トップへ

やらなかったらきっと一生後悔するからー『planetarian』津田尚克監督×青井宏之プロデューサー対談

2016年07月06日 19:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

やらなかったらきっと一生後悔するからー『planetarian』津田尚克監督×青井宏之プロデューサー対談
30年前の細菌攻撃で放棄された「封印都市」。そこへ辿り着いた彼は、街を支配する自律型兵器から逃れるうちにとあるビルの屋上へと足を向ける。そこは打ち捨てられたプラネタリウム。入口にはコンパニオンロボット・ほしのゆめみが立っていたーー。
2004年、『AIR』や『CLANNAD』で知られるKeyが新しいゲームデザインとして発表したのがキネティックノベル第1弾の『planetarian』だ。まるで映画を見るように、選択肢の存在しないノベルゲームを進行させる。当初のリリースはダウンロード販売のみ。やがて販路とプラットホームが広がり、PS2、PSP、スマートフォン(Android、iOS)版とさまざまにリリースを重ねて来た。作品の評価は非常に高く、長く映像化は望まれてきた。その作品がこの夏、配信版と劇場版という形で映像化される。アニメーション制作スタジオはTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズなどを手がけるdavid production。監督は同じく同作で手腕を発揮し、長年のKeyファンを公言する津田尚克。
アニメ!アニメ!では津田監督とプロデューサーの青井宏之を招き、本作へかける意気込みや、なぜ今、しかも配信版と劇場版という変則的な方法で映像化されるのか、じっくりと聞いた。
[取材・構成:細川洋平]

『planetarian』
7月7日(木)より配信
http://planetarian-project.com/

■ 自分以外の手に渡って後悔したくない

ーまずなぜこのタイミングで『planetarian』をアニメ化することにしたのか聞かせてください。これは青井プロデューサーにうかがった方がよいでしょうか。

青井宏之氏(以下、青井) 
ええ。今年で『planetarian』のリリースから12年が経ちました。当初このタイトルはKeyブランドの新しいチャレンジでもあったキネティックノベルの第1弾としてダウンロード販売からはじまりました。当時のネットの普及状況もあって多い販売数には至らなかったそうなんです。それが近年いろんなプラットホームに変換され、2014年には海外配信もはじまった。結果、累計販売数は13万本に達しました。ネットインフラの整った今こそ、当時の『planetarian』が試みた「いつでもどこでも視聴ができる」というものが実現できるのではないかと。
加えて作品の持つ普遍性、ロボットと人間の交流といったテーマ性は時代を経た今でも色褪せない魅力を持ち続けている。それならば愛し続けてくれたファンに向けても、今発表できるのではないか、とプロジェクトが立ち上がりました。そして、なによりも本作に惚れ込んでいるということが大きいです。

津田尚克監督(以下、津田) 
『planetarian』のリリースは2004年で、その年は僕がアニメ業界に入った年です。ちょうど今年で12年目。世の中には多くの作品がありますが、普遍的な作品はいつの時代にもキッチリ作ればお客さんには確実に刺さります。『planetarian』はそれの最たるものだと思います。SFであり、その設定は今も全く色褪せていない。もちろん10年後にアニメ化されても十分魅力のあるタイトルだと思います。そして、青井さんが言ったように、プラットホームに縛られなくなっている今、アニメ化をする意味は大きいと思っています。


ーアニメーション制作でdavid production、そして津田監督に決まった経緯は?

青井 
davidさんは原作に対して最大のリスペクトを持って制作に臨んでくださいます。何よりもそこが大きいですね。

津田 
ありがとうございます。

青井 
Keyのファンも作品に対する思い入れの深い方々が多い。そのファンの要求に応えうる制作スタジオさんと考えたらdavidさんだろうと。ただ、津田さんは想定していませんでした。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズも担当されていましたから(笑)。

津田 
僕はdavidの社員演出なので、会社の企画会議に参加しているんです。その時に「監督は誰がいいか」とウチのプロデューサー陣といろいろ検討はしたんですけど、Keyタイトル好きとして後悔したくない、という思いもあって「オレがやる!」と手を上げて(笑)担当することになりました。

■ 全てのスタッフと対等に対話しながら作る

ーお忙しいなかで津田監督はどう動いているのかは気になる所です。

津田 
『planetarian』では『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』と『新劇場版:Q』で副監督もやられていた中山勝一さん、同時にやっていた『ジョジョの奇妙な冒険』では『レベルE』の監督もやられた加藤敏幸さんと優秀なシリーズディレクターに入ってくださっているので、僕はタイトルがどう走ったらうまく行くのかの舵取りをしている感じです。

