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証拠があなたを守る 「浮気LINE」の残し方、3つのポイント

2016年07月10日 08:12  弁護士ドットコム

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LINEにTwitter、Facebook――。様々なSNSが花盛りの昨今では、こうしたツールが原因で配偶者の浮気が発覚するケースが増えている。


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浮気が確実なものであれば、裁判で離婚できる。しかし日本ではどんなに離婚したくとも、いきなり離婚訴訟を起こすことはできない。当事者同士で協議して折り合わなければ、次のステップは調停員を間に挟んで話し合う離婚調停になる。どの過程でも大切なのが、証拠だ。不貞行為の確実な証拠があれば、裁判はもちろん、交渉や調停も有利に進めることができる。



例えば近年、ベッキーさんの不倫騒動などでも注目を浴びたLINE。LINEをきっかけに配偶者の浮気が分かった場合、どのように証拠を残したらよいのか。事例をもとに、IT法務に詳しい木村康紀弁護士に意見を聞いた。



●木村弁護士が語る「3つのポイント」


不貞行為の証拠を集める際は、以下の3点を意識するとよいと思います。



(1)一つの証拠だけで戦わない。最初に見つけた証拠をきっかけにたくさんの証拠で合わせ技一本を目指す



・離婚訴訟で不貞行為があったことを認めてもらうのはハードルが高い


・ラブホテルや不倫相手と行ったと思われるレストランの領収書、クレジットカードの明細書なども有力な証拠になりうる


・最近はLINEをはじめ、自分で集められる証拠が増えている



(2)なるべく改ざんを疑われないような残し方をする



・デジタルデータは転送せず、画面をそのまま撮影する


・LINEは一括ダウンロードも有効



(3)プライバシー侵害や不正アクセス禁止法に抵触しないように気を付ける



・プライバシー侵害を避けるために、浮気の事実を掴んだ上で、相手に自ら見せてもらう手も


・不正アクセスを避けるために、カギとなるのが「機内モード」


・相手のSNSへのログインを試すのは危険



具体的にはどういうことなのか。事例をもとに説明してみよう。



●事例:夫のLINEのスマホ画面からトークがポップアップ


29歳のAさんは和歌山県在住の専業主婦。夫(31)の転勤を機に退職し、東京から和歌山県引っ越した。結婚4年目で、子供はいない。



営業職の夫は接待で飲み歩き、帰宅が午前になることも。また、月に1回、本社で行われる会議に出席するため、東京に泊りがけで出張していた。



そんなある日、酔って帰りスーツ姿のまま、いびきをかきだした夫のスマートフォンの画面に、LINEのトークがポップアップした。「あや」というアカウント名で「次の出張はいつ?また泊まってってね」。



青ざめたAさんは、とっさにその画面を自分のスマートフォンで撮影。もともと東京でのキャリアに未練があった彼女は、夫と離婚して帰京し、再就職したいと考え始めた。LINEを撮影した画像をもとに、夫を問い詰めようかと考えているが、夫がしらばくれないか不安でもある。



Aさんが撮影したLINE画像は浮気の決定的な証拠になるのだろうか。



●木村弁護士「これだけでは確実な証拠とは言えない。より証拠集めを」


この1回のLINEのやり取りだけでは証拠としては弱いですね。「ただの友達」「ホテルに帰るのが面倒くさくて、1回泊めてもらっただけ」と言ったように、ごまかされてしまう可能性があります。



ここで大切なのが<ポイント1:一つの証拠だけで戦わない。最初に見つけた証拠をきっかけにたくさんの証拠で合わせ技一本を目指す>です。もう少し関係に継続性があり、肉体関係があることをはっきり証明できるような証拠を集めたほうがよいでしょう。



●特別なスキルがなくても、証拠は自分で集められる


――他に証拠を集めるといっても、Aさんは現在専業主婦で、特別なスキルはありません。高額な興信所を使うのも厳しいですが、大丈夫ですか?



興信所を使わなくても、自力で証拠を集める余地はまだまだあると思います。特別なスキルも必要ありません。



LINEに限らずいえば、ラブホテルや不倫相手と行ったと思われるレストランの領収書、クレジットカードの明細書も証拠となり得ます。また、継続的にLINEを見ていれば、2人がイチャついた写真や、性行為があったことが確実に推認できる親密なやりとり見つかることもあると思います。



裁判では、興信所を利用せず、不貞行為を認めたケースは昔からありますし、近年では、興信所を使っていないケースで、LINEを主な証拠として不貞行為を認めたものもあります。LINEは直接言葉をやり取りするので親密さも分かりやすいですし、肉体関係があると分かるような直接的な表現がなされていれば、不貞行為があったことを示す重要な証拠となります。



――そのようなやり取りを見つけたら、どうやって残しておけばよいのでしょうか?



