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10-FEET主催フェス「京都大作戦」はなぜ特別な場所であり続けている? 2日間の熱狂を5つのポイントから解析

2016年07月09日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

10-FEET(写真=HayachiN)

 10-FEETが主催する野外フェス「京都大作戦2016 ~吸収年!栄養満点!音のお野祭!~」が、7月2日・3日、京都府立山城総合運動公園・太陽が丘特設野外ステージにて開催された。


 今年で9回目を迎えた同フェスは、2日間で延べ約4万人を動員。しかしその数字では測れない特別な雰囲気が、京都大作戦にはある。


 動員数だけで言えば、同じような規模の野外フェスは他にもあるだろう。ラインナップの傾向が重なるフェスも、きっとあるはずだ。しかし、あの場所にあるムードは、他の場所では決して味わえない。


 筆者が初めて「京都大作戦」を訪れたのは去年のこと。「すごい」という噂はその前から聞いていた。熱を込めてそれを語る人が周囲にも沢山いた。いわく、チケットが毎年アーティスト発表前に早々にソールドアウトする、お客さんが全員ゴミを拾って帰る、アーティストもほとんどが最後までバックヤードに残っている、と。確かにそうだった。筆者自身、これまで数々のフェスに足を運んできた。舞台裏を見る機会も少なくない。そういう視点で見ても京都大作戦は他のフェスとは一線を画している。


 では、京都大作戦は、実際のところ、何がどう特別なのか? それを2日間のアクトから見えた5つのポイントから振り返りたい。


■憧れの場所としての京都大作戦


 まず1つ目のポイントは、いまや多くの若手バンドにとって京都大作戦が憧れの場所になっている、ということ。


 それをまず実感させてくれたのが、1日目に出演したヤバいTシャツ屋さん。「貴志駅周辺なんもない」などネタ満載の楽曲とユーモラスなメンバーの掛け合いで客を笑わせていた彼ら。実はこやま(Vo/G)が宇治出身で、高校生だった初年度の2008年から毎年客として京都大作戦に訪れていたという。憧れの舞台に立ち、感無量の表情を見せていた。


 04 Limited Sazabysもそうだ。Gen(Vo/B)は「尊敬と憧れの詰まった京都大作戦に最高の形で戻ってくることができました!」とステージ上で叫んでいた。京都大作戦にはメインステージの「源氏ノ舞台」とサブステージの「牛若ノ舞台」の二つのステージがあり、小高い丘がそれを隔てている。去年に「牛若ノ舞台」をパンパンの入場規制にしたフォーリミは一年でその丘を越えて「源氏ノ舞台」に立った。しかも彼らが地元・名古屋で開催した「YON FES」は京都大作戦の影響を受けていることを公言している。


 WANIMAもすさまじい盛り上がりだった。彼らも2年連続出場で去年に「牛若」を入場規制にしたバンド。評判はあっという間に広まり、一躍シーンのニューヒーローへと駆け上がった。2日目「源氏」のトップバッターをつとめた今年は、貫禄すら感じさせるステージ。京都大作戦がメロディック・パンクやラウド・ロックのシーンを活性化させていること、10-FEETがバンドシーンの後輩たちに大きな影響を与えていることを感じる。


■ジャンルを超えたラインナップ


 そして、2つ目のポイントは、京都大作戦ではジャンルを越えたボーダレスなラインナップが実現していること。10-FEETが様々なアーティストと旺盛にコラボを繰り広げてきたこともあり、いわゆるラウド系のフェスとは違って、レゲエやヒップホップのシーンで活躍するアーティストも登場する。


 1日目には5年ぶりの出演となるライムスターが登場。「B-BOYイズム」~「ザ・グレート・アマチュアリズム」~「K.U.F.U.」とノンストップのメロディーで盛り上げ、新曲「スタイル・ウォーズ」でオーディエンスを熱く沸かしていた。


 2日目はFIRE BALL with HOME GROWNが登場。彼らも京都大作戦の常連だ。凄腕のバンドと4人の歌声が容赦なくテンションを上げ、「俺らはレゲエという音楽に生かされてここに立ってる」とピーター・トッシュやジミー・クリフの名曲をカバーしていたのも印象的だった。


 2日目のトリ前に登場した湘南乃風のステージも大迫力だった。フィールド後ろまでぎっしりと人が集まり、全員のタオルがグルグルと振り回される。ダンスホール・レゲエのグルーヴで否応なしにオーディエンスのテンションを上げていく。ヒット曲「巡恋歌」では10-FEETの3人も飛び入りし、「睡蓮花」でクライマックスを記録していた。


 ロックファンとレゲエファンが重なりあって一つに融け合う風景は、他の場所ではなかなか見れないだろう。これも京都大作戦ならではだ。


■数々の「伝説」が生まれるステージ


 3つ目のポイントは、京都大作戦が数々の名演が生まれる場所になっている、ということ。京都大作戦は、ベテランのバンドマンたちにとっても本気を見せる場所になっている。その代表筆は皆勤賞のDragon Ash。「The Live」や「百合の咲く場所で」や「Fantasista」など熱狂必至のナンバーを惜しげもなく披露。「ロックフェスはバンドのもんじゃねえ、金払ってるお前らのもんだ!」と叫び、強靭なステージを見せていた。