ー『planetarian』ではどのような舵取りをされているのでしょうか。

津田 
この作品は聞かせどころ、見せ所が明確なんです。逆に言うとTVシリーズより短い時間での見せ方、映画的なアプローチに工夫が必要となるので、そこを調整するためにまず自分でシナリオをやっています。シナリオを書くとコンテにした際により深くダイブできる。思い切って、全部洗い直したりできるんですよね。

青井 
加えて音響監督も山口(貴之)さんと共同でやられています。

津田 
音楽の発注メニューを山口さんと相談しつつ自分で作成して、発注して、上がってきた音楽をどう使い、聞かせるかをコンテ段階から考えるんです。音響監督の山口さんと徹底的に議論し合う。彼は同世代で言いたいことを言い合えるので、彼の胸を借りました。


ーシナリオには共同でヤスカワショウゴさんが入られていますが、同じ理由ですか?

津田 
その通りです。彼とは頻繁に意見交換をして、僕が大まかな構成を出しヤスカワさんにまとめてもらって。それを再度二人で揉んで、台本打ち合わせに臨みました。
彼とはジョジョでもやっているので、勝手が分かっていたのでやりやすかった。
音響監督も脚本も、男性ですが、泣きのメンタルに共感しやすい人を人選しました。

ー全てのセクションを自分が把握しておきたいという思いがうかがえます。

津田 
その通りですね。『planetarian』は「好きに作っていい」と言われたのですが、裏返せば「この作品をどうアニメ化するの?」というデカい命題をもらったわけです。原作もままでなく、ポイントを的確に押さえつつ映像としてどう再構築するのか。今までと比べても一段上のレベルを求められていると思ったんです。その時に、「どこまでもズブズブやろう。作品と泥んこになって殴り合おう」と決めました。

ー強い決意ですね。

津田 
『planetarian』は全てのスタッフと対等に対話しながら作っているという気がしています。

■ 小野大輔さんの大事な作品をことごとく監督している

ービジュアルアーツさんも監督に完全に委ねたということですが、大きく変わる部分では主人公・屑屋のビジュアルですよね。原作には姿が出てきませんが、デザインはどう立ち上げたのでしょうか。

津田 
まずキャスティングは原作と同じ小野大輔さんとすずきけいこさんがマストで決まっていました。そこを外したらファンに向き合えないと思ったし、僕もいやだったので。声以外をゼロから立ち上げて行くとどうしても声優さんに似通った感じになりますね。そこに駒都えーじさんの男性キャラ感と美少女ゲームの主人公のセオリー「前髪で顔がよく見えない」という要素を加えてデザインしました。

青井 
『planetarian』は小野さん自身、まだ若手だった頃にオファーをもらった役で、それが12年経ってアニメ化するというのは思い入れも強く大事な作品だとおっしゃっていましたね。

ー小野さんだけではなく、監督の思いも拝見した試写で申し分なく感じました。アニメーションで加えられてたキャラクターの演技がきめ細やかに描かれていました。

津田 
アニメならではの「絵で見せる」表現もありますし、ゲームや漫画とは違って、アニメは視聴者自身のペースでは進行してくれません、よりプレイヤーの思い出に近くなるように、淡々とするシーンなどもテンポ感を意識的に調整しました。

青井 
屑屋がヒロイン・ゆめみにデレる過程は難しかったですね。

津田 
どの段階で屑屋がデレるのかは悩みました。ゆめみはロボットですから、その相手をする屑屋は”コンテに悩んで自室にある美少女フィギュアについつい夢中になるオレ”という図式とは違うわけです(笑)。返事が返ってくる存在です。ディストピアを生きる屑屋がプログラムされた存在であるゆめみを通じてどう変化していくのか。これを突き詰めて行くと主人公である屑屋は、つまりは「俺らだ」ということがわかってくるんですよ。

ープレイヤーであり、視聴者。

津田 
そうです。この辛い時代をどう生きるか、何と向き合って何を大事にするのか、自分の気持ちに正直に生きることとは。日常で悩んでいる、なんてことないけど重要な部分と向き合えれば、と。そういった話に最終的には持っていけたらと思いながら作っています。


