2016年07月03日 10:42 弁護士ドットコム
最新の基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」への更新について、古いバージョンのOSの利用者から「勝手にアップデートされた」といった不満が出ていた問題で、日本マイクロソフトは7月1日、アップグレードの通知に際して、新しい表示方法を公表した。
【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】
これまでの通知画面では、右上の「×」を押して閉じるだけでは更新を拒否できないケースがあり、更新予約をキャンセルする方法がわかりづらいという声があがっていた。今回の変更で、通知の「今すぐアップグレード」「日時を指定」の表示の右横に、「無償アップグレードを辞退する」という選択肢が新たに表示される。
マイクロソフト社は、セキュリティー向上などを理由に「ウィンドウズ10」への更新を推奨していたが、5月に同社が更新の予約日時を指定する方法に変更。予約に気付かずに、旧OSから「ウィンドウズ10」に更新されたとして、世界中の利用者から「利用していたソフトや周辺機器が使えなくなった」など不満の声が上がっていた。日本でも、消費者庁は6月22日、更新に関する注意点をまとめ、ホームページで公表していた。
アメリカでは、女性が「自動アップグレードされたことで、仕事に支障をきたした」として、マイクロソフト社を訴えていた裁判で、マイクロソフト社に1万ドル(約100万円)の支払いを命じた一審判決が確定したとの報道もある。
日本でも同様の裁判が起きた場合、「これまで使っていたソフトや周辺機器が使えなくなったため、仕事に支障をきたした」といった理由で賠償が認められる可能性はあるのだろうか。消費者問題に詳しい近藤暁弁護士に聞いた。
「マイクロソフトの規約には、更新プログラムとユーザーが使用するソフトとの互換性は保証されないことが明記されており、ユーザーはこの規約に同意しています。
また、『自動的にアップデートされた』と訴える多くのユーザーは、自動更新を有効とする設定にしているのでしょう。自動的にアップグレードすること自体は、規約に違反するものではありません」
近藤弁護士はこのように述べる。規約そのものが問題だとは言えないのだろうか。
「規約がユーザーの利益を一方的に害するような場合には、規約自体が無効と判断される可能性があります。
しかし、更新プログラムとすべてのソフトとの互換性を保証することは技術的に困難です。一方、更新プログラムの承諾を撤回することも可能とされ、OSを選択する権利はなおユーザーに残されていたといえます。
そうすると、規約がユーザーの利益を一方的に害するものとまではいえず、無効ということは難しいでしょう」
規約に反していないということは、これまでの対応も問題なかったということなのだろうか。
「そうとは言い切れません。
一般的に、事業者は、当事者間の情報格差や情報の重要性の程度などに応じて、商品・サービスに関する適切な説明をする義務を負っています。
現在は改善されていますが、先にマイクロソフトの示していたアップグレードの回避方法は、非常にわかりにくいものでした。
この点をとらえて、『アップグレードの回避方法を適切に説明すべき義務を怠った』ということを主張立証できれば、この義務の違反により生じた損害の賠償責任を負う可能性はあるでしょう。
ただし、マイクロソフトの規約には賠償すべき損害の範囲を制限する規定も設けられているため、賠償請求のハードルはなお高いといえます」
近藤弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
近藤 暁(こんどう・あき)弁護士
2007 年弁護士登録(東京弁護士会)。主に企業の立場から、消費者法務(消費者契約法、特定商取引法、景品表示法、PL 法、個人情報保護法など)を中心として、IT法務、労働事件、債権回収など幅広い分野を取り扱う。
事務所名:近藤暁法律事務所
事務所URL:http://kondo-law.com/