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前田敦子は原田知世や柴咲コウのような存在に? 女優を生業とするシンガーの系譜

2016年07月04日 05:01  リアルサウンド

リアルサウンド

前田敦子『Selfish』(Type-A)

【参考:2016年06月20日~2016年06月26日週間CDアルバムランキング(2016年7月4日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2016-07-04/)


 非常に「男らしい」面々が揃った今週のアルバムチャート。Kis-My-Ft2が初登場1位、「元祖“元KAT-TUN”」でもある赤西仁が初登場2位、そして3位には「HiGH&LOW」のベストアルバム。「ジャニーズ+LDH」という今の時代を象徴する組み合わせが占めるトップ3以降も、コブクロ、布袋寅泰、レキシなど男性ミュージシャンが続く。


(関連:AKB48メンバーは卒業後に交流が深まる? 前田敦子「卒業してから指原がよく連絡をくれる」


 そんな中、紅一点ランクインしたのが8位の前田敦子。2011年のソロデビューシングル『Flower』から足かけ5年で発表されるファーストアルバム『Selfish』は4タイプでのリリース。これまでのシングルに収録されていた楽曲群をベースに、各タイプに書き下ろしの新曲が収録されている。


 AKB48のかつての大エースが複数種リリースでオリコン8位。この結果には少しの寂しさも覚える。グループ卒業から4年、最近では歌手というよりも女優としての活躍が著しく、しかも収録曲の大半が既発曲ということを考えると、購入する人は限られるというのが実態だろう。


 注目が集まりづらい形で発表された『Selfish』ではあるが、作品としてはかなり聴きごたえのあるものになっている。もともと前田敦子のソロ楽曲には女性シンガーソングライター的な繊細さを感じられるものが多く、アイドル的な側面を強調するような作りになっている指原莉乃、渡辺麻友、柏木由紀といった48グループの中心にいる面々のソロ作とは一線を画していた。ギターポップ調の「君は僕だ」「タイムマシンなんていらない」、凛々しいロックナンバーの「セブンスコード」、最近のShiggy Jr.やフレンズあたりにも通じる「ブラックテイストがほどよくまぶされたJ-POP」風味の「冷たい炎」といった多様な楽曲群をまとめて聴くとその印象はますます強固になるし、彼女がここまで極めて「音楽的な」活動をしてきたことがよくわかる。また、今作用に書かれた新曲についても、妖艶な空気を漂わせる「Selfish」(『毒島ゆり子のせきらら日記』の主題歌。全タイプに収録)、激情がほとばしるハードなサウンドの「絶望の入り口」(Type-Bに収録)、AKB48「ラブラドール・レトリバー」直系のカラフルな「わがままなバカンス」(Type-Dに収録)とどれも楽しく聴けるが、白眉はシンプルなバラード「やさしいサヨナラ」(Type-B)。報われない恋について切々と歌うボーカルには欧陽菲菲「ラヴ・イズ・オーバー」すら思い出してしまうような説得力があり、女優活動で得た表現力が歌にもフィードバックされるという好循環が生まれていることが想像できる。


 前田敦子は最近公開されたインタビュー(参考:http://natalie.mu/music/pp/maedaatsuko)において「意外と好きなことなんですよ(笑)、歌を歌うのは。あとはやっぱり、秋元(康)さんがつなぎ止めてくれているなって思うんですよね。秋元さんが毎回素敵な歌詞を書いてくれるから、歌いたいって気持ちにさせてくれるというか。この相思相愛は一生切り離せないものなのかもなって」「歌手活動は……なんだろうな、私にとって常にいろんなことの中間にある、心地いい場所なんです」と語っていた。作品の世界を理解し、自分なりのフィルターを通じて表現するというプロセスにおいて、女優を生業とするシンガーは時として専業のミュージシャンを凌駕することもある。この先も音楽活動を行う意向はあるようなので、女優としての地位を確立しながら音楽的にも聴きどころのある作品を発表している原田知世や柴咲コウのような存在に彼女がこの先なっていくことを期待したい。(レジー)