リクルートキャリアの調査によると、6月1日時点での就職内定率は51.3%。現在はさらに上がっていることでしょう。この時期になると「周りは内定をもらっているのに、なぜ自分だけがまだなのか」と焦る就活生と出会う機会が多くなります。
しかし、今内定がないことと、社会人になってから活躍できるかどうかは、あまり関係がありません。むしろ夏秋採用で良い学生と出会える機会は意外に少なくなく、「なぜこんな学生が残っていたのだろう」と不思議に思うことがよくあります。(文:河合浩司)
面接が始まったとたん、急変貌した男子学生たち
ある年の採用活動で、スタートダッシュに乗り遅れた2人の学生に出会ったことがあります。1人は地元の合同説明会で、弊社のブースに立ち寄ってくれた男子学生。話の聞き方から質問の内容まで好印象だったので、いちど会社に来てもらえるようお願いしました。
もう1人の学生は、懇意にしている大学の就職課の職員から紹介された男子学生。この職員の紹介で過去に何人も採用につながっているので、私は喜んで引き受けました。職員によれば優秀で意欲もあるのに、なぜか大手の採用はうまくいかなかったようです。
「良いやつなんですが、なぜか就活で苦戦していまして。一度会ってもらえませんか?」
この2人の学生には、たまたま同じ日に会社の見学と面接に参加してもらいました。2人とも至って自然体だったので「今日は良い出会いになるかもしれない」と期待していました。しかし面接が始まった途端、様子が一変します。
「私は誰にも負けない行動力とやり遂げる力を持っています! それは高校時代から続けている〇〇部の活動で…」
「御社の高い技術を活用し、社会に変革をもたらす商品作りを…」
2人から唐突に、競うような「売り込みスピーチ」が始まったのです。先ほどまで普通に会話していた学生とは思えないほどの、ガツガツとした変貌ぶりでした。
「自分のすごさをアピールする場じゃないんですか?」
驚いた私は面接を止めて、「2人とも、さっきまで普通に会話をしてくれてたよね。急にどうしたんだい?面接でもあんな感じでいいんだよ」と言いました。すると彼らは、声を揃えてこう言ったのです。
「あ、あれ? そうなんですか?」
「面接って、自分のすごさをアピールする場じゃないんですか?」
「僕も同じです。就活の本にもそう書いてあったので…」
私は「それは明らかに間違いだよ。売り込みのことは忘れて、さっきみたいに本音で普通に話してくれるのが一番だよ」と彼らに告げました。彼らはその後も普通に話をしてくれたのですが、最後まで「こんな普通に話していいんですね」と驚いていました。
普通に話していると好印象なのに、面接になると会話が成り立たない学生は、おそらく就活塾や就活本で誤った「就活観」を植え付けられているので、そういう話し方になってしまうのですね。つまり春採用で内定が出なかった学生の中には、単に面接の方法を勘違いしているだけの人がいるということです。
マニュアル本を捨てて、素直な会話に臨もう
就活のやり方でつまずいただけで、仕事の能力のある学生が採用されないのですから、中堅企業としてはかえってありがたいほど。世の中の就活マニュアル本は「良い人材を中堅中小企業に残してくれるために存在している」のではないかと思うくらいです。
就活の緒戦で苦戦している人は、面接担当者ときちんと会話が成り立っているかどうかを省みてください。もし心当たりがあるようでしたら、手元にある就活マニュアル本を捨てることから、仕切り直しが始まるかもしれませんよ。
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