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Suchmosは日本の“スタンダード”になるか? 7月6日発売の注目新譜5選

2016年07月05日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

Suchmos『MINT CONDITION』

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。7月6日リリースからは、平井堅、Suchmos、神聖かまってちゃん、UNISON SQUARE GARDEN、the HIATUSをピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)


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■平井堅『THE STILL LIFE』(AL)


 「告白」(2012年5月/テレビ朝日系ドラマ『Wの悲劇』主題歌)、「グロテスク feat.安室奈美恵」(2014年4月)から最新シングル「魔法って言っていいかな?」(2016年6月)まで、前作『JAPANESE SINGER』(2011年6月)以降の5年間にリリースされた楽曲を中心にした9thアルバム。“タイアップ曲、豪華コラボ曲が満載!”という惹句が頭をよぎるが、アルバムを通して聴くと、すべての楽曲が一分の隙もなく制作されていることがわかるはず。ピエール中野(Dr/凛として時雨)、ハマ・オカモト(Ba/OKAMOTO’S)、滝善充(G/9mm Parabellum Bullet)によるオルタナティブ・ファンク・チューン「驚異の凡才」、鷺巣詩郎がサウンドプロデュースを手掛け、UKのR&Bシーンの大御所ギタリスト、アンドリュー・スミスが参加した壮大なバラードナンバー「TIME」など、平井の詞と曲、ボーカルをもっとも引き立てる最善のプロダクションが施されているのだ。機材の進化と低価格化により“アマチュアでもクオリティの高い曲が作れる”などと言われるが、お金と手間をかけたポップスはやはり格別。トップアーティストは環境が許す限り、最高の品質を目指すべき、ということを再確認させてくれる充実作だ。


■Suchmos『MINT CONDITION』(EP)


 『めざましテレビ』(フジテレビ系)で取り上げられるなど、いまやすっかり“音楽好きなら聴かなきゃいけないバンド”というポジションを獲得しているSuchomosから3rd EP『MINT CONDITION』が到着。濃密なグルーヴとオルタナティブ・ロックの残像がひとつになった「MINT」、鋭利なギターサウンドとタイトなドラム、DJスクラッチが絡み合う「DUMBO」、軽快なカッティングとテンションコード、スムーズな旋律をナチュラルに共存させたポップチューン「JET COAST」、R&Bとジャズが有機的に混ざったミッド・チューン「S.G.S.3」を収録した本作には、日本の音楽の新たな潮流を生み出しつつある、現在の彼らの状態の良さがストレートに反映されている。好きなことをやるためにはインディーズのほうが……といったバンドとは完全に一線を画し、“自分たちのスタンスを持ったまま、日本のスタンダードになりたい”と公言しているSuchmos。彼らの音がヒットチャートのトップに上り詰めれば、この国のポップミュージックは大きく変貌するだろう。


■神聖かまってちゃん『夏.インストール』(AL)


 親しみやすい旋律とシンプルなバンドサウンドのなかで<うまくいかない事もあるさきっと/全部きっと良くなるさ>と歌う1曲目の「きっと良くなるさ」を聴いたときは「の子がこんなに前向きな曲を書くなんて!」と驚いたが、どこか牧歌的なメロディとともに<泣きそうだよと素直に/言えたらよかったんだろう>という後悔の気持ちを描いた「そよぐ風の中で」、音楽に興味を持ち始めて恐る恐る自分の表現をスタートさせた高校時代を舞台にした「リッケンバッカー」と進むうちに、彼はもしかしたら、現実に対する絶望の度合いがさらに進み始めているのでないかと感じた。それを示唆しているのが、毒が抜けたかのようなポップなメロディライン、そして、まるで人生を回顧するような歌詞。目の前の世界と格闘し、音楽シーンに牙をむいた彼の姿は消えつつある。しかし、完全なる諦念に包まれ、静かなる狂気を含んだ本作の楽曲からは、これまで以上の凄みが確かに感じられるのだった。


■UNISON SQUARE GARDEN『Dr.Izzy』(AL)


 シングル『シュガーソングとビターステップ』(2015年5月)の大ヒット、初の日本武道館公演(2015年7月)を経て、ついに本格的なブレイクを果たしたUNISON SQUARE GARDENだが、これまで以上の期待と注目が注がれている本作で彼らは、“ロックバンドとしての通常運転を維持したまま、音楽的最高値を更新する”という従来のスタンスを貫いてみせた。目まぐるしいスピード感を伴って展開していく楽曲構成、ロックミュージック特有の爆発力と(アニソン、ボカロ系のユーザーにもアピールする)現代的なポップネスを共存させたサウンドメイク、メンバー3人の高い演奏力を背景にした緻密でスリリリングなアンサンブル。バンドという形態の可能性をさらに追求した本作は、“シュガーソング”から入ってきた初心者からお得意様的なファンを満足させると同時に、まったく誤解されることなく、現在進行形のUNISON SQUARE GARDENを伝えることになるだろう。このブレのなさ、ロックバンドとしての信念の強さこそが、彼らの核なのだと思う。


■the HIATUS『Hands Of Gravity』(AL)


 アルバムをリリースするたびに変化と実験を繰り返し、前衛的なサウンドにも躊躇なく踏み込んできたthe HIATUSだが、通算5作目のオリジナルアルバムにおいて彼らは、“これぞthe HIATUSの王道だ!”と快哉を叫びたくなるような音楽を堂々と打ち鳴らしている。壮大な物語性を体現するメロディとスタジアム級のダイナミズムを備えたバンドサンドがひとつになったビッグアンセム「Geranium」、煌びやかな光を放つピアノと推進力の強いビートに後押しされ、空を突き抜けるようなボーカルが響き渡る「Clone」、緻密に抑制されたアンサンブルから一転、サビに入った瞬間に一気に開放される「Drifting Story」。冒頭の3曲を聴くだけで、彼らのテンションがポジティブに振り切れていることがはっきりとわかるはずだ。楽器の鳴りを活かしたオーガニックなサウンド、感情が赴くままに自由に解き放たれた細美武士の歌も印象的。活動スタートから7年。本作によってthe HIATUSは遂に自らのスタイルを発見したのかもしれない。(森朋之)