トップへ

PIGGY BANKS × ヤマサキテツヤが語る、“ガールズロック”の作り方「音楽の専門用語じゃないほうが、マジックが生まれる」

2016年06月30日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

PIGGY BANKS(写真=石川真魚)

 ガールズロックバンド・PIGGY BANKSが、1stアルバム『タイムスリラー』を提げた全国ツアー『時間泥棒ツアー』のファイナルを、6月4日に渋谷Milkywayにて迎えた。『タイムスリラー』がその完成度の高さから、すでに各方面から好評を得ていることもあり、チケットはソールド・アウト。ツアーを通じて、yoko(Vo)、keme(Gt)、akko(Ba)のアンサンブルはよりグルーヴ感を増し、バンドのさらなる進化を予感させるライブとなった。リアルサウンドでは今回、PIGGY BANKSのメンバーと『タイムスリラー』のサウンドプロデュースを手掛けたヤマサキテツヤ氏による対談を実施。実力派プレイヤーが集い、今後のガールズロックシーンにて確かな存在感を示すことを期待させるPIGGY BANKSと、これまでMr.Childrenや布袋寅泰、ミッキー・カーチスなどなど、数多くのミュージシャンの作品に参加してきたヤマサキテツヤ氏は、どのように出会ったのか。そして、PIGGY BANKSが目指すべき方向性とは。深い音楽談義に花を咲かせた。(編集部)


(関連:PIGGY BANKSが示す、ガールズ・ロックのバンド魂ーー硬派かつ変化球に富んだ『タイムスリラー』


■「akkoは“産んでない娘”みたいな感じ」


――まずは、ヤマサキさんがPIGGY BANKSのアルバムにサウンド・プロデューサーとして参加するに至った経緯から教えてください。


yoko:とりあえず、アルバムを作る準備は進めていたというか、レコーディングの予定は決めていたんですけど、当初私たちの中では、プロデューサーさんを立てるっていうアイディアがなくて。まあ自分たちだけでやってみようかっていう感じだったんですよね。だけど、ギリギリのギリギリになって、このままじゃマズイってなって……。


――というと?


akko:みんなキャリアもあるし、自分たちでいろいろやっていたんですけど、それをまとめる人がいないというか、まとめられる人がいないっていう(笑)


ヤマサキ:でも、まとまっているつもりでやってたわけじゃない? ライヴもやっていたし、みんな経験者というか、プロのミュージシャンなわけで。


akko:もちろん、それぞれがやってきたことはあるんですけど、それをPIGGY BANKSの曲として、どうやって出していけばいいのかっていう。それを探りながら作業しつつも、答えが見えそうで見えない状態がずっと続いていて。で、そのまんまの感じでレコーディングに入るのは、さすがにマズイんじゃないかっていう。


yoko:そのときakkoちゃんが、「そうだ、ヤマサキさんがいる!」ってなって。


akko:そう、テツヤさんのことは、かなり前から知っているのに、なぜかその発想が全然なくて。ライヴを観にきてくださいよってお願いしたときも、そういう考えはまったくなく、そのライヴの打ち上げでヤマサキさんと一緒に飲んでるときに、「うわー、いたー!」って思って(笑)。


――で、そこにヤマサキさんが入ってくると。


ヤマサキ:そうですね。まあ、ハメられた感じに近かったけど(笑)。


――先ほどakkoさんが、かなり前から知っている存在と言っていましたが、そもそもヤマサキさんとの接点というのは?


