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小坂崇氣と安藝貴範が語る「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」“虚淵玄の情熱が創り出す痛快エンタテイメント”

2016年07月07日 12:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

左)安藝貴範氏 右)小坂崇氣氏
2016年7月8日(金)から人気クリエイターの虚淵玄(ニトロプラス)の新プロジェクト『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』のテレビ放送がスタートする。原案・脚本・総監修を虚淵玄が務める本作は、台湾では広く知られた人形劇「布袋劇」のスタイルで制作された。
ゲーム、小説、アニメとマルチな分野で活躍してきた虚淵玄にとっても、新たな表現方法、国境を越えた取り組みは大きな挑戦だ。日本の人気実力派声優の起用に、主題歌はT.M.Revolutionの新曲「RAIMEI」。台湾の伝統が新たな様相を見せる。かつて魔界と人間界が争った戦いで生まれ、無双の力を発揮した数々の武器「神誨魔械」を巡る武侠ファンタジーが幕開く。

そんな注目作品の誕生の原動力は、数々のヒット作を創りつづけるニトロプラスとフィギュアメーカーのグッドスマイルカンパニーにある。台湾で、日本にはない新たなエンタテイメントを見つけた虚淵玄、彼の夢の実現に一役買ったニトロプラス代表取締役社長の小坂崇氣氏とグッドスマイルカンパニー代表取締役安藝貴範氏に作品の誕生のきっかけから、放送にいたるまで、そして作品の魅力を伺った。
[取材・構成:数土直志]

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 http://www.thunderboltfantasy.com/
2016年7月8日(金)より放送
TOKYO MX:毎週金曜23時~ BS11:毎週金曜23時30分~ AT-X:毎週金曜24時~
配信:バンダイチャンネルほか

■ 虚淵玄、台湾で布袋劇に出会う!

―お二人とも社長の立場ですから、まず企画の立ち上がりから教えていただけますか?

小坂崇氣氏(以下、小坂)
虚淵玄が2014年の2月に、台湾の動漫節でサイン会のため単身で台北に行ったんです。サイン会が終わったあとに、外に出てみたら向かい側の建物に人形がいっぱい飾ってある。何だろうと、引き寄せられるように中に入って行ったら、すごい素敵な布袋劇の人形がいっぱい。今回、ご一緒させていただいた霹靂社さんが博覧会をやっていたんです。虚淵は布袋劇の存在は知っていたのですが、実際に見たことはなくて、その場で「これはすごいぞ」と。
で、僕に「霹靂布袋劇って知ってます?」って連絡が来て。「すごいもの見つけました。DVDを持って帰ります」って言うんですよ。台湾のことであれば安藝さんに聞こうと、連絡しました。「虚淵の話を聞いてやってください」って。

―その時はもう虚淵さんはやる気満々だったのですか?

安藝貴範氏(以下、安藝)
なんとかして、人形含めた布袋劇の文化を紹介したかったんですよね。

小坂
作品を日本に持ち込みたい。布袋劇は日本人に響くコンテンツになるんじゃないかと考えていました。
しかも虚淵は、すでに日本に持ってきたときの問題点を把握していました。一番は声優さんを使っていないこと。口拍師さんが全部しゃべるスタイルは、文化的には意味があるけれど、日本のユーザーさんには、むしろ日本の声優さんが声をあてれば、キャラクターの魅力が増すだろうと。さらに音楽やエフェクトのCGのクオリティをもっと上げれば、日本人に受けるんじゃないかとか。もともとあるポテンシャルを日本人向けに構成を変えることを、自分でやってみたいと言い出したんですね。


―台湾では布袋劇は一般的な感じなんですか?

小坂
ものすごく浸透しています。100年以上も歴史があって、霹靂社さんは50年ぐらい台湾で布袋劇をやっていらっしゃる。霹靂社さんはいち早く布袋劇をTV用の映像にしたり、自分たちで衛星テレビ局を持ったりしているんです。

―やる気満々な虚淵さんに対して、おふたりはどう動こうと思われたのですか?

