トップへ

『RockCorps』が提唱する、音楽と社会貢献の新たな結びつき プロジェクト創設者インタビュー

2016年07月14日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

RockCorps共同創設者 兼 CEO・スティーブン・グリーン

 音楽とボランティアが融合した『RockCorps』をご存知だろうか。これはボランティア活動に参加すると、その後に行われるアーティストのライブに無料で参加することができるという社会貢献プロジェクトだ。2003年にアメリカで誕生し、すでに世界10カ国・34都市で開催され、のべ16万人が参加しているという。日本では2014年より福島にて開催されており、3回目をむかえる本年は、アンバサダーに高橋みなみ、出演者にカーリー・レイ・ジェプセン、ASIAN KUNG-FU GENERATION、HY、Aqua Timezが決定している。今回リアルサウンドでは、来日中のRockCorps共同創設者 兼 CEO・スティーブン・グリーン氏にインタビュー。『RockCorps』が取り組む、音楽と社会貢献の新たな結びつきについて詳しく話を聞いた。(久蔵千恵)


(関連:10-FEET主催フェス「京都大作戦」はなぜ特別な場所であり続けている? 2日間の熱狂を5つのポイントから解析


■誰でも参加できるのがRockCorps


ーーこのような取り組みを始めたきっかけは?


スティーブン:7人のメンバーでRockCorpsを立ち上げて、そのうちの2人が「なにか音楽を使って世の中に貢献したい」と言ったのがきっかけです。よくあるチャリティーコンサートは参加者がお金を払ってライブを見に行き、集まったお金をNPOなどに寄付するというスタイルですね。そのやり方はチケットを買える人にとってはいいけれど、チケットは高額なものもあり、生活に余裕のある人・買える人のためだけのものになっている。一方、時間は誰にとっても共通。億万長者でも貧しい人でも1日24時間は変わらない。それであればお金ではなく、時間を寄付してもらうのはどうだろうという発想です。そういった、通常のチャリティーと音楽の結びつきとは違うことに挑戦したくて始めました。


ーー誰でも参加できるチャリティーイベントを作り上げたということですね。


スティーブン:そうですね。誰でも参加できるのがRockCorpsです。


ーー開始当初はどのようなアーティストに声をかけていったんですか?


スティーブン:1回目はニューヨークで開催することを決めていたので、ニューヨークで人気があるヒップホップアーティストに声をかけていって、初回から7組のアーティストに参加してもらいました。


ーー参加をお願いするときに苦労されたことは。


スティーブン:あまりにも新しい試みだったので、アーティスト自身、事務所のマネージャーに趣旨を理解してもらうことが難しかったですね。さらに「ライブに出てほしい」ということだけでなく、「ボランティア活動にも参加してほしい」とお願いをしなければいけなかったので、それを理解してもらうのが大変でした。でも今は、レディー・ガガやリアーナなどが参加してくれたことで、その交渉は楽になりましたね。有名なアーティストがたくさん参加して共感してくれているので、昔ほど理解してもらいにくいことはなくなりました。


ーーとくに積極的に参加してくれたアーティストは?


スティーブン:レディー・ガガの影響力や彼女の協力的な姿勢は一番すごかったですね。レディー・ガガは親日家で、日本初開催(2014年)のときにもセレブレーション(ライブイベント)に参加したボランティア対してビデオメッセージをくれました。それは会場に来てくれた人たちのためだけのメッセージだったので広く公開はされていませんが。それくらい協力的で、ボランティアに対する思いが強い人ですね。あとは、バスタ・ライムスというラッパー。見た目は強面な感じだけど、ボランティア活動を一生懸命やってくれました。そのギャップにも影響力がありましたね。彼はRockCorpsのコンセプトにすごい共感してくれていて、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ヨハネスブルグ、ロサンゼルスでの開催に参加してくれました。


ーーすごいですね!


