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高橋一生の存在感が高まっている理由 名バイプレイヤーの“役作りしない演技”から探る

2016年07月11日 22:41  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 高橋一生の子犬のような可愛らしい笑顔に、胸をトキメカせる女性たちの声が目立っている。SNSでは「高橋一生さんかっこよすぎてやばい。あの人出てるドラマ全部観たくなる」「本当に引き込まれる演技をする」「ゾッとするほど演技がうまい」「もはや尊い」など、演技・容姿ともに絶賛の声があがっている。そんな高橋は、今年だけでも多数のドラマや映画に出演する。例えば、7月22日から放送される『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』(テレビ朝日系)では、官邸食堂の料理長・清沢晴樹役、7月29日に公開される『シン・ゴジラ』では文部科学省の官僚役を演じる。数多くの作品に出演しているが、ほとんどの役どころが“助演”である高橋。しかし、我々視聴者の目をひき、時には主演俳優を食うほどの存在感をも示す。


参考:『民王』はなぜ中毒性が高い? おバカとシュール、2重構造の“笑い”


 高橋が広くお茶の間に親しまれるようになったキッカケの1つが、2015年に放送された『民王』(テレビ朝日系)だろう。遠藤憲一と菅田将暉演じる100代及び101代内閣総理大臣・武藤泰山の公設第一秘書である貝原茂平役を演じた。無表情でクールな性格だが、女性には不馴れで弱い。武藤泰山に対して物怖じせず、辛辣なツッコミをサラリと入れる、毒舌なキャラクターだ。この役で高橋は、第86回ザテレビジョンドラマアカデミー賞などで助演男優賞を受賞した。高橋自身も、当時のインタビューで「この『民王』というものが、今後作品に出ていく中での指針になっていくことは間違いないと思います」(引用:「初恋の相手にビンタされた」今最も注目を集める俳優・高橋一生インタビュー)と、その手応えについて語っている。


 同ドラマのスピンオフで主役を務めた際には、「レギュラー放送から少し時間が空いている分、役柄が進化してるというか、役柄にも日常があって、人に対する接し方もどんどん変化していく。そういうものをずっと表現してみたかったんです」と、想像力を駆使しながら役柄に挑んでいることを明かし、「“これを高橋一生にやらせたらどうなるんだろう?”って冒険してもらえるよう、皆さんの想像力を刺激できる俳優でありたいです」(引用:「民王 番外編 秘書貝原と6人の怪しい客」主演 高橋一生 インタビュー)と、目標を語っていた。


 高橋が人々を惹きつけてやまない理由の1つは、挙動の生き生きとしたリアリティだろう。その自然な演技は、作品の世界に溶け込み、奥行きを与えている。演技のスタンスについて、高橋は「演じる役は全て自分だと思っています。基本僕は役作りをしないんです。じゃないと自分を納得させることが出来ないし、役として存在する実感が沸かない」(引用:「初恋の相手にビンタされた」今最も注目を集める俳優・高橋一生インタビュー)と語っているほか、『夜のせんせい』(TBS系)で山田一郎役を演じる上で気をつけることは?と聞かれた際には「自分の役柄がどうこうではなくて、共演される皆さんとのバランスですね。一緒に演じている方たちとの距離感だったり現場の雰囲気など、こんなとき一郎だったらどうするだろう? ということを考えながらも、一郎を演じる上でこれをやったらダメという足かせはしないよう気をつけています」(引用:インタビュー|TBSテレビ:金曜ドラマ「夜のせんせい」山田一郎役高橋一生)と応じ、周囲との関係にも気を配る勘の良さを見せる。


 他の近しいキャリアの俳優と比較すると、高橋の特異性はより際立つ。たとえば、同じように助演として存在感を発揮する安田顕や大森南朋らは、ダンディーな男という印象が強い。しかし、高橋は35歳とは思えない可愛らしさと大人の色気をあわせもつ。その“ギャップ”もまた大きな魅力のひとつだ。高橋はキャリアが長く、1990年に公開された『ほしをつぐもの』で子役としてデビューを果たしている。その後も順調に出演作を重ね、ジブリアニメである1991年の『おもひでぽろぽろ』、1995年の『耳をすませば』では、声優としても活躍。脇役が多いため、主役を張る俳優のように一気に知名度が上がることはなかった高橋だが、ゆっくりと、だが着実に「あ、この人見たことあるよね」を積み重ね、名実ともに頭角を現してきた。しかしながら、そのキャリアによって固着したイメージに囚われることはなかった。常にフレッシュさを保っているのが高橋の稀有な部分で、それが可愛らしさと高い演技力というふたつの特性を両立させているのではないだろうか。


 海外の戯曲などもよく読んでいるという努力家な高橋は、独特な感性をもち、演じることを誰よりも楽しむ。役に命を与え、作品そのものを輝かせる高橋の才能は、これからも多くのファンを生み出すに違いない。


(文=戸塚安友奈)