小坂
ニトロプラスは、クリエーターのやりたいことを実現する会社ですからね。ただ自分たちの力だけでビジネスするには難しいこともあるので、そのために安藝さんを巻き込もうと思いました(笑)。

安藝
そうですね。ニトロプラスは実現する会社で、僕らは巻き込まれるのが本業です。そこでまず僕たちのネットワークの中から霹靂社さんの窓口を探しました。動き始めると接点はすぐに見つかったのですが、するとほぼ同時に霹靂社さんから、「虚淵さんとお仕事を一緒にさせていただきたいんですけど」と話がありました。

小坂
ちょうど現地の新聞記事になったんだよね。

安藝
現地で“布袋劇の展示会に虚淵、来た”みたいな記事になったらしいんです。ほぼ同時にこっちも窓口を探している、あっちも探している。ご縁があるいいスタートが切れたかな。

―虚淵さんはなぜそこまで人形劇に惹かれたのでしょうか。

小坂
彼のライター人生はゲームから始まっています。PCゲームからアニメに行って、特撮をやって、次は、というところで新しさを感じたんだと思います。
それとアニメの『楽園追放 -Expelled From Paradise-』でフルCG作品をやったじゃないですか。あれも理由で、フルCGのメリットと素晴らしさを感じつつも、フルCGには無い魅力をアナログの人形に見い出したんじゃないかな。

安藝
特撮のお仕事をやってらしたこともあるんじゃないですか?見方によっては、爆破とかも含めて布袋劇はほとんど特撮映像なんです。

―爆破も出てくるのですか?

小坂
出てきますよ。なかなか攻めています。


安藝
それと虚淵さんが、もともと中国の大衆文化から生まれた武侠ものが好きだった。

小坂
彼のPCゲームの3作目に『鬼哭街』というSF武侠ものがあります。美少女ゲームのジャンルで武侠をやるというのはかなりの挑戦です。
『鬼哭街』は、中国圏でもすごく有名らしいです。

安藝
『PSYCHO-PASS サイコパス』の影響もあるかと思いますね。『PSYCHO-PASS サイコパス』が女性ファンにしっかり受け入れられことで、女性ファンも意識しながら作っている。

小坂
最初に女性ファンを意識できたのが『Fate/Zero』なんですよね。『Fate/Zero』が女性のユーザーにあそこまで支持される状況を蓋を開けるまで誰も想像しませんでした。
虚淵なりに女性に支持される作品性を自分の中に見出したと思うのです。それを意識的に作れたのがたぶん『PSYCHO-PASS サイコパス』だと思うんです。『PSYCHO-PASS サイコパス』が女性のユーザーにすごく支持されて、それが確信に変わってきた。そうしたなかで、いよいよこの作品に出会った。



■ 日本と台湾、国境を超えた制作のやりとり

―原案・脚本は虚淵さんですが、台湾側との役割の分担はどうされていますか。

小坂
基本的には虚淵がこういう世界観とキャラクター、ストーリーはどうですかと、霹靂社さん側に作りました。霹靂社さんの世界観との親和性を考え、違和感のないオリジナルストーリーを作っています。それを霹靂社さん側に観ていただいて忌憚のない意見をいただき調整していきました。

―2014年から出会い始まって、制作の進行は順調だったのですか?

小坂
もともとは霹靂社さんの新作映画の外伝をやろうという話から始まって、最初の一年はそのストーリープロットを作っていました。ただやはり映画の外伝になるといろいろな制約があって、虚淵が描きたいものが描けない。
もちろん「自由にオリジナルキャラクターを出していいです」と言っていただいたけれど、やはり元の原案の世界観もキャラクターもあります。それを壊してはいけないわけです。
虚淵の願いは、霹靂社さんの膨大なアーカイブに日本人が興味を持ってもらうことですから、日本人が本当に喜んで観てもらえる作品にしたいとの思いが強くなっていきました。話し合った結果、テレビ版1クールを日本で放送するスタイル、布袋劇を踏襲したうえで虚淵がオリジナルの世界観とオリジナルのキャラクターを立てるのが正解だとなりました。


―そうすると2014年に出会って映画の企画があって、その後からとなるとすごく期間が短いなかで出来た感じですね。

小坂
でも特撮のテレビシリーズは、14日で2話撮っていくんですよ。脚本を1週間であげて、決定稿と次のプロットを1週間後には納品、1話作るのに2週間しかない。その感覚からすると少し余裕があったかと思います。

安藝
クランクインはいつでしたっけ?

小坂
2015年の7月かな。人形を作り始めたのが3月。

安藝
クランクアップはついこの間ですよ。


小坂
脚本は14年の年末ぐらいから始めて、だいたい2週間に1本くらいのペースで書き始めて。3月に1話があがってそこからだいたい2~3週間に1本くらいのペースで書き上げていったんですよ。
制作に入っても脚本はまだあげていましたね。脚本はあがったから完成ではなく、あがったものを調整して。日本語と台湾語で読むペース、文字量が違うので調整が必要になるんです。