■ ゲーム本編に小説、ドラマCDを全て包んだ作品

ー本作は配信版で「ちいさなほしのゆめ」を、劇場版として「星の人」を上映します。「ちいさな~」は原作ゲーム版のサブタイトルであり、「星の人」は小説やドラマCDで描かれた、もっと時間尺度の大きな物語となっています。これら全てを描ききるということですね。

青井 
そうですね。『planetarian』は屑屋とゆめみ、二人だけの物語ではないと思うんです。ゲーム本編の後にリリースされた小説、ドラマCDが加わったことで大きな世界の物語になりました。それが更に本作を名作から傑作へ押し上げていると考えています。
配信版ではゲーム本編を、劇場ではそれに加え屑屋のその後の人生を描く。主題歌Liaさんの歌も相まってKey史上でも特に訴える作品になると思っています。

ー劇場版で観る「星の人」はどういった形式なのでしょうか。

青井 
配信版を再構成したものも入れます。特にプラネタリウムの投影シーンは大画面のスクリーンで非常に映えるので楽しみにしていただきたいです。

ー確かにプラネタリウム投影シーンは非常に印象的な仕上がりでした。

津田 
『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』にも参加していた撮影監督の渡辺(有正)さんが『planetarian』の原作ファンで、めちゃめちゃこだわってる作業をしてくれました。たぶん僕が今までやってきたタイトルの中でも屈指の撮影処理がかかってる。普段は撮影に時間を上げられないという非常に心苦しい状況がTVシリーズでは多くて・・・。今回はレンズ効果にこだわりたかったんです。実は一昨年、劇場で見た『たまこラブストーリー』で「やられた!」と思ったんですよ。味のある邦画に似た撮影のボケ足の感じ、細かいレンズ効果はずっとやりたかったことなので目の当たりにした時には相当ショックでした。でもその時にレンズ効果は劇場ですごく映えるんだと実感したんです。今回はレンズ効果をふんだんに入れていて、一画面一画面すごく細かく作ってもらいました。だから配信版を見た方が劇場版を見た時、同じシーンでも、その奥行きにビックリすると思います。

■ 劇場版は総集編ではない

ー劇場版では視覚的にも新発見がある、というわけですね。

津田 
あるはずです。音楽ラインも設計を変えていきます。劇場版は総集編ではないんです。裏解釈的になればいいな、と思っています。そうすることでお客さんにも満足していただけるはずです。

青井 
しかも津田さんの熱い思いが結集していて、配信版は当初予定していた各話10分を余裕で超えてしまっています。

津田 
そうですね。各話10分で収めることも出来たかも知れない。でもその『planetarian』を観る度、僕は消化不良を起すだろうなって。だから今は胸を張って「うん!」と満面の笑みでうなずけますよ(笑)。いや、仕事としては本当にダメなんですけど・・・。


ー他にも見どころはありますか?

津田 
ヒロインのゆめみはロボットですから、見た目の可愛さだけではなく、誰もが感じた事のある機械に対するアプローチ、例えば「このパソコン何でこんな動きするんだよ!」といった部分をアニメでは大事にしたいと思っています。
打ち込んだ命令に対して、プログラムに忠実に、実直に返しているだけなんですけど、こちらは一喜一憂してしまいますよね。そんな部分です。
原作のテキストを担当した涼元(悠一)さんの世界観は他のKeyタイトルと比べて、よりドライな感じです。海外などでは、そうしたハードSFの部分が評価されていると思うんです。ディストピアに美少女というミスマッチ感。他のKeyタイトルにはない色があると思います。

ーありがとうございます。最後に読者へメッセージをお願いします。

青井 
この記事を読んで興味を抱いてくださった方がいましたら、ぜひ配信版をご覧いただきたいと思います。全5話、しかも10分ちょっととコンパクトですし、軽い気持ちで楽しんでいただけると思います。心に残る作品になっているはずです。

津田 
作品自体の世界観が生っちょろいものではないのは見ていただければ分かると思います。それは原作からアニメになってもきっちり引き継がれています。ゲームでみんなが脳内補完していた部分が映像となって出てきているはずです。
観終わった後はみんなでぜひplanetarianの話をしてもらいたいですね。その上で、劇場版にも足を運んでもらえるといいかなと思います。劇場へは僕もこっそりお客さんとして観に行こうと思っているので、一緒に観ようぜ!みたいな(笑)。ぜひお楽しみに!よろしくお願いします!

『planetarian』
7月7日(木)より配信
http://planetarian-project.com/