ヤマサキ:akkoが前にやってたバンドのときにちょっと関わっていて、一緒にライヴをやったりしていたんですよね。あとは、akkoのソロを手伝ったり。あまり表立ってはいないんですけど、知り合ってからは、もうだいぶ長いんですよね。だから、変な話、“産んでない娘”みたいな感じというか……akkoが東京に来きたときは、普通に僕の家にきて、嫁にご飯を食わせてもらってるっていう(笑)。


――家族ぐるみの付き合いなんですね。


ヤマサキ:そう。で、そんなakkoが久しぶりに鹿児島からやってきて、東京でライヴをやるっていうから、ちょっと顔を見に行って。で、kemeちゃんが他でやっているバンドのほうにも、僕はちょっと関わっていたりするから、まあ縁のある2人がいたので、ご挨拶だけしておこうと。で、yokoちゃんとは、そのライヴの打ち上げに参加させてもらって、そこでしゃべったのが最初だよね?
yoko:そうですね。何かすごい飲んで、すごいしゃべった記憶があります(笑)。


――ヤマサキさんは、PIGGY BANKSのライヴを観て、どんな感想を持ったのですか?


ヤマサキ:や、恐ろしく良くてビックリしたんですよ。単純にkemeちゃんのギターをライヴで見たのが初めてだったというか、別のバンドのほうのスタイルは知っていたんですけど、それとは全然違うというか。あっちのバンドでは、ブリッジミュートをかけながらリバーブっていうスタイルだったのが、このバンドでは、ジャカジャーンって、それこそピート・タウンゼントばりのストロークを響かせていて。女の子でそれを、しかもそんなに歪んでない音でやるっていうのは、エレキ・ギター好きには、もうたまらないですよね。この娘さん、やるなあっていう。


――なるほど。


ヤマサキ:それとyokoちゃんの声の組み合わせがすごい良くて、これはちゃんとしたロックバンドだなって思って。で、産んでない娘は、もうダメなところしか見ないので、あんまり褒めるところもなく……。


akko:お前がいちばんちゃんと弾けって言われました。「えっ、弾いてたけど?」みたいな。


ヤマサキ:や、全然ダメ(笑)。で、またサポートで叩いている高橋さん(高橋浩司/ex.PEALOUT)のドラムがすごい良くて、バンド全体としてのバランスがすごく良かったんですよね。で、これは面白い人たちと出会えたなあっていう。僕は一応、プロデューサー業みたいなことをやっていますけど、そういう仕事的なことよりも、これはいい飲み友だちが見つかった、みたいな。


――で、そんなヤマサキさんをakkoさんがPIGGY BANKSに招き入れて……。


akko:そう。でも、そうやって人を巻き込むのって、やっぱり責任を伴うじゃないですか。自分はいいと思っても、他の2人がいいと思うかわからないから「大丈夫かな?」って思って……。でも、そしたら、こっちの予想を上回るほど、すごい仲良くなっていて。


yoko:そうなんですよ。akkoちゃんは普段鹿児島にいるから、例えばプリプロより前の、ちょっとみんなでミーティングしようみたいときは、いないこともあって。で、そのときにまず、テツヤさんとこのスタジオに行って、ずーっとYouTubeを一緒に見て……。


ヤマサキ:そう。akkoがいないから、バンド・リハーサルとかをやっても意味がないので、じゃあ、お互いが知ってるロックだったらロックの出しっこじゃないですけど、たとえばyokoがスージー・クアトロを出してきたら、ベーシストで女性……それなら、アデルの曲でベースと歌にフォーカスしたものがあったなとか、ベースと歌だったら、プレヒューズ73の女性ボーカルものとかはどうだろうとか、僕の中にいろいろとアーカイヴがあるわけですよ。スージーが好きだったら、Eコードが効いてるものとかGのスケールのものはどうだろうとか、いろいろそれを掘りながら見せたりして。で、それはkemeも同じで、彼女があのスタイルが好きなのはわかるんだけど……アストロノーツっていうバンドがいて。


keme:はいはい(笑)。


ヤマサキ:だったら、アストロノーツの前にやっていたバンドは、どうだろうとか。そういうものをYouTubeで掘り起こしながら、彼女たちのリアクションがあるものを、プリプロの前にいろいろと探ってフィックスしていくんですよね。


