F1の世界で最も人望の厚い人物のひとりが、今シーズン限りで引退することが発表された。FIAのオブザーバーと副レースディレクターを兼任しているハービー・ブラッシュだ。
ブラッシュの引退を多くの人間が惜しんでおり、日本のレース関係者も少なくない。1988年までブラバムのチームマネジャーを務めていたブラッシュは、ブラバムがF1から撤退したあと、ヤマハのスポーティングディレクターとしてヤマハF1活動を支えていた。
ヤマハがティレルにエンジンを供給していた1993年から1996年までは、当時ティレルのドライバーとしてF1を戦っていた片山右京を励ましていた。F1初入賞を果たした1994年のブラジルGPで、右京が「ハービーさんが、いい走りだったとほめてくれた」と喜んでいたことを思い出す。
ヤマハが1997年限りでF1を撤退すると、ブラッシュはFIAのオブザーバーおよび副レースディレクターに就任。1997年からFIAのレースディレクターを務めているチャーリー・ホワイティングを支えた。韓国GPの開催初年度にコースの一部が剥がれたとき、昨年のアメリカGPが大雨に見舞われたとき、マーシャルカーに乗ってコースを視察するホワイティングの横には、常にブラッシュが座っていた。
ブラッシュの温厚で懐が深い性格は、緊張感のあるサーキットにおいて、非常に重要な役割を果たしていた。各国のコースマーシャルたちとも厚い信頼関係を築いており、鈴鹿のスタッフとも強い絆で結ばれている。
ある年の日本GPで、こんなことがあった。レース前にブラッシュを乗せてホワイティングがコースを視察に出ると、あるコーナーでマーシャルが横断幕を広げていた。よく見ると「鈴鹿へようこそ。We Love Herbie」と書かれていた。この写真は、ブラッシュ本人が持っていたものだ。
今年の鈴鹿では、今季限りでF1キャリアに幕を引くことを決めたブラッシュを、どんな言葉が迎えるのだろうか。