スティーブン:彼は自分なりの言葉でボランティアに対する思いを伝えてくれる。その姿勢が素晴らしい。本当に純粋な言葉こそがパワーを持って広がっていくんです。彼のことは大好きです。


ーーライブだけではなく、アーティストもボランティア活動に参加するということもRockCorpsの特徴のひとつです。


スティーブン:音楽だけでメッセージを発することはもちろんできますが、実際にボランティアを体験した人の言葉というのは、よりリアルに伝わる。一昨年、ニーヨが浪江町の仮設住宅でボランティア活動をしましたが、そのときの写真や言葉は世界中に広がりました。音楽の力はもちろん大事ですが、実際にボランティアをすることによる伝達力や影響力は全然違ってくるんです。


■日本でやるのであれば東北を助けたい


ーーRockCorpsは各国でこれまで50回以上開催されているとのことで、恒例行事になりつつある国もあるのでは。


スティーブン:そうですね。ただ、このイベントを恒例にするというよりは、ボランティアを人々にとって恒例なものにしたい。生活の一部にボランティアがあって、Facebookでみんなが食べ物や友達の写真、観光地に行った写真を上げるような感覚で、「ボランティアをやったんだよ」というのが日常で見られるようなものにしていきたいという思いがあります。


ーー日本は今年で3回目となりますが、日本開催のきっかけは?


スティーブン:もともとずっとアジアで開催したいという思いがあって、6年くらい前から準備を始めていましたが、途中で東日本大震災が起きました。直後はもちろんイベントなんてやっている状況ではないので、多少生活を取り戻して、心の傷が癒えるまで待とうと思いました。3年経った2014年にRockCorpsをやることになったとき、あの震災を無視することはできなかった。日本でやるのであれば東北を助けたいという思いで、福島で開催することを決めました。


ーー構想はもともとあったけれど、開催が少し後ろになったということですね。


スティーブン:そうですね。


ーー日本で開催するにあたり、苦労されたことはありますか?


スティーブン:東日本大震災は世界でもとても大きなニュースになったので、海外のアーティストに福島で開催するということを説明するのが難しかったです。福島に対するきちんとした情報を伝えて安全だということを理解してもらい、納得してもらうということ。ニーヨが一番最初に来て実績を作ってくれたことで、大丈夫になっていきましたけど。なので彼には本当に感謝しています。


ーー日本のアーティストはどうでしたか?


スティーブン:日本のアーティストに対しての悩みはなかったです。挙げるとすれば、素晴らしい方々がたくさんいるので、海外のアーティストとうまくコラボレーションして、いいかたちでマッチングする人を選ぶのが大変でした。贅沢な悩みです。あとは、ボランティア活動に参加してもらうという、自分たちが一番最初にアーティストに説明することが難しいと感じたことは日本でも同じでしたね。


ーー個人的な印象ですが、日本は海外に比べて、ボランティアに参加することを恥ずかしいと思ったり、大きな声で「参加します」と言うことをためらう人が多いような気がします。


スティーブン:確かにそうかもしれません。でもそれは海外のアーティストにとっても難しいことで、どういうトーンでボランティアのことを話せばいいのかということを悩むんだと思います。それぞれのキャラクターももちろんありますし。だから私は彼らに「ボランティアをします」とか「かっこいいことなんだ」とか無理して言うのではなく、「体験して感じたことを自分のオーセンティックな言葉で話してもらえるだけでいい」と説明しています。


ーーなるほど。その一言があるだけで、アーティストも気持ちが楽になるというか、参加しやすくなるかもしれないですね。


スティーブン:無理して自分を変えてやることじゃなくて、自然にやっているということが見ている人たちにも伝わればいいかなと。


ーーアーティストもボランティア参加者も同じということですよね。


スティーブン:そうですね。またRockCorpsはボランティアの人たちがスターであって、そのスターのためにアーティストが歌うイベントなんです。普通のライブはスターを見たくてみんなが集まるけれど、RockCorpsはボランティア参加者を称えるためにアーティストが集まるという逆の考え方。だから普通のライブとは立場が逆転したような、そういうスペシャルなライブが楽しめます。


ーーライブでの盛り上がりも普通のライブとは違うんですか?