――そういう作業は、akkoさんとはすでに……。


ヤマサキ:そう。それはもう延々やっているんですよね(笑)。だから、akkoとは共通言語が異常に多いんです。で、そうやってプロファイルを作っていくと、ある程度のプリセットができるから、そこにakkoのエッセンスをこんな感じで組み合わせたら面白いことが起きるかなって、事前にいろいろ考えて。そうやって、ある程度の予想図みたいなものは、プリプロの前に作っていたんですよね。だから、時間がないとは言いながら、短いタームの中で結構深いところまで知ることができたんです。


yoko:一週間のうちで何日にもテツヤさんのスタジオに通って、そういう時間を作りつつ、そのあと毎回飲みに行って、そこでもまたいろいろ話してっていう。


ヤマサキ:そうだね(笑)。あとは、音楽以外の志向性みたいなものも、飲みながら探ったりして。これは女の子バンドに特有なんだけど、音楽の専門用語じゃないところの言語のほうが、彼女たちには共有しやすいというか、マジックが生まれる確率が高まる気がするんです。だから、ファッション誌とかを見ながら、このカバンは好きとか、この服のブランドは好きとか、いろいろ教えてもらったりして。そういうのは、男の子バンドには、絶対ない感性なんですけど。


■「某ギタリストは、死んでもギブソンを弾かないといっていた」


――なるほど。その時点で、曲は結構揃っていたのですか?


akko:はい。古城康行さんなり、百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)さんなり、上原子友康(怒髪天)さんなり、今回のアルバムに入っている曲は、かなり前からお願いしていたので、テツヤさんが入った時点では、もうほとんど揃っていましたね。


――じゃあ、それをどう録るかっていう。


ヤマサキ:そうですね。ライヴ用のアレンジも大体できていて、実際にライヴでやっていたものもあったんですけど、それを一回バラして、もう一度組み直していったんです。このリフは残して、他は変えてみようとか。すごい簡単に言うと、akkkoさんがすごい働けば、ヴォーカルとギターが立つので、そういう感じでやってみようっていう(笑)。


akko:っていうのを、レコーディングのときにすごい言われて……私、何をやらされるんだろうっていう(笑)。


――お父さんが監督の野球チームみたいな?


ヤマサキ:まさにそのパターンですね(笑)。


akko:やりづれえ(笑)。でも、すごい勉強になりました。いろいろ見直せたし。


ヤマサキ:ピック弾きもやったしね。


akko:やりましたね。ピックで弾いたことって、ホントになかったんですけど……。


ヤマサキ:何年プロをやってるんだっていう(笑)。


akko:勉強になりました。まあ、ライヴでは相変わらず指で弾いてますけど(笑)。あ、それで一個思い出しました。まとまらないっていうのともう一個、テツヤさんが入る前にできている曲の感じだと、kemeのギターの持ち味がどうも上手くハマらないっていう悩みがすごいあって……。


keme:ありましたね。


akko:それを何とかできないかなって思っていて。で、テツヤさんに入ってもらってから、そのことも言って……。で、そのあとに「Funky Monkey Ladies」とか「CORONA」ができて、そこがうまくハマったっていうのはありましたね。


ヤマサキ:そう、レコーディングの裏話的なことを言うなら、某ギタリストは、死んでもギブソンを弾かないというのがありまして。それを最初に言ってきたんですよね。私はフェンダーのジャズマスターしか弾かないと。


keme:(笑)。


ヤマサキ:僕の目を見てしっかり言われたので、じゃあレコーディングでジャズマスターは弾かせないよっていう(笑)。で、何だっけ? ギブソンの335が気に入ったんだっけ?