<ポイント2:なるべく改ざんを疑われないような残し方をする>ですね。まずLINEは、デジタルデータです。以前は「デジタルデータは改ざんされやすいので、証拠としての価値が低い」とされていました。しかし近年は、デジタルデータの証拠が増えてきていますので、昔ほど厳しくはありません。そうであっても、改ざんされたものであると言われにくい形で証拠を残しておくことが望ましいです。



この点を重視すると、LINEのやりとりをご自身の携帯に転送するのではなく、LINEのやりとりが表示されている夫のスマホそのものを、写真撮影しておくのが良いと思います。できれば、そのスマホが夫の携帯であることが分かるよう、携帯番号が表示されているプロフィール画面も撮っておくとよいです。



また、LINEは、やりとりが多くすべてを写真撮影で証拠として残す余裕がない場合もあると思います。そのようなときには、LINEには一括ダウンロード機能があります(2016年6月現在)。この機能でトーク内容をダウンロードしておけば、相手とのやり取り全てをタイムスタンプ(日付・時間)付きで、テキストファイルで残せますので有効だと思います。



●削除されてしまっても、諦める必要はない


――こうした証拠をとれたとしても、相手がLINEのIDやトーク履歴を削除してしまった場合はどうなりますか?



削除のタイミングによっては、それもまた証拠になります。削除されてしまうと、撮影した画像のIDが相手のものである証拠がなくなり、不安に思われるかもしれません。しかし実際の裁判では、本人性が最後まで問題になることは少ない印象です。本人同士の協議ならともかく、調停、裁判と進んでくると、他の証拠と矛盾なく白を切りとおすのは難しいものです。



特に離婚訴訟まで争われた場合、トークの内容が双方の争いのない事実と矛盾がないか、他の証拠と整合しているか、内容が改ざんされたものである可能性の高低等から裁判所が判断することになります。IDやトーク履歴を削除されたということだけで、諦める必要はありません。



――夫のスマホを勝手に操作して、勝手にLINEのトーク内容を見たり、それを写真に撮ったりすることは、プライバシーの侵害や不正アクセスに当たらないのでしょうか?



<ポイント3:プライバシー侵害や不正アクセス禁止法に抵触しないように気を付ける>には、細心の注意を払う必要があります。プライバシー侵害や不正アクセスに当たるような証拠の集め方をしてしまうと、その証拠が採用されないばかりか、最悪の場合は相手方から訴えられる危険性もあるからです。不正アクセスについては、刑事罰もあり得ます。



まず、プライバシーの侵害については、夫婦といえども無断で他人の携帯を見れば侵害になります。そのようなプライバシーの侵害をして見つけた証拠であっても、民事訴訟においては、一律に証拠として使ってもらえない訳ではありませんが、まれに証拠として使ってもらえなかったケースもあるようです。



●証拠を握った上で、自ら見せてもらう


収集した証拠がプライバシーの侵害をしていることは、現実には良くあります。強引な収集をしていた場合など不安があるようであれば、突然、調停を申し立てるのではなく、当事者同士の話し合いの場を持ち、本人に自ら証拠を見せてもらうか、白状させることで不安な証拠を使うのをできるだけ避けるのも一つの戦略だと思います。



――例えば、「正直に言ってくれたら許すか『考える』」と言って夫にスマホを見せてもらう…とか?



そうですね。相手に自ら見せてもらった画面を撮影し、できれば浮気を白状している音声も録音しておけば万全です。ここまで揃えば、かなり有利に事を運ぶことができるでしょう。



不正アクセスについては、携帯に既に保存されているデータを見る限りでは問題ありません。LINEのトーク履歴も、基本的には、携帯に保存された箇所だけを見る分には不正アクセスにはあたりません。ただ、LINEもそうですが、アプリを開くと勝手にインターネットにアクセスしてしまうアプリもありますので、アプリを開く前に、携帯を機内モードにするなど通信を切ってから見た方が良いです。



――反対に、やってはいけないことはありますか?



思い当たるIDとパスワードを片っ端から入力してログインを試す…といった行為は不正アクセスに当たる可能性があります。これはLINEに限らず、他のSNSも同じです。



――浮気を疑ったとしても、確実に離婚したいならば、ついカッとなって相手を問い詰めないことが重要ですね。でも、配偶者を愛していればいるほど難しいのかもしれません。裁判所は、証拠集めに協力してくれないのでしょうか?



裁判所にLINE株式会社に対して、文書提出命令を出してもらうことはできます。ただLINE株式会社が応じてくれるとは限りませんので、初めから当てにしては危険です。



●証拠が「譲れない何か」を守ってくれる


以上が木村弁護士の見解だ。最後に、3つのポイントについてもう一度確認しておこう。



<浮気の証拠の残し方 3つのポイント>



(1)一つの証拠だけで戦わない。最初に見つけた証拠をきっかけにたくさんの証拠で合わせ技一本を目指す


(2)なるべく改ざんを疑われないような残し方をする


(3)プライバシー侵害や不正アクセス禁止法に抵触しないように気を付ける



これらのポイントは、TwitterやFacebookといった他のSNSでも変わらないという。



一度は一生添い遂げようと結婚した相手。ただでさえ浮気でショックを受けているのに、ここまでしなければならないのかと感じるかもしれない。



しかしいくら夫婦といっても、離婚ともなればもはや「仁義なき戦い」である。親権か、財産か、はたまたプライドか――。あなたの譲れない何かを、守る手助けをしてくれるのが「証拠」なのだ。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
木村 康紀(きむら・やすのり)弁護士
企業法務を中心にしつつも、自身の能力が求められる案件であれば分野にとらわれず取り扱う。現在は内閣府大臣官房会計課に会計専門官として出向中であり制約はあるが、ベンチャー企業からの相談を無償で受けるなどの活動を継続している。
事務所名:増田パートナーズ法律事務所
事務所URL:http://www.msd-law.com/