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高校生ドライバー佐藤万璃音イタリア挑戦記 第5回:料理と洗濯と学校生活

2016年07月08日 12:01  AUTOSPORT web

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ニンニクを刻む手つきは堂に入ったもの
"Marino(マリノ) Racing(レーシング)"--「佐藤万璃音(さとうまりの)」
高校生ドライバーのイタリアン・レーシング・スタイル

「関口雄飛さんが置いていった炊飯器、イタリアではまだ現役バリバリです!」

 中学校卒業とともに海外でのレース活動を決断し、2015シーズンよりイタリアFIA-F4を戦い始めた高校生ドライバー佐藤万璃音(さとう まりの)。5月に17歳の誕生日を迎えた彼は同シリーズ参戦2シーズン目となる今季も、イタリア中部エミリア=ロマーニャ州フォルリ郊外のアパートで年間の半分近くを過ごしている。同じアパートには同世代のチームメイトも住むとはいえ、所属チームがレース以外の日常生活まで面倒見てくれるはずはないから、やはり自分から積極的に動かなければ回らない。

「掃除や洗濯や調理は嫌いじゃなく、むしろ好きかも。シーズン前はこのアパートで独り住まいになると聞いていたので、時間があるときには共用スペースを含めて徹底的に掃除していました。最終的にチームメイトも一緒に住むようになり、彼らはあまり掃除が好きじゃないようで……あきらめました(汗)」

「洗濯は気持良く過ごすために欠かせないので好きですし、料理も好きです。小さいころから母親が料理する姿を見て育ち、どんな手順で作っているのか興味を持って眺めていました。いまはレシピサイトも充実していますから、それも参考に日々の昼食や夕食を自分で作ります。チームメイトのぶんを作ってあげるのも珍しくありません。あと、SNSの“メシテロ”をスマートフォンで見るとやる気が湧きます!」

 と言って万璃音は冷蔵庫や食糧庫を漁り始め、正午少し前に彼のアパートに訪れた筆者に昼食をふるまうと申し出た。「まずは前菜。以前、ケイ(コッツォリーノ)さんに教えてもらいましたが、うまくできるかな」と言って、慣れた手つきでニンニクや鷹の爪やマッシュルームを包丁で切り始め、フライパンにオリーブオイルを注いで熱が入ったら、ニンニクや鷹の爪の香りをつけてマッシュルームを投入。オーブンでアツアツに熱した器に盛りつけたマッシュルームのアヒージョは、昼でなければワインやビールが欲しいくらいだった。

■絶品のパスタとその腕前

 続いてパスタ。「細めの麺が良いですか? 少し太めの麺が良いですか?」と問われたがそのあたりはお任せで、万璃音は冷凍のシーフードミックス、生クリーム、イタリアントマト缶、麺を準備。完成したトマトクリームのシーフードスパゲッティはこれまた絶品で、やはりワインやビールが欲しいほどの出来栄え。それでも彼は味に満足していないようで、「もう少し生クリームを控えれば良かったかも」と精進を怠らない。

「少し前には世界各国の風味にアレンジしたパスタに挑戦して、メキシコ風、タイ風、和風といろいろトライしました。ただ、日本の焼きそば味はとても残念な結果に終わりました(汗)。日本から持ってきたインスタント食品もありますし、たまには外食もしますがあまり多くありません。お金を使いたくないし、基本的には“内食”が中心です」という万璃音は、冷蔵庫の冷凍室から何やら取り出した。

 チラリとチェックしたら豚ロース肉。コレをどうするのかと問うと、「夕飯用に自然解凍しておきます」という返事で、17歳の男子高校生らしくない周到な準備に舌を巻いた。「パスタばかりじゃ飽きるので和食も作ります。醤油や日本酒などの調味料は、イタリアの田舎町にあるショッピングセンターでも手に入ります。でも、さすがに味噌は日本で調達しました。幸い、関口雄飛さんがヨーロッパで戦っていた08年当時に置いていった炊飯器があるので、日本の白米に似たイタリアのお米を買ってきてご飯を炊いて食べます。関口さん、炊飯器はまだ現役バリバリですよ!」

 昼食を満喫したあと、万璃音はパソコンを起動して高校生らしく自身の学業について説明した。「ヨーロッパに滞在したままレース活動が可能な高校に入学できたから、こうしてイタリアに居られます」と言って彼が見せてくれたのは、時間や場所にとらわれずインターネットを利用したクラーク記念国際高等学校の“Web学習コース”のカリキュラム。スポーツマンやタレントなど、高校生に相当する年齢から働き始めている若者に用意された手段で、小林可夢偉もこの高校で学習したという。

 昭和世代の筆者は郵便を使った通信教育かと想像していたが、いまではインターネットという便利なインフラがある。万璃音は自身のIDとパスワードでウェブサイトにログイン、動画で授業を受けたり、テスト形式の宿題を解いたり、レポートの提出に追われたりしている。「ただ、今季は教科書を貰う前にイタリアへ来てしまったので手元になく、宿題やレポートがまったく進みません(汗)。6月に帰国した際には教科書を手にして、必死の追い込みをかけようと思います」と“泣き”を入れていた。

 イタリアFIA-F4第3大会終了後の6月上旬に帰国、高校でテストを受けたり、Zepp東京のライブへ行ったりと束の間の日本滞在を過ごした万璃音は、6月下旬に再びイタリアへ戻った。いまは7月半ばに開催される第4大会へ向け、ジムでフィジカルトレーニングで勤しんだり、空き時間は気分転換に自身の趣味に際限なく没頭したり--。そうした万璃音の日常は次回以降の本稿で紹介したい。