トップへ

GLIM SPANKYが「怒りをくれよ」にこめた思い「時代を変える“違和感”を世間に投じられたら」

2016年07月01日 12:41  リアルサウンド

リアルサウンド

GLIM SPANKY

 2014年のメジャーデビュー以来、ヨコノリでぶっとくてメロディックで根底にブルーズがどーんと鎮座している、まさに本物感あふるる音楽性で、特に洋楽ファンから注目を集めたり、大人の著名人たちから絶賛の声を浴びたり、「CMで歌う人」としてボーカルであり作詞作曲を手掛ける松尾レミがひっぱりだこになったりしつつ、創作とリリースとライブを行ってきたGLIM SPANKY。2016年7月20日にリリースされるセカンドアルバム『Next One』では、リード曲「怒りをくれよ」がその3日後に公開の映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌になるという大きなチャンスが舞い込んだが、これも原作者の尾田栄一郎のプッシュで抜擢されたという。


(関連:GLIM SPANKYが見据える“普遍的な音楽”「要らないものは削ぎ落とし、何をしたいかをハッキリ言う」


 ただしーー自分もこのユニットにぶっとばされて以来、ワンマンはもちろんフジロックや朝霧JAMなどのステージも追っかけてきた身なのであえて言うが、そういうような評価を受けていること、そもそもそういう音楽性でありそういう存在であること自体にも、いい面と、必ずしもそうではない面とがある、と思う。いや、思うというか、この1年観て聴いてきてそれを体感した、実感した、と言ったほうがいいかもしれない。


 「怒りをくれよ」と「ワイルド・サイドを行け」の2曲以外はセルフ・プロデュースで作られた、超かっこよくて超いい曲揃いで勢いにも深遠さに満ちた大充実の『Next One』を機に、そのへんの「評価高いからって喜んでばかりもいられない」問題も含めて、松尾レミと、ギタリストであり現在サウンド・プロデュースの中枢を担っている亀本寛貴に訊いた。(兵庫慎司)


■「フジロックが、昨年のステージの中でいちばん気持ちよかったかも」(松尾レミ)


ーー昨年、フジロックや朝霧JAMに出ましたよね。フジロックは朝イチのレッドマーキーでしたが、やってみていかがでした?


松尾レミ(以下、松尾):最っ高でしたね。もうめちゃくちゃやりやすくて、もうなんにも緊張しなかったですね……なんででしょうね?


亀本寛貴(以下、亀本):なんだろうね。特に理由はないよね。でもほんとにやりやすかった。


松尾:人が多いほうが緊張しないのかもしれないですね。まず、朝イチのレッドマーキーにGLIMを観に来てくれるか? という心配がすごくあったわけです。デビューしたばっかりで、名前も知られてなくて。でもあんな、テントの外まで人が来てくれて、出る前にSEが鳴った瞬間にドッと歓声が上がったのを感じた時に、緊張がすべてなくなって。ああ、この人たちは、私たちと同じただのロック好きなんだ、ステージに上がるとかいう壁はないんだということを感じて。そこで不安がなくなって、自分たちがいいと思う曲を気持ちよくやるだけだ、それがいちばんこの人たちに向けてのリスペクトだなって思って、自然にできました。すごくやりやすかったし、昨年のステージの中でいちばん気持ちよかったかもしれないです。


 私、ステージに出るギリギリまで、すっごい体調悪くて。でも、ステージに出るっていう時に、なんか治ったんですよ。具合が悪かったのがウソかのように大丈夫になって、「よし、めっちゃ楽しむぞ」っていう感じで始まったんで。


ーー日本のロック中心のフェスやイベントも出られていますよね。その方が難しかったりしました?


松尾:ああ、そうですねえ……アウェイ感がある時もありましたね。私たちみたいな音楽に、あんまり慣れていないノリかたというか……自分が普段聴いている音楽とか、普段知っているライブのノリかたとはまったく別のもので、驚いたりすることもありますし。


ーーあの、でも、フジの2日目の朝イチのレッドマーキーって、決してやりやすいとこじゃないんですよ。


松尾:え、そうなんですか?


ーー日本の新人バンドの出演が多い時間帯なんだけど、お客さんみんな「誰?」って感じだから、最初は観ていても「あ、グリーンステージ始まる」っていなくなっちゃったりするんですね。だからGLIM SPANKYがあんなにウケてたのを観て、びっくりしたんですけども。


松尾:そうなんですか……知らなかった。あの時思ったのが……フジロックはほんとに自然だったんですね、お客さんのノリかたとか。でも、ほかのフェスとかで違和感を感じて、もっとそこにも届く曲をやりたいと思ったし。あと若者が、腕を挙げる、飛ぶっていうノリかたは知ってるんだけど、私たちみたいなロックのノリかたは知らないんだな、というか。そうじゃないロックのノリかたもあるんだよ、っていうことを教えてくれるバンドが少ないんだって思って。だからGLIM SPANKYが、5年後10年後の若者のロックのために、アウェイでもなんでもいいから、そういう場にどんどん出て行って、「こういうロックもあるんだよ」っていうことをやっていけば、少しでも未来が変わることもあるんじゃないかな、と思いました。昨年は初めてそういうことを学びましたね。


 たとえば映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌というのも、GLIM SPANKYのようなロックが市民権を得る突破口になるかもしれない、と思っていて。最初は変わった目線で見られるかもしれないけど、「手をつけづらいけど、聴けるな」と思ってくれるかもしれないし。だから、きっかけをいっぱい作りたいと思って。


■「逆に私たちと同世代のバンドのほうが変わってるって思っちゃう」(松尾レミ)


ーーフェスとかに限らず……大人にやたら誉められる、タイアップの話もいっぱい来る、でも今の日本のロックの現場において自分たちはどうも異質らしいぞ、ということにだんだん気づいていく1年だったんじゃないかと。


松尾:(笑)そうですね。


亀本:でも逆に……邦楽のフェスとかイベントとか出て、ほかのバンドを観るじゃないですか?  観て、「ヤベえ、俺らと似てる。がんばんねえと負けるかも」とかいう気にならないんですよ。それはデビュー前も一緒で、人気の新人バンドが出てきたらしいぞ、聴いてみる、自分らと全然似てねえ、大丈夫だ、みたいな(笑)。もともとそうだった、というのはありますね。


松尾:そうだね。逆に私たちと同世代のバンドのほうが変わってるって思っちゃうんですよね。世界的な王道から見たら、そっちのほうがあきらかに異質なんで。


ーーそれよくわかるんですけど、ただ、日本の主流はそっちなわけで。


松尾:(笑)そうなんですよね。それは感じますよね。


ーー目上のロックファンに好かれるのはいいことですけども、まあ、そっち方向は桑田さんに絶賛された時点でもう上がりじゃないですか(※昨年末にTOKYO FMの番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』で「2015年邦楽シングルベスト20」を発表、「褒めろよ」を2位に選んだ)。


松尾:(笑)。


ーーならばそこでどうするか、というようなことも考えながら、このニューアルバム『Next One』を作ったんじゃないかな、と思ったんですが。


松尾:あ、そうですね。それは考えました。


亀本:あ、そう?  僕はそんな考えてないけど(笑)。


松尾:ほんと?  でも私、「怒りをくれよ」とかは……BPMが速い曲って、私はロックにするのは難しいと思っていたんですけどーー。


亀本:そんなことはないよ。


松尾:いや、だから、パンク寄りになるのか、J-ROCK的になるのか、それかアークティック・モンキーズの初期みたいな速い四つ打ちとか、そんな感じになるのか、みたいな。それまで、速いロックが自分の中になかったので、そこをどう自分の好きなロックの感じと組み合わせればいいのか、っていうのは常に葛藤しているところで。でも、速いっていうことで、受け入れられる土壌が広がるかもしれない、というのもあるじゃないですか。


ーーはい。そこで、他の同世代のバンドたちはたぶん自然に、あたりまえに速いんですよ。松尾さんは、そんなに苦労しているということ自体がね(笑)。


松尾:はははは。でもほんと、「怒りをくれよ」で「なんだこいつらは」って思ってもらえるかもしれないし。そのきっかけをどれだけ作れるかっていうところで、「怒りをくれよ」っていうおかしなテーマを考えたというのがあって。怒りっていうのはマイナスなことじゃなくて、ポジティブなことを成し遂げるために必要なんだ、だからもっと怒りをくれ、そして私は成長するんだ、っていう。サラッとした歌詞じゃなくて、とっかかりを作るようにしている、というのはあって。これが世間に受け入れられるかどうかはまだわからないけれど、「こいつらなんなんだ?」と思われるのを期待して作りました。言葉もそうだし、歌いかたもそうだし。


■「年上の人にウケるっていうのは不思議でしょうがない」(松尾レミ)


ーーGLIM SPANKYに反応している年上の世代も、フジロックのお客さんも、GLIM SPANKYがルーツにしているような60年代・70年代の洋楽ロックどっぷりな人たちではないと思うんですね。現行のロックや、ハウスやヒップホップをあたりまえに好きな人たちだと思うんです。僕もそうだし。


松尾:ああ、なるほど。


ーーだから、その人たちがGLIM SPANKYの何に惹かれているのかを解き明かせれば、そこへの対応もできるし、そこ以外へも向き合うことができるんじゃないかなと。


亀本:うん……なんなんだろう?


松尾:なんなんだろうね? わかんないね。だから私、年上の人にウケるっていうのも、「ブルースだねえ」とか言ってくれるのも、不思議でしょうがなくて。それが理解できないんです。私、そんなにブルースを聴いて育ったわけではないし、自分でもブルースをやっているとは思ってないし。私は普通にBUMP OF CHICKENを聴いて、こういうロックをやってるだけなんですけど。


亀本:僕もGLAYから入ったしね。


ーーバンプって今プロでやってる後続のバンドたちへの影響力、すごいですよ。でも、さっきおっしゃったように、今の日本のまんなかにいるようなロックは、自分たちと違うものだと感じるわけでしょ。


松尾:そうですよね。……なんだろうなあ。だからぶっちゃけ、日本のメインストリームにいるバンドと自分たちは違うんだな、というのは思うんですけど。ただ、なんでBUMP OF CHICKENが好きだったのかというと、藤原(基央)さんのギターに、すごくウエストコースト・ロックとか、カントリーとか、ブルースを感じていたんです。このバンドはルーツ・ミュージックをちゃんと通ってきてるんだな、って思ったのが理由だったんです。


 そういうことを……たとえばBUMP OF CHICKENと同時期にホワイト・ストライプスにハマったんですけど、ホワイト・ストライプスに何を感じたかというと、私はすごく新しいものとして捉えましたけど、その新しい音の中に、ルーツから脈々と受け継がれてきた血が流れているからだと思っていて。それが、日本のロックのメインストリームにいるバンドからは、なかなか見つけづらくて。でも流行っている理由は絶対にあるし、人に届いている理由は絶対にあるから、そこをちゃんと解明した上で、なんて言うんですかね、時代を変える一石を……違和感を、世間に投じられたらいいなあと。そのきっかけに『ONE PIECE』がなったらいいな、と思っていますね。


亀本:そうだね。これがどう受け取られるかですね。


■「『これが日本語でやれてるんだから、絶対いいでしょ』って思ってるところはある」(亀本寛貴)


ーー「もっと届けたい」「もっと伝えたい」という意志をすごく感じるアルバムですよね。


松尾:もっと、ひとつ飛び抜けたいんですよね。GLIM SPANKYがみんなのものになるまでに、1個壁があると思っていて。たとえば日本武道館をやれたからといって、みんなのものになれたわけではないと思うんです。そこの1個上を飛び抜けて、メインストリームにちゃんと行けた時が、本当の意味での、みんなに届くフィールドに行けたということだというような気がしていて。まだまだデビューしたばかりで、その景色は見たことがないんですけど、それを予想して、ちゃんとファースト、セカンド、サードと、核がブレないメッセージやサウンドを持っていながらも、ちゃんと受け入れられる音を作っていけば、自分の望むところが少しでも見えるような気がして。それを信じて今、「ロックはロックであるべき」という音を作っています。


ーー音もだし、歌詞の書き方もゴツゴツしているというか、耳にひっかかる強い言葉がよく出てきますよね。「これがロックでしょ」という定義みたいなものってあります?


松尾:私的には、自分の中のロックの答えは決まっていて……それは昔からなんですけど、どれだけ批判的なことを言ったり、攻撃的な言葉を使ったり、攻撃的な音だったとしても、歌のどこかに愛や平和や希望があるのがロックだと私は思っていて。その愛や平和や希望が、日常生活で満たされないから、怒りがあって、それを歌うから攻撃的なものになるんだと思いますけど。どの曲もそういう気持ちで書いていますね。たとえば「怒りをくれよ」は、自分がもっとでかいところに行きたいから、もっとみんなを幸せにしたいから、そのハードルを超えるために私にもっと怒りをくれ、だから次のステップに行けるんだ、という希望を、そこに見出していたりとか。どこかに自由があって、実現したいという気持ちがあって、そしてハングリーである。それが私の中でのロックです。だからそういうふうな歌詞を、一貫して書いています。


亀本:うん。実は、日本語でやるのがすごい難しくて。「これ英語でやったらラクにかっこよくできるのにな」っていつも思うんですけど、やっぱり日本語でやったほうが伝わるし、おもしろいし……って思えることが、「これなら絶対通用するだろう」っていう自信になってるというか。「これが日本語でやれてるんだから、絶対いいでしょ」って思ってるところはありますね。僕、デモを作ってて、「うわ、このバックだと日本語でメロディつけづらいだろうな、申し訳ない」と思いながらレミさんにデモを渡しても、すごい歌がのって返ってきたりするので。「これはすごい」とか思いますから、作っていて。