keme:はい(笑)。


akko:keme、すっごいレスポール弾いてたよね。


yoko:写真撮って自分でツイッターに上げてた。


ヤマサキ:(笑)。だから、そういう意味では、プレイヤーとしてのプライドの持ちようと、こちらが提案することの擦り合わせで、曲がガンガン変化していったっていうのはありましたね。最初はフェンダーで、アンプもフェンダーだったから。


keme:そうですね。


ヤマサキ:で、それは彼女が得意とするスタイルだったんだけど、僕がレスポールのゴールドトップとハイワットを持っていって。この時代に、いちばんあり得ない組み合わせなんだけど(笑)。


keme:あれは、すごかったです。


ヤマサキ:まあ、ギタリストとして、そういうことにトライしてくれたというか、自分のスタイルは一回置いておいて、バンドのギタリストとしてのトライをしてくれたんですよね。


keme:何かビックリしました。楽器とかアンプとかが変わると、自分の弾き方も変わってくるんだなって。


――それぞれの課題というか、PIGGY BANKSになるために突破しなくてはいけないことが、それぞれあったのですね。


akko:そうですね。私個人としては、今までやってきたことを、そのまま持ってくるだけじゃダメというか、それに執着していたら、このバンドはできない、新しいことはできていかないなっていうのがあって。だから、今までやったことがないことを、どんどんやりたかったっていうのはありましたね。


ヤマサキ:yokoちゃんも、歌い方が変わったもんね。


yoko:そう、何か変わったらしくて……自分では特に何かを変えようっていう意識はなかったんですけど。


――面白いですね。


ヤマサキ:彼女はもともと、ヴォーカリストとして、すさまじく歌が上手いんですよね。ピッチもいいし、リズムもいいし……。


akko:あと、全然よれないんですよね。


ヤマサキ:そう。だから、変な話、本人からリテイクの要望があっても、ファーストテイクで大体OKなんです。だから、そういうときは、「わかった。上手い歌は録れたから、次は良い歌を録ろうよ」って提案したりして。良い歌の概念って、曲によって違ったりするじゃないですか。そうやって漠然とした概念を提示すると、彼女はそれを掴む能力が、すさまじく速いんです。


yoko:はあ……。


ヤマサキ:だから、敢えて変なオーダーを出したりね。次はちょっとヘタに歌ってくれとか。で、彼女に考える余地を与えず、そのまま録ってみると、すごく色っぽいものが一瞬出たりとかして。


yoko:そう、考える余地を与えてくれないんです。


ヤマサキ:考えるとロクなことにならないからね。特に彼女の場合は(笑)。


■「この時代だからこそのバランスになった」


――実際できたものを聴いて、それぞれどんな感想を持っていますか?


yoko:自分の作品を、初めて人に配りまくりました。もう何か嬉しくて(笑)。それくらい気に入っています。


akko:いろいろな実験をやってみて、自分たちが行くべき方向みたいなものは見えたような気がしていて……むしろ、そのあとにやったツアーが大きかったですね。ツアーをやったことで、ようやく自分たちの基盤ができたような感じがします。


keme:そうですね。私もこのアルバムができたことで……あと、そのあとにツアーをやったことで、こういうことができるっていうのがわかったので、今からもう、次のアルバムが楽しみだなって思います。


――ヤマサキさんは、どうですか?


ヤマサキ:とりあえず、この時代だからこそのバランスにはなったかなって思います。一応ね、ユニバーサルになるように考えたんですよ。50代、60代の人聴いても気持ち良く感じるところと、たとえばEDMとかしか聴いたことのない子たちが聴いても気に入ってもらえる帯域のバランスを考えたりっていう。そういうオーディオの周波数的なことは意識しつつ、プレイは好きにやってもらってっていう。たとえば、「One Way or Another」っていう曲は、ベーシックなロックバンドの上に、僕がファットボーイスリムみたいなシンセを上から重ねていたりするんですよね。そういうワンアイディアが入っているだけで、あの曲は、DJの子たちとかに評判良かったりして。ブレイクビーツとしてカッコ良いっていう。やっぱり、その感覚なんですよね。


――いわゆる“ロックの様式美”みたいなサウンドには、実はなっていないですよね。


ヤマサキ:そうですね。そういう意味では、結構面白いものになっていると思います。


(麦倉