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雑誌からウェブへ、資生堂「花椿」大転換の理由は

2016年07月12日 12:42  Fashionsnap.com

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リニューアル後のWEB版「花椿」トップページ
資生堂が企業文化誌「花椿」の月刊誌を廃止し、ウェブサイトをリニューアルオープンしてから約1ヶ月が経った。オウンドメディアの先駆けでもある同メディアの"紙からデジタルへの移行"は業界に驚きを与えたが、「大事なのは月刊誌を残すことではなく『花椿』を残すこと」という決断のもと再スタートを切っている。20代の認知度が3%だったという「花椿」を、どのようにして20~30代がメインユーザーのメディアに変えたのか。樋口昌樹編集長に聞いた。

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 「花椿」は、資生堂化粧品の愛用者組織「花椿会」の発足に合わせて「資生堂グラフ(旧:資生堂月報)」を一新し、1937年11月に創刊。美容・化粧情報をはじめ、文芸やカルチャー、ファッション、食文化、海外トレンドなどを幅広く取り上げ、最盛期となった1960年代後半は発行部数680万部のメディアに成長した。1970年代になり女性誌が台頭すると、部数は3万部に減少。2012年に会報誌という原点に戻り、定価100円で販売していた雑誌を店頭限定で入手できる月刊の無料冊子に転換した。一時的に発行部数を増やしたがその後は右肩下がりが続き、存続が危ぶまれていたという。全面的な見直しが決まった2015年4月、樋口編集長が就任した。
 「花椿」が抱えていた課題は20代へのリーチを高めること。「3~4年でスマートフォンが大きく普及するなど、環境は大きく変化した。その状況下で20代女性に対して店頭配布限定の雑誌でコミットすることは難しい」と考えた樋口編集長は、2015年12月号をもって約78年間続けてきた月刊誌を廃止。2016年からはウェブを若年層に向けた"タッチポイント"と位置づけ、注力することに決めた。
 リニューアル後のウェブ版「花椿」は今年2月にティザーサイトを公開し、同年6月にグランドオープン。コラムだけではなく、ラジオや動画、GIFアニメといったウェブならではのコンテンツをそろえている。特に人気があるのは、"媒体への入口"と位置づけている今日マチ子による「ハナツバキコミック」。史上初の漫画コンテンツとして月4回更新している。コラムは読み手の趣味嗜好に合わせ「なんとなく知っているけど実は知らないもの」をコンセプトにするなど、「あえてトレンドを追わず、情報過多な現代社会で読者が信頼できるコンテンツを発信すること」を意識しているという。樋口編集長は、最も変わった点として「これまでは作り手のこだわりを重視していたが、今は読者が"親しみやすく共感できる"コンテンツ作りを目指している」と挙げている。これらの方向転換が功を奏し、リニューアル前のユーザー層は50代男性が7割を占めていたが、現在は女性の比率を66.5%まで引き上げることに成功。その約半数が20代~30代の女性だ。また、月間PVは年内の目標に掲げていた10万PVを達成した。
 ウェブをメインにしながら「紙の世界でしか表現できないこともある」として、雑誌は季刊で発行。以前の約2倍の80ページで構成し、ウェブのコンテンツを転載するのではなくオリジナルで作成する。今秋に発刊する第1号は「タッチ」をテーマに特集。リニューアル前と同様に無料で配布する。樋口編集長は「ウェブで『花椿』を知ってもらった人に店舗にも足を運んでもらえたら」とこれまで少なかったという若者の来店増加も期待する。2017年からは年4回ペースで発行する計画。コアなファンに向けたコレクターズアイテムとして合本の制作も予定しており、ウェブ・季刊誌・合本の3本柱を軸に読者層の拡大を狙う。
■花椿