思わず終わって、にっこり。レッドブルのエイドリアン・ニューウェイとクリスチャン・ホーナー代表が微笑んだ。オーストリアGPのフリー走行1回目で、ダニエル・リカルド5位、マックス・フェルスタッペン7位。フリー走行2回目で、そろって前進し、2位と3位へ。高速シルバーストンでモナコGPフリー走行1回目の1位と4位に匹敵する初日発進ペースに、レッドブル再進撃の予感がする。
いるべき人がいるとチームが引き締まって見える。ヨットのアメリカズ・カップ、ハイパーカーのアストンマーチンAM-RB 001、F1以外にかかわってきたニューウェイ。いまは2017年の新規定、大変更マシン・プロジェクトに取り組み始めていて、やる気満々とお見受けする。
「空力の天才」の透徹な目に、現在の技術をリードするメルセデスは、どう映るのだろう。以前あるメルセデス若手エンジニアに聞いたところ、現場に行かないスタッフたちが大勢いる部署は「空力科学研究センター」のような雰囲気だそう。若いエリート集団が次々にアイデアを出し、それが組織内で通る、風通しの良さがあるようだ。パワーユニットのアドバンテージだけではなく、W07シャシーのポテンシャルに結実していると想像できる。
極言的な表現かもしれないが、個の力レッドブルvs組織の力メルセデス、それが金曜のインプレッションだ。天才ニューウェイが、このスポーツから距離を置いていた間、彼らは異なるメソッドで追いつき追い越していった。毎レース、虫眼鏡で見ないとわからないような細かな部分をモディファイしてくる最強チームは、今季一度たりとも「同じマシン」のままではなく姿かたちを変えてきた。
メルセデスが投入するアップデートには失敗作がないよう映る。最初の走行でフロービズを塗りまくり、金網みたいな測定器具を装着して実地確認する他チーム。メルセデスW07では、あまり見たことがない。他チームがあわただしく、つけたり外したりして確認した末に「効果がないので今回は元に戻した」というケースは多い。一方、メルセデスの開発フローチャートは完璧に近い。
新アイデア・プレゼン→組織内採用決定→設計開始→現物製造→完成チェック(風洞)→速やかに現場へ→フリー走行で実走→タイムアップ→アップデート成功。この流れのどこかに誤りや時間ロスがあってはならない。流れ作業に従事する人々ほとんどは現場に行かず画面でレースを見つめる。そんな彼らに先日の最終ラップ激突は、どう見えたのか──。
くやしさ、虚しさ、情けなさ。個人的な見解を添えると、だから首脳陣は組織全体を代弁する意味で、ふたりのコース上の突っ張り合いに、最終警告をしたと解釈する。少年だったカート時代のように5戦で3回も、じゃれあうのは異常だ。誤解を恐れずに言うならアイルトン・セナとアラン・プロストは、いつもぶつかっていたわけではない。ミハエル・シューマッハもデイモン・ヒルやジャック・ビルヌーブに、あちこちで当たってはいない。
話をシルバーストンで第50回を迎える、イギリスGPに戻そう。EU離脱問題の余波やユーロ・サッカーの番狂わせ(イングランド大敗退)、もう終わりかけの夏模様と、市民に鬱憤がたまる現象が続く大英帝国だ。
ここで連勝中のハミルトンが日曜に勝ったなら3連勝、1960年代のジム・クラーク4連勝に次ぐ記録だ。伝統あるスポーツを歴史ある舞台で楽しみたい、初日から高齢ファンが集うスタンドに、ハミルトンはアウトラップ1周目から手を振って応えた。かつてのナイジェル・マンセルのように、先週あの表彰台ブーイングのあとだけに、彼らから勇気とパワーをもらったことだろう。