安藝
台湾語のほうが長くなっちゃうんですよね。

小坂
収まりきらないんです。虚淵のあげた日本語の脚本をまず台湾語にして、時間を計ってみると長過ぎると連絡が来て、何パーセントかカットしてくださいと。虚淵がカットしてまた送る。まだ入らない。あと数分カットしてください。今度は短くするために話を変えるしかない。虚淵はじゃあこのパートを短くして、足りないものをここに足してとか、相当器用なことをやりましたね。今思い出してみても大変でした。


安藝
結果、各話が面白いところで終わっていますよね、すごい引きのある終わり方をしている。次をどうしても観なきゃいけない感じになっていて面白いですよ。
特に2話の最後のカットはぜひ観てほしいです。ちょっと笑っちゃうんですよ。

小坂
そこで終わるのかって(笑)。

■ 安藝社長、自ら顔チェック?!

―ほかに制作するうえで日本との差はありますか?

小坂
布袋劇人形はちょっとした差があります。目であったりとかです。デザインは、これまでの歴史に対してリスペクトを持ちながら、かつ日本でデザインしました。非常に良くできていると思います。

―スタッフのクレジットでは、グッドスマイルカンパニーさんが造形アドバイザーとして入っているのですけれども、これはどういう役割なのですか?

安藝
そう書くしかなかったです。顔のチェックとかは僕がやっています。

―実際にキャラクターの顔のポイントはどういったものですか?

安藝
例えば彼らが普段やらないチークを入れるとか、眉毛の形とか、顔の彫り方がこの角度でちょっと違うとか。ただほんとに微調整だけです。あとは手ですね。彼らは顔や衣装に非常に気を遣いつつも、手が撮影の際の消耗品みたいな扱いなところもあって、ちょっと造形が甘かったりするのです。それをこちらで作ってこれを使ってくださいみたいなことがありました。

小坂
特に女性の手はグッスマさんで型を作りましたね。手はある種の第2の顔だと思うのです。手が結構活躍するんですよ。


―セリフは台湾では弁士がしゃべるわけですが、今回は海外でもアフレコ版になるのですか?

安藝
日本のアニメという括りで交渉が始まることが多くて、吹き替えた日本語を要望されるケースが多いです。

小坂
台湾では若い人たちは日本のアニメに慣れ親しんだ人たちも多いので、日本の声優さんのバージョンで観たいと思うかもしれないですね。

安藝
現場で人形を作ったりする方々も、日本のアニメのファンのかたが多いですね。CGや効果をエフェクトどうします?というときに、例えばこのシーンは『Fate/Zero』っぽくといった話をしたりもします。それが伝わったりするので、話しが早いです。声優さんの力も、彼らはよく知っているんですよね。だから結構スムーズでした。

―ちなみに大きく対立したところはどこですか?

小坂
CGですね。

―CGをたっぷり使う、あるいはあまり使わないといった感じですか?

小坂
虚淵は人形を見せたいわけですからCGをあまり使わなくていいという考え方です。けれども、台湾の方たちは新しい映像を見せたいとの思いが強いので、ゲームとかフルCG映画の技術を吸収してCGを増やそうという意思が感じられるんです。そこがまず根本的な価値観の違いです。

安藝
それで見栄えがよくなるのですけれど、こちら側からするとやり過ぎかなと。「もっとCGの比率を下げられませんか」「いやこれで十分だと思っています」と。



■ 「虚淵です」という感じの作品です

―視聴者層は、アニメファン、さらにその周辺も想定しているのですか?

小坂
特撮ファンは意識しています。『仮面ライダー鎧武/ガイム』も女性ファンがすごく多いんですよ。

―人形好きの女の子たちはどうですか?アニメファンや特撮のファンとはまた別の層ですが。

安藝
可能性あると思いますね。放送時間帯が夜11時と浅めの深夜ですから。

―台湾で作る、しかも武侠ものですと言った時に、世界展開も視野に入っていると思います。中華圏でもどんどん放映していくイメージですか?

安藝
霹靂社さん側が“まず虚淵さん”というのは、当初から台湾の布袋劇を世界に広めたい思いが非常に強くあったからです。まずは日本で受けること、もちろん虚淵さんが参加することで台湾ではいつも以上に注目されるでしょう。さらにもちろん中華圏と欧米は視野に入っています。ネット配信がメインですけれども、かなりの地域で一斉に配信されることが決まっています。反応が楽しみですね。


―見どころについても教えていただけますか?

小坂
布袋劇による見たことがない映像はもちろんとして、セリフから醸し出される「虚淵です」という感じですね。虚淵の作品を観ていただけているかただと、いろいろなエピソードも含めてなんとなく分かる。

安藝
容赦ないという感じではないですね。ど真ん中なエンタテイメントですね。

小坂
僕の思う虚淵の脚本は、キャラクターが活きているんです。意思を持って行動している。この性格で、こういう生まれで、こういう出身で、こういう時にこういう行動をする。必然で動いているのです。
物語の都合でキャラクターを動かすケースも多いなかで、キャラクターの必然性を大切にしている。僕はそれが虚淵らしさかなと思うのです。

―その人間味の部分が人形劇になるとより出そうです。

小坂
そうですね。ほんとに人間味がすごく出ています。

安藝
アニメでやってもちょっと物足りない、人間でやるとマッチした役者がいないみたいなところが、人形劇にうまくはまっています。
目の瞬きと唇のちょっとの動き、傾きで、表情に影をつけたりしながらしっかり心理描写をしています。音がつきますし、悲しそうな顔とか、ぱっと顔が明るくなったり。全体の演技の中で表情がついているように見えるんですよ。


―声優さんの力もすごく重要になってきますね。

安藝:
かなり大きいです。尺が台湾語のほうは長いので、意外と間があったり、なかったりするんです。だから収録の現場は非常に困難を極めました。

小坂
ただもうベテランばかりなので、アジャストするスピードが半端ないですね。

安藝
お見事でしたね。

小坂
1回で合わせられないところでも、2回、3回だけでもう勘を掴んで、タイミングを合わせるのが絶妙でした。百戦錬磨の方たちばかりなので。

安藝
映像がありつつも自分でペースを作っている感じがしました。映像に負けず俺のペースでしゃべるみたいな。そうすると映像がそう見える。

■ 「日本で途絶えたけれども、台湾では進化していた」。人形劇の魅力に気づいて欲しい

―この先まだまだ人形劇を取り組む気持ちはあるのですか?

小坂
お客さまの反応、希望次第ですかね。そこはぜひ応援していただきたい。多くのかたに気に入っていただいて、なんとか続編を作れるといいですね。

安藝
そうですね。虚淵さんにとってはそのためにあると思います。

小坂
それと霹靂社さんの持っているアーカイブをどうやって日本の皆様に観ていただくかを考えてみたいです。

―最後におふたりにとってのエンタテイメントとは何かを教えていだけますか。アニメでもゲームでもなく、今回は人形劇。これにやるということは、エンタテイメントをかなり広く考えているかなと思いました。

小坂
僕は古い世代のオタクなので、想像を超えた驚きがある作品と触れ合ってきました。特撮で言えばウルトラセブンぐらいから見ています。当時、画期的だったじゃないですか。
仮面ライダーもそうだし、宇宙戦艦ヤマトやガンダムもエポックメイキング。今までの価値観で見ると、「え?」って思うようなことがいっぱい詰まっているんです。
そこには啓蒙もあって、例えばガンダムを見るとSFに自然と詳しくなってきたり。作品を通して、お客さんに知らなかった価値に気づいてもらう。僕はそれが大好きなんです。
今回は布袋劇という人形劇の価値を伝えたい。昔は日本にもすごい魅力的な人形劇いっぱいありました。日本では途絶えたけれども、お隣の台湾ではこんなに進化していたんだよと。人形劇の良さに気付いてみませんかみたいな気持ちです。


安藝
僕も一緒ですね。気付きがなくて分かってもらえず、小さなムーブメントで終わっているものが結構あるんです。今回で言えば、台湾だけで知られている。それがもどかしくなっちゃうんです。フィギュアもそうでしたし、ほとんどのアニメもそうなんです。「外に出ていこうよ」、というか「僕たちが出すよ」、それがグッドスマイルカンパニーのスタンスです。
新たな価値で新たな楽しみが見つかる、そこでビジネスが生まれるかもしれない。チャンスも増えて、クリエイターさんたちやそれを目指す人たちが増えてくれることが、僕らにはハッピーなんです。
「チャレンジを増やす」は、グッドスマイルカンパニーのテーマとしていつもあるんです。今回は台湾と、そこに目をつけた虚淵玄、このタッグですよね。この時点で僕は「ゴー」なわけです。「新しい」。非常にポジティブにスタートできたプロジェクトで、とても楽しみです。
作品はみんな面白いと思うはずです。僕らは作品づくりに参加していて、強い自信を持っています。今回はたぶん大丈夫と結構楽な気持ちです。


小坂
ただね、期待を上げ過ぎちゃうと(笑)。とにかく、まずは見ていただきたいですよね。

安藝
結構つっこみながら見るのが面白いと思います。人形劇ならではの即興感もあります。味があって。おおらかに見ていただきたい。全体を見て楽しんでほしいという作品に仕上がっています。