 1日目のトリ前をつとめたKen Yokoyamaもそう。「Punk Rock Dream」から「10-FEETが作ってくれた場所をお前らが守るんだよ」と語って「This is Your land」を披露。「I Won't Turn Off My Radio」と続け、「Ricky Punks III」をプレイする前には自らのスタンスをオーディエンスに語りかける。パンク・ロッカーとしての矜持を示すようなステージだった。


 ROTTENGRAFFTYやG-FREAK FACTORYのような10-FEETの盟友バンドたちは思いのこもった熱いステージを見せる。そして初登場のバンドは爪痕を残そうと全力を尽くす。だからこそステージでは、数々の伝説が生まれる。今年はコミックバンドの四星球がかなりの反響を呼んでいた。メンバー4人が白塗りメイクで登場、「運動会やりたい」でオーディエンスを紅組と白組にわけて競わせたり、セキュリティをパンツ一丁にしたり、全力でオーディエンスを笑わせていた。


 また、2日目のトリに「牛若ノ舞台」に登場したThe BONEZも伝説の一つとなった。ステージの電源が落ちるトラブルに見舞われ数十分の中断となってしまった彼らだが、その中断時間を観客として見に来ていたCOWCOWが「当たり前体操」で繋いだり、Jesseと仲間のミュージシャンがメガホンでフリースタイルラップを披露してリカバー。なんとかステージを貫徹した。来年へのリベンジの期待も含め、フェスとバンドが物語を生んだ瞬間だった。


■仲間意識とスペシャルなコラボ


 4つ目のポイントは、ここでしか見れないレアなコラボが多数飛び出すということ。主催者の10-FEETはトリに出演するだけじゃなく、ちょくちょく他のバンドのステージに飛び入りする。出演陣同士のコラボもある。


 今年は東京スカパラダイスオーケストラが「コラボ祭り」を見せてくれた。まずはTAKUMAを迎えて10-FEET「hammer ska」カバーを披露し、「閃光」では10-FEETの3人に加えてROTTENGRAFFTYのNOBUYA&N∀OKIも乱入。さらにはお揃いの白いジャケットに身を包んだKen Yokoyamaが登場して最新シングル曲「道なき道、反骨の。」と「Punk Rock Dream」のカバーを披露。スペシャル尽くしのステージだった。


 他にもリスペクトの意を込めて10-FEETのカバーを披露するバンドも多い。今年はWANIMAのKO-SHIN(G)がTAKUMAから貰ったというギターを掲げて「VIBES BY VIBES」をカバーし、Dragon Ashは「under the umber shine」をカバーしていた。そのたびにTAKUMAもステージに表れ、共演する。


 2日間のトリをつとめる10-FEETのステージでもコラボは目玉の一つだ。1日目の「super stomper」では、「ずっと太陽が丘を一緒に盛り上げてくれている仲間を呼んでいいですか?」とTAKUMAが告げ、屋内ステージ「鞍馬ノ間」で行われているバスケの3on3大会に出場している大阪籠球会のメンバーがステージに登場。バスケットボールを用いた鮮やかなダンスを繰り広げた。2日目では「STONE COLD BREAK」にFIRE BALLの4人が登場、「2%」ではアルバム『6-feat』でもフィーチャリング参加していた湘南乃風が飛び入りし、「RIVER」ではkjがオーディエンスを力強く煽る。まさにその日のオールスターが集うようなステージとなっていた。


 コラボを通して、10-FEETを中心としたバンドやアーティストたちの強い仲間意識が感じられるのが、京都大作戦という場所なのである。


■10-FEETが持つ巨大な求心力


 そして5つ目のポイントは、上とも重なるが、全ての出演陣からバトンを渡されてトリに出演する10-FEETが、とにかく素晴らしいライブを見せること。いまや日本のフェスシーンを代表するバンドになった10-FEETだが、京都大作戦で見せるライブでは他とは段違いの一体感が生まれる。「goes on」「4REST」「RIVER」「その向こうへ」など、クライマックスがずっと続くような熱狂に包まれる。


 今年はリリースを控えた新曲「アンテナラスト」が初披露されたことも大きかった。TAKUMAはMCで「過去の悲しみが今日の楽しさを照らしています」と語り、「お前らもいろいろあるんやろ! 絶対負けんなよ!」と叫び、切々と歌い上げるメロディからアグレッシブな爆音に展開する4年ぶりの新曲を披露した。この曲の持つとても真摯なメッセージ性が、オーディエンスの一人ひとりに伝わっているのも感じ取れた。


 以前に、当サイトの連載「フェス文化論」にて、怒髪天・増子直純、10-FEET・TAKUMA、G-FREAK FACTORY・茂木洋晃の3名に鼎談をしてもらったことがある。(参考:怒髪天・増子 × 10-FEET・TAKUMA × G-FREAK FACTORY・茂木、これからのフェス文化を語る


 そこで増子直純が語っていたのが、バックヤードの雰囲気はお客さんにも確実に伝わる、ということ。出演するバンド同士の結びつきの強さはステージ上にも必ず表れる。その結束力がオーディエンスに伝わるからこそ、参加者が「お客様」にならず、一人ひとりが主体性を持ってイベント全体を成功させる一体感が生まれる。


 いまやミュージシャン主催型フェスの代表格となった京都大作戦。その特別な雰囲気は、10-FEETというバンドが持つ求心力と信頼感、TAKUMAという人が持つ人間力そのものと、強く結びついている。


 だからこそ、京都大作戦はここまで広く、深く愛され続けているのだろう。(柴 那典)