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AKB48出身者、女優として評価高まる背景ーー前田敦子、川栄李奈、島崎遥香らはどう躍進したか

2016年07月05日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『AKBラブナイト 恋工場』

 グループアイドルブームを切り開いてきたAKB48だが、春クールのドラマではAKB出身の女優が、各ドラマで成果を見せていた。


参考:アイドルはなぜ女優を目指すのか? 姫乃たまが“アイドルと映画の関係”を考える


 AKBのセンターとして活躍し、卒業後は女優として活躍する前田敦子は主演ドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)で恋愛体質の政治記者を演じた。常に複数の男性と恋愛して、決して恋に溺れないはずだった彼女が、妻子持ちの政治記者・小津(新井浩文)との泥沼にハマっていく姿は人間臭くて面白かった。「深夜の昼ドラ」と銘打っていることもあってか、セクシーな場面が多く、庶民的な女の子を演じることが多かった前田にとっては大人の女性を演じられることを証明する新境地となった。


 一方、意外なダークホースとして注目されたのが川栄李奈だ。連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(NHK)では、仕出し弁当屋の一人娘として働く姿を好演し『早子先生、結婚するって本当ですか?』(フジテレビ系)では、松下奈緒の妹役で既婚者の女性を演じた。どちらも役に成りきっており、おバカキャラで売っていたアイドル時代の川栄を意識することはほとんどなかった。アイドル出身の女優はどうしても、本人のイメージありきの役になってしまうものだが、自分を消して役に成りきれるのが川栄の素晴らしいところだ。こういう女優は作り手から高く評価されるので、今後は名バイプレイヤーとして出演作が増えていくことだろう。


 現役のAKBメンバーでは、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)で生真面目すぎて就活がうまくいかずに悩む大学生を演じた島崎遥香が素晴らしかった。就活がうまくいかずにイライラしている姿もハマっていたが、柳楽優弥が演じるガールズバーのオーナーと妻子がいるとは知らずに恋愛関係になっていく姿は女の生々しさを見せており、ラブホテルに行く場面もあった。


 彼女たち三人に共通するのは、恋人とふつうに性行為をする年相応の女性をちゃんと演じているところだ。これは演じている本人もえらいのだが、こういう仕事にNGを出さない事務所の攻めの姿勢にも関心する。


 さすがに激しい濡れ場や脱ぐ場面はテレビでは難しいだろうが、おそらくいい作品と出会う機会があれば、躊躇なく脱ぐのではないかと思う。2000年代にジャニ―ズ事務所のアイドルたちがテレビドラマに俳優として進出して高い評価を受けたのは、宮藤官九郎を筆頭とした先鋭的なクリエイターが作る『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』(ともにTBS系)といったドラマに出演し、アイドルでありながら性行為や暴力的な行動をするアイドルとしてはイメージダウンになりかねない青年役に真正面から挑んだからだ。そのことで長瀬智也(TOKIO)や岡田准一(V6)といった俳優は頭角を現し、今ではジャニーズ事務所所属のアイドルであることが、欠点と見られることはほとんどなくなっている。宮藤官九郎脚本のドラマ『ゆとりですがなにか』で、現役アイドルでありながら、生々しい女性を演じた島崎を見ていると、同じことが今のAKB出身の女優にも起こりつつあるのだろうと思う。


 一方、『私結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)では、松井珠理奈が、中谷美紀が演じるアラフォーの美容皮膚科医の女子高校生時代の姿を演じた。ノスタルジックなセーラー服の美少女を演じていたのだが、アイドルだからこそできる美少女役もちゃんと押さえているのだから、やはりAKBは層が厚い。


 今期の出演はなかったが、大島優子や松井玲奈の出演作も年々増えており、『AKBホラーナイト アドレナリンの夜』や『AKBラブナイト 恋工場』(ともにテレビ朝日系)といったメンバーが出演を務めるドラマを定期的に放送していることも、女優として進出する際の後押しとなっている。


 『マジすか学園』(テレビ東京系)の頃は「このドラマは学芸会の延長であり、登場人物の一部にお見苦しい(?)演技がございますが、温かく見守ってご覧いただければ幸いです」と、テロップを出すくらい、メンバーの多くは素人だったが、『マジすか学園』で強烈な印象を残した前田敦子、大島優子、松井玲奈が現在女優として活躍しているのだから、AKBドラマを作り続けてきた成果は着実に生まれている。


 そういった出演機会の多さもさることながら、AKB出身の女優が強いのは、10代からAKBとして活動することで得られる経験値が同世代の女の子と較べた時に桁違いに多いからだろう。選抜総選挙を筆頭に彼女たちはAKBとして活動する中で何度も過酷な体験をしている。そこで味わった喜怒哀楽の感情は、演技をする際の引き出しとして最大の武器となる。アイドルでありながら、感情と肉体をむき出しにできることこそが、AKB出身の女優たちの強さだと言えよう。


 最後に、ドラマではないが、元AKBのメンバーである長尾まりやが出演したバラエティ番組『LAST KISS~最後にキスするデート~』(TBS系)でのキスシーンがあまりに濃厚だったためにネットで話題となったが、彼女も女優として少しずつ出演作が増えており、今後が注目である。


■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。