2016年07月01日 12:52 弁護士ドットコム
日本音楽著作権協会(JASRAC)は6月上旬、著作権の手続きを済ませずにBGMを利用している全国187事業者、212店舗に対して、簡易裁判所に民事調停を申し立てた。このうち、132事業者、151店舗が美容室だったという。
【関連記事:18歳男子と16歳女子 「高校生カップル」の性交渉は「条例違反」になる?】
JASRACによると、店舗が有線放送などの業務用BGMを利用する場合、著作権の手続きを有線放送などの事業者が代行しているが、携帯音楽プレーヤーやパソコン、インターネットラジオなどを利用する場合、施設ごとに許諾申請の手続きが必要になる。
JASRACがこうした全国一斉の法的措置をとるのは、2015年に続いて今年が2回目ということだ。店舗でBGMを流すときに気をつけるべきことについて、著作権にくわしい井奈波朋子弁護士に聞いた。
「音楽の著作権者には、音楽を公衆に聞かせることを目的として演奏する権利(演奏権)があります。
店舗でBGMを流す行為は、音楽を公衆(=客)に聞かせることを目的としていますから、著作権法の『演奏』にあたります。演奏には、生演奏だけでなく、録音されたものを再生することも含まれます(著作権法2条7項)。
そこで、店舗でBGMを流す場合、著作権者から演奏の許諾を受けて、利用料を支払う必要があるのかという問題が生じるのです。BGMを流す方法によっては、JASRACなどの著作権管理事業者と契約して、利用料を支払わなければいけないことがあります」
ひとくちに、BGMを流すといっても、有線放送やCDの音楽プレーヤーなど、いろんな方法がある。どのような扱いになっているのだろうか。
「購入したCDを音楽プレーヤーで再生してBGMとして流す場合、著作者の演奏権がおよぶ『演奏』となります。
ただし、著作権法は、利用許諾を得ることなく著作物を使うことができる『例外』を定めています。非営利目的で、かつ、公衆から音楽の提供の対価として料金を徴収しない場合、例外として、著作権者の許諾を得る必要はありません。
美容室や飲食店などの店舗でBGMを流すのは、来店者から直接、音楽の対価を徴収しているわけでありませんが、店の雰囲気を良くするなど、客へのサービスを目的としていると考えられます。つまり、営利目的となり、例外として認められる条件を満たしませんので、著作権者の許諾を得る必要があります」
FMやAMなどラジオ放送をBGMとして店舗で流す場合はどうだろうか。
「音楽の著作権者には、『演奏権』と別に、公衆送信される音楽を受信装置をもちいて、おおやけに伝達する権利(伝達権)があります。ラジオ放送を店舗で流すのは『伝達』となります。
ただし、伝達権にも例外があります。非営利目的で、かつ公衆から音楽の提供の対価として料金を徴収しない場合、著作権者の許諾を得る必要はありません。
また、通常の家庭用受信装置をもちいて伝達する場合も同様に、例外となるので、たとえ営利目的であっても、著作権者の許諾を得る必要はありません。
一般に、美容室や飲食店など小規模な店舗で、ラジオ放送を流す場合、通常の家庭用受信装置で流しているでしょうから、著作権者の許諾を得る必要はありません。
また、近年、放送局がラジオ放送と同時にインターネット放送をおこなっている場合があります。ラジオ放送と同時に送信されるインターネット放送(例えば、radikoなど)であれば、BGMとして流した場合も『伝達権』の例外が適用されます」
「しかし、いわゆる、インターネットラジオをパソコンや携帯音楽プレーヤーなどで再生して、BGMとして流す場合、事情が異なり、例外の適用がありません。したがって、利用許諾を得る必要があります。
インターネットラジオは、著作権法上、放送でなく『自動公衆送信』にあたります。自動公衆送信とは、要するに、オンデマンドの送信です。
インターネットラジオは、『ラジオ』という名前がついていても、オンデマンドで送信されているので、公衆が同じ内容の送信を同時に受信する『放送』ではありません。
自動公衆送信は、伝達権の例外の適用対象とならないのです。また、営利目的ですので、演奏権の例外規定の適用対象にもなりません」
「有線放送を流す場合、通常の家庭用受信装置をもちいるわけではありませんし、先ほど述べたように営利目的となりますので、著作権者の許諾を得る必要があります。
ただし、USENのように、事業者がJASRACと契約し、店舗に代わって著作権使用料を支払っている場合がありますので、その場合は、店舗が許諾を得る手続きは不要となります」
ほかに注意すべきところはあるだろうか。
「かつて、適法に録音された音楽(CDなど)を再生して店舗でBGMを流す行為は、客に音楽鑑賞をさせるような事業(音楽喫茶など)をのぞいて、許諾不要とされていました。
そのため、昔から営業している店などは、BGMを流しても問題がないと考えている可能性があります。
しかし、そのような扱いは、1999年の著作権法改正で撤廃されました。そのため、現在は、店舗でCDなどを再生してBGMを流す場合、著作者からの許諾を受け著作権料を支払う必要があることに注意する必要があります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
著作権・商標権をはじめとする知的財産権、労働問題等の企業法務、家事事件を主に扱い、これらの分野でフランス語と英語に対応しています。ご相談者のご事情とご希望を丁寧にお伺いし、問題の解決に向けたベストな提案ができるよう心がけております。
事務所名:聖法律事務所
事務所URL:http://shou-law.com/