2016年07月12日 10:01 弁護士ドットコム
「職場でストーカーのような異性がしつこくて困っています」。Yomiuri Online「発言小町」に、眼中にない異性からつきまとわれているという相談が寄せられました。
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投稿によると、その相手はかなり年上で、「一緒にいても交際相手というよりは親子にしか見えません」とのこと。普段仕事で関わることも多く、席も近いそうです。投稿者は相手に全く恋愛感情を持てませんが、「あまり脈がないような感じで対応しても、相手は全くそれに気づいていないかのような素振りでしつこい」といいます。
相手は、投稿者にしつこくつきまとう一方、陰では、他の社員たちに投稿者の陰口を言いふらしているそうです。投稿者によると、「他の人たちを私に近づけないように悪口を言って裏工作していることもある」といいます。
「どういった対応をしたらいいでしょうか」と困惑する投稿者に対して、レスには、「自分だったら相手に困ってる事を伝え、法律仄めかすかな」などのコメントが見られました。
職場で特定の人物につきまとわれて困っている場合、どのように対処すればいいのでしょうか。浅野 英之弁護士に聞きました。
(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムが再構成したものです。トピ「眼中にない職場の人に交際を迫られた。法的な対処法はある?」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0614/766026.htm)
●ストーカーに該当しなくても、セクハラとして処分対象になりうる
「ストーカー行為」は、ストーカー規制法によって定義され、禁止されている行為で、「恋愛感情やそれが満たされなかったことから生じる怨恨の感情を満たすため、つきまとい等を反復してする行為」と定義されます。この「つきまとい等」には、8種類の行為があるとされています。
大まかにいうと、(1)つきまとい、待ち伏せなど、(2)行動の監視、(3)面会、交際などの要求、(4)著しく粗野または乱暴な言動、(5)電話やメールを連続して送信することなど、(6)著しく不快な物などを送ること、(7)名誉を侵害すること、(8)性的羞恥心を害すること、の8つです。
たとえば、職場でのストーカーといったケースで、ストーカー規制法で制限される典型例としては、「一緒に帰ろうとして毎晩会社の正門で待っている」、「会社内で共有されている社内アドレス宛てに、ランチやディナーへの誘いを何度も送る」などといった行為が考えられます。
また、「嫌がっているのに肩を揉む」「『~ちゃんかわいいね』など職場で不適切な言葉遣いを繰り返す」など、この(1)~(8)に該当するかどうかが微妙な行為であっても、許されるというわけではありません。
ストーカー規制法上のストーカー行為として禁止されていなくても、相手が嫌がる行為を続ければ、セクハラに該当することを理由に会社から処分を受ける可能性があります。さらに、民法上の不法行為に該当するとして損害賠償を請求されたり、刑法上の強制わいせつ罪などにあたるとして刑事処罰を受ける可能性もあります。
●会社がセクハラの加害者を異動、懲戒処分する場合も
今回のケースでは、投稿者が相手からどのくらいの頻度で何をされているのかが不明ですが、ここでは、職場で特定の人物からセクハラを受けている場合に、会社に対してどのような対処を求められるのかを解説します。
会社は、従業員からセクハラの被害を申告された場合には、適切な対応を行わなければなりません。また、セクハラ被害を申告された後の対応だけでなく、申告される前の予防対応や、再発防止などの努力をする必要もあります。
会社がこのような努力を怠り、不幸にも深刻なセクハラ被害が起こってしまった場合、被害者は、加害者に対して損害賠償を請求することに加えて、会社に対しても、労働者が安全に働ける環境を提供するという義務に違反したことを理由に、損害賠償を請求できます。会社が負うこのような義務を、「安全配慮義務」「職場環境配慮義務」などと呼びます。
セクハラの事前予防や、セクハラ被害の申告への対応として、会社が具体的に何を行うべきかは、厚生労働省の出している、いわゆる「セクハラ指針」に詳しく記載されています。
たとえば、従業員からセクハラ被害の申告を受けた場合、会社の適切な対応としては、まず、被害者、加害者と会社の責任者が面談をして入念な事情聴取を行います。そして、会社が確定した事実に基づいて、加害者に対する異動、懲戒処分などの対応を行うこととなります。
懲戒処分の中で最も重いものが「懲戒解雇」ですが、セクハラ被害の申告に対応して、会社が加害者を懲戒解雇できるかどうかは、セクハラの種類、内容、頻度、悪性によって異なります。
ただ、少なくとも、再発を防止するために、加害者と被害者とを同じ場所で今後も働かせることは避けなければなりません。そして、加害者の被害者のどちらかを異動、退職などといった形で動かす必要があるならば、被害者を動かすことは適切ではなく、加害者に対する処分の形で実行すべきであるといえます。
【取材協力弁護士】
浅野 英之(あさの・ひでゆき)弁護士
離婚・交通事故・刑事事件・相続など個人のお客様のお悩み解決実績、相談件数を豊富に有するほか、労働問題を中心に多数の企業の顧問を務める。
東京都新宿区、四ツ谷駅至近にて、浅野総合法律事務所を設立、代表弁護士として活躍中。
事務所名:浅野総合法律事務所
事務所URL:http://asano-lawoffice.com/