みあがらず、一度制作途中だった楽曲をすべてリセット」して作り直し、「いままでは体に響くダンスミュージックを志向していたのですが、今回は言葉も心に響く作品にしよう」と語っているように、アルバム制作を通してバンドの本質と、音楽を通じて達成すべき目的に向き合ったこと。そして、PORINの成長とともにバンドの各メンバーが自分の個を強く出せるようになっていったことが主な要因だ。この成長は、セッション要素の強い「Jungle」や曲の複雑さゆえにこれまでは演奏するのも一苦労だった「アウトサイダー」などにも顕著に表れていた。


 この日、『Awesome City Tracks3』からの楽曲はすべて披露されたが、「Vampire」のほかに目を引いたのは「エンドロール」と、アンコールで演奏した「Around The World」。前者はatagiが一番最初のデモ段階で「ACCがエイフェックス・ツインの曲をやったらどうなるか」を追い求め、結果として打ち込みを主体としながらも、PORINのボーカルによる、音数の少ないバラードになった楽曲だ。ACCは同曲をあくまでギターと鍵盤を主体としたバンドサウンドで再現し、音源とは違った魅力で楽曲の切なさを表現してみせた。


 後者の「Around The World」は、アルバムのラストナンバーであり、バンドがこれからも邁進していくことを決意表明として歌い上げた楽曲。同曲の披露前、atagiは観客に向かって、このように語りかけた。


「ここに来ているみんなは、普段色々音楽を聴いていると思います。先輩バンド、大御所の人たちはカッコいいと思うけど、それでも僕らは今日来てくれた人にとっての一番を目指したい」


 atagiによるこのMCは、バンドの支持層が広い意味で「音楽好き」であると捉えたうえで、その人たちのパーソナルな音楽になりたいと願ったものである。このことについてはPORINもかつて「まだACCって、『Awesome City Clubじゃないと嫌だ!』みたいなファンの方が少ないと思うんです。どちらかといえばシーンの中でほかのバンドとまとめて聴いてくれている方が多いというか」と当サイトのインタビューで語っていた(参考:Awesome City Clubが考える“良い音楽”の定義とは? 「追求するなら、もっと真ん中に行かなければ」http://realsound.jp/2015/09/post-4560.html)。


 人生に大きく影響を与えたり、印象に残った瞬間のBGMになっていないかぎり、聴き手にとっての“特別”になることは難しいのかもしれない。だが、バンドとしての素を曝け出し、フィジカル面での強さを手に入れた今のACCなら、多くの人にとっての一番になれるのではないか。モリシーが2014年の『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演したArcade Fireに感銘を受け、atagiとともに作り上げたラストナンバー「GOLD」での盛り上がりを見たとき、そのような可能性を強く感じたのだった。(取材・文=中村拓海)