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島崎遥香は霊にも“塩対応”だった? 『ホーンテッド・キャンパス』で見せた無色透明の演技

2016年07月10日 16:31  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 現在公開中の映画『ホーンテッド・キャンパス』。第19回日本ホラー小説大賞の読者賞を受賞した小説を原作とした青春映画だ。幽霊が見えることに悩む主人公の八神は、一浪して入った大学で、高校時代に片思いをしていた後輩・こよみと再会。彼女と一緒にいるために、オカルト研究会に入った彼はそこで次々と怪奇現象と対峙していく物語だ。


参考:佐津川愛美こそ2016年のホラークイーンだ! 『貞子vs伽椰子』『ヒメアノ~ル』で見せた戦慄


 劇中にはふたつの恐怖エピソードが登場し、骨董品マニアの学生が引越しのたびに部屋の壁に女性の顔のシミができることを相談する前半と、大学内で自殺した女子高生の霊を呼び出そうとする後半に大きく分けることができる。中山優馬演じる主人公の八神と、オカルト研究会のメンバーで大野拓朗演じる黒沼だけが霊が見えるという設定のため、基本的なホラー映画の、「恐怖体験をしている人物から恐怖を得る」という仕組みと正反対のアプローチをしているのが面白い。


 登場人物のほとんどが霊の存在に気が付いていないけれど、霊が見える主人公の主観が中心となっているので、観客にも霊が見えるという仕組みなわけだ。よって、霊が見えない他の登場人物たちが繰り出す、軽いタッチの青春ドラマが、とてつもなく不気味なホラー描写を引き立てるのだ。これはなかなか珍しいタイプのホラー映画なのではないだろうか。


 そう考えると、昨年の秋に公開された映画『劇場霊』で球体関節人形に追いかけ回される主人公を演じ、すっかりホラー女優として開眼したばかりの島崎遥香が活きないと思ってしまうが、決してそんなことはない。恐怖に怯える姿こそないものの、彼女が演じるヒロイン・こよみは、「無色透明」な性格であるがゆえに、霊が憑依しやすいという設定で、何度も危険に晒されるのである。


 そんな島崎遥香の「無色透明」な演技は、一見すると彼女の十八番である“塩対応”を思い起こさせるほどに、抑揚がない。それでも、表情に感情が現れなくとも、行動で中山優馬演じる八神への想いを観客に認識させるのだから、決してまずい芝居というわけではない。それどころか、空回り気味な主人公と、クールで物静かなヒロインとのコントラストもまた、作品の中心にある青春ドラマにユーモアを与えてくれるのである。


 中山優馬といえば、2008年のNHKドラマ『バッテリー』で主演デビューを飾った時にはジャニーズ俳優としての将来性を感じさせられたが、その後なかなか作品に恵まれている印象はなかった。とはいえ、出演するなら主演かゲスト出演のどちらかという時期に比べると、事務所の先輩である香取慎吾主演のドラマ『SMOKING GUN~決定的証拠~』などで見せた脇を固める演技も身に付いてきているあたり、着々と成長してきているようだ。


 最近は舞台での演技も増えてきている一方で、音楽活動も精力的に行っている。今後演技か音楽かのどちらかを活動の中心に選んだとしても、どちらでも問題なくこなせるだけのポテンシャルの高さを感じる。個人的には、今年春にスクリーンデビューを果たした『関西ジャニーズJr.の目指せ♪ドリームステージ!』での役柄のように、舞台俳優を目指して邁進していくことを期待している。


 そんな彼のホラー演技といえば、やはり2011年に放送された『ほんとにあった怖い話』の「奇怪な最終バス」のエピソードだろう。この作品でもまた、部活帰りのバスで予期せず幽霊の姿が見えてしまう役どころであった。今回の『ホーンテッド・キャンパス』では、霊の対処まで行えるようになるのだが、はじめはただ見えているだけの幽霊にあくせくしている姿を見せるだけに、この5年前の短編のことを思い出すと何だかとても面白く見えてくるのだ。


 ジャニーズとAKBの共演作というと、島崎遥香の出演作でもある『私立バカレア学園』のようにファン層を重点的に狙ったような作品のイメージで、どうしても敬遠されがちだが、本作は主演二人のアイドル性と個性を存分に活かした正統派アイドル映画として評価できよう。もちろん、オカルト研究会の部長役で出演しているLove-tuneの安井謙太郎の体を張ったコミカルな演技も忘れてはならない。(久保田和馬)