スティーブン:すごいユニークですね、全然違います。普通のライブは友だち2~3人とやって来て、その他の観客がいっぱいいて、そこでアーティストがパフォーマンスをして……会場に本当の意味での一体感が出るのに少なくとも1時間はかかるでしょう。でもRockCorpsは、すでにいろいろなグループの人たちと繋がりが生まれている状態。会場には、一緒にボランティアプロジェクトをした人、違うプロジェクトに参加した人が集まって、みんな同じ気持ち、同じ体験をして参加してきた人たちが集まります。だから会場に入った途端、30秒でみんなが一体になって盛り上がることができる。それはすごい感覚です。僕自身、人生で2000回以上はライブを見に行ったことがありますけど、RockCorpsのコンサートだけは違う雰囲気です。


ーーそれはライブの光景を見てみたくなってきますね。


スティーブン:ぜひお願いします(笑)。


■きっかけができれば、その後もボランティアを続けてくれている人がいる


ーーボランティアプロジェクトもさまざまな種類が用意されていると聞きました。


スティーブン:農家でのお手伝い、仮設住宅に行って住宅施設の清掃、海岸の清掃など、本当にさまざまな種類のボランティア活動があります。東京でのボランティアもありますし、インドアなものもあるので、体力に自身のない方も参加することができます。


ーー今年の参加アーティストについてもお伺いしたいと思います。


スティーブン:まずカーリー・レイ・ジェプセンを選んだ理由としては、日本と繋がりがあるアーティストということ。彼女は日本のことが大好きで、ポジティブな考え方を持っている。そしてなによりもライブのパフォーマンスがとてもよい。オーディエンスとの関わり方も上手で、会場を盛り上げることができるアーティストだと思います。


ーー日本のアーティストはいかがでしょう?


スティーブン:同じような要素を持った人たちではなく、それぞれが引き立つような違うタイプの音楽を常に集めるようにしています。ASIAN KUNG-FU GENERATIONは言葉に力のあるアーティスト。カーリーとは違ったものを提供してくれると思います。HYもまた違うタイプの音楽性で、バラードのような聴かせる楽曲もある。アンバサダーの高橋みなみさんは、日本のアイドルシーンの第一線を走ってきた方なので、そういう要素も取り入れたかった。最終発表されたAqua Timezも音楽性は違うけれど、HYファンの人、アジカンファンの人が彼らを知らなくても「このアーティストもいいね」と思ってもらえるのではないかと。それぞれの音楽を知らなかった人でも楽しめるような人たちを選びましたね。


ーー今回の開催は、これまでと変わったところはありますか。


スティーブン:特別な感情はあります。3.11から5年が経った節目の年なので。そして今年の夏はオリンピックもあって、次の2020年に向けて東京にも注目が集まる年だと思います。日本自体が世界からの注目を集める年になると思いますが、福島は震災から5年経った今も、まだまだ復興にいろいろな人の力が必要だということをRockCorpsを通して世界中の人に知ってもらえるきっかけになればと思います。そういう特別な思いや感情があります。


ーースティーブンさんからみて、ここ数年で日本人のボランティアに対する思いに変化はあったと思われますか?


スティーブン:僕の一番の喜びは、ボランティアに行って昨年も一昨年も参加してくれる人たちに会うことができること。その方たちが自分のところに来て「ボランティアをしました」と言ってくれたり、ソーシャルメディアを通じて「ボランティアをしてきた」ということを書いてくれているのはすごく嬉しい。きっかけができれば、その後もボランティアを続けてくれている人がいるのかなということは感じました。


ーーRockCorpsをきっかけとして、ボランティア自体に興味を持たれる方が少しずつ増えてきているんですね。


スティーブン:そうですね。これをきっかけに、もっともっとさまざまなボランティアをしてもらえたら嬉しいですね。RockCorpsは、石を池に落としたときに水しぶきが広がる、その石でありたい。きっかけであって、あとは自然に広がっていくという、そういうものでありたいなと思っています。