2016年07月07日 10:22 弁護士ドットコム
兵庫県芦屋市で、屋上広告を全面禁止し、看板の色や大きさを厳しく規制する「屋外広告物条例」が7月1日に施行された。広告制限で有名な京都市を上回る規制もあり、「日本一の厳しさ」などと報道され、話題になっている。
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条例によると、市内の全域で建物の屋上広告を禁止する。また、市内を「商業」「住宅」など7つの地域に区分して、それぞれで看板の大きさや、色彩も制限する。違反した場合、罰金が科される。
既に設置されている看板については、経過措置として、3年から10年の猶予期間を設ける。看板を撤去したり改修したりする場合は補助金を出す方針だという。
景観条例によって街の景観が保護される一方で、店舗などを運営する人は、これまで認められていた看板や広告を自由に出すことができなくなる。両者の利益の調整をどう考えればいいのか。村上英樹弁護士に聞いた。
「景観条例と憲法を考えるとき、衝突する人権と人権をどう調整するか、という視点が必要になります。次のようなことです。
まず、景観条例によって制限される人権としては、営業の自由(憲法22条)や表現の自由(憲法21条)が考えられます。
一方で、市民が良好な景観を求めることも、その根底には環境権(憲法13条でいう『幸福追求権』の一種)や生存権(憲法25条)の保障という意味合いがあります。
最高裁判所も、2006年に国立マンション訴訟に関する判決の中で、地域の住民が良好な景観の恵沢を享受する利益は法律上保護されると判示しています」
今回のケースでは、両者の利益の調整をどう考えればいいのか。
「実際に、今回の芦屋市の景観条例や、これまで一番厳しいといわれていた京都市の景観条例についても、『憲法違反である』という声が目立つという状況にはありません。
それは、景観条例による広告規制で営業の自由(憲法22条)などが制約されるにしても、市民の良好な景観を求める利益を守るための条例なので、『公共の福祉(憲法13条、22条など)による制約としてやむをえない』という見方が一般的になっているからだと考えられます。
また、憲法上の人権の中でも、営業の自由などいわゆる『経済的自由』と呼ばれる権利は、他の種類の人権(精神的自由や生存権など)と衝突する場面では、ある程度制約されてもやむを得ないという考え方があります。
このように、景観条例による広告物の制約については、国民・市民に広く支持される状態になってきているように思われます」
これまで裁判で争われたケースでは、どのようなものがあるのか。
「景観条例について、裁判で争われたものとして有名なものは、先ほど述べた国立市でのマンションの高さ制限をめぐる裁判があります。
その他、景観利益に関する裁判としては、広島県福山市の鞆の浦(とものうら)の埋立架橋についての差止訴訟(地裁が差し止めを認めた件)があります。
高度成長の時代も終わり、人々の生活の質を重視する傾向が強くなり、住民の良好な景観を求める利益が重視される時代になってきていると思われます。
私自身としては、このような流れに賛成です。むき出しの経済至上主義よりは、人々が日々少しでも心豊かに暮らせることが重視されるべきだと考えています。その意味で、景観条例は重要な役割を果たすものだと思います。
一方で、広告を規制される地元の事業者とは十分に協議して、住民と事業者がともに納得する広告規制が行われるのが望ましいことはいうまでもありません」
村上弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、家事事件(相続、離婚など)、倒産事件を取り扱い、最近では、交通事故、労働災害、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL:http://www.kobeseaside-lawoffice.com