ドイツの「Auto Motor und Sport(アウト・モーター・ウント・シュポルト)」誌は「ヨーロッパGPで、メルセデスが最新式のデバイスを使用して、ピレリが定める最低内圧を巧みにクリアしている」と報じた。
同誌によれば、電気によって高温に熱された空気をブレーキダクトから送り込み、ブレーキとアクスル(車軸)を高温に保ち、タイヤをセットしたときに内圧をクリアする。外してフォーメーションラップを走り始めると、内圧が下がる仕組みではないかというものだ。
これが事実ならば、メルセデスは限りなく違法に近いトリックを使っていることになるが、オーストリアGPのパドックで、この件が話題に上がることは少なかった。なぜライバルチームは沈黙を貫いているのか。あるチーム関係者が理由を語る。
「メルセデスがそのデバイスを使用していることは、かなり前からみんな知っている。彼らが使いはじめたのは、バクーからではなく、もっとずっと前だからね」
そこで過去の写真を探してみると、スペインGPスタート前のグリッドで、今回「Auto Motor und Sport」が伝えたデバイスを使用している写真が見つかった。少なくとも2カ月以上も前から、メルセデスは話題のデバイスを使用している。それでもライバルたちは表立ったアクションを何も起こしていない。
「我々も導入を検討したことがあったが、費用対効果を考えると、そこまでのメリットがないので導入しないことにした」と、前述の関係者は説明する。
「あれは違法な装置ではなく、内圧をキープしておくためのもの。スタート時に履くタイヤは、直前まで最低内圧をクリアしている状態でタイヤウォーマーで保温されており、フォーメーションラップ5分前までにマシンに取りつけられる。そして、それからフォーメーションラップのスタートまでの間に、ピレリが任意で内圧をチェックする。タイヤウォーマーが外されたタイヤの内圧は徐々に下がっていくから、メルセデスの装置はそれを防ぐためのものにすぎない。おそらく予選でいつも速いメルセデスはピレリのチェックを頻繁に受けているため、確実にパスするためにやっているだけで、我々のようなチームには必要がないデバイスのように思える」
ちなみに高速コーナーが多いレッドブルリンクでは、ピレリの最低内圧は昨年よりもフロントで4psi高く設定されている。このデバイスを導入しているメルセデスは「持っている者」のアドバンテージを活かすことができるのだろうか。