2016年07月01日 10:02 弁護士ドットコム
「これってれっきとしたパワハラですよね?訴えてももう無駄なんでしょうか?」。Yomiuri Online「発言小町」に、職場でのパワハラ被害の末に退職に追い込まれたというトピ主から、相談が寄せられました。
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トピ主は、入社当初からいじめの標的になってしまったそうです。周りから「バカ、アホ」「いつでも解雇はできる」「やめろ」といった言葉を浴びせられてきました。誰にも相談することができず、入社から3年が経過して、ついに我慢できず退職したそうです。退職にあたっては、解雇通告も受けていたとのことです。
レスには「暴言の録音、動画などがあれば可能だと思います。ただし訴えても時間がかかるだけで、特にお金とかもらえないと思いますよ」といった意見がありました。一方、「解雇通告もされたとは・・・トピ主さん自身、勤務態度に全く問題がなかったと断言できるの?」と、トピ主への厳しいコメントもありました。
いじめの標的になり、暴言を浴びせられたというトピ主は、会社を訴えることはできるのでしょうか。大川一夫弁護士に聞きました。
(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「これって訴えられる?」はこちら(http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0616/766322.htm?g=15)
● 損害賠償や慰謝料請求が可能ですが、立証が難しいことも
パワハラとは「パワー・ハラスメント」すなわち、優越的地位に基づく嫌がらせのことで、一般的には、上司から部下に対する嫌がらせのことをいいます。今回の質問では、誰からパワハラを受けたのかが分かりませんが、仮に同僚から嫌がらせをされた場合、それが上司の意を汲んで行われたなら、明らかにパワハラです。そうでないものもパワハラに該当する場合がありますが、いわゆる「イジメ」に近いでしょう。
パワハラにせよ、イジメにせよ、社会的相当性を越えたものは違法として許されません。今回のような言葉を浴びせることは、社会的相当性を越えるもので、パワハラにせよ、イジメにせよ許されるものではありません。
ではトピ主は、退職後、会社に対して、損害賠償や慰謝料の請求をすることができるのでしょうか。
パワハラにせよ、イジメにせよ、社会的相当性を越えた違法なものである場合は、退職後であっても損害賠償、慰謝料請求をすることができます。ただ、この場合、一般的には損害賠償請求の相手方は不法行為(民法709条)をした直接の加害者、つまりパワハラやイジメをした人になります。さらに会社に対して損害賠償請求をするには、民法上の使用者責任(民法715条)を問うことになります。
今回は職場で行われていますから、使用者が相当の注意をしていても防げなかったというような特別の例外でない限り、使用者責任は認められるでしょう。会社に請求することができると思います。
もっとも、不法行為の消滅時効は3年ですから、最後のパワハラ・イジメから3年を経過すると、時効として損害賠償を請求できなくなる可能性があります。退職された場合はその点を注意して下さい。
パワハラ・イジメの場合、その立証が難しいことがあります。パワハラ・イジメをした人たちから、「そんなことはしていない」と反論されることがあるからです。一番良い証拠は、パワハラ・イジメをしているその場面をICレコーダーで密かに録音したものです。録音でなくても、パワハラ・イジメを受けた直後に親友に相談したこと(メールなど客観的なものが残っているのがいい)、あるいは医者に相談に行ったことなど、第三者が絡むものがいいでしょう。場合によっては、パワハラ・イジメについて書いた日記や手帳なども証拠になります。
【取材協力弁護士】
大川 一夫(おおかわ・かずお)弁護士
大阪弁護士会所属、元同会副会長。
労働問題特別委員会委員、刑事弁護委員会委員など。日本労働法学会会員、龍谷大非常勤講師。連合大阪法曹団代表幹事、大阪労働者弁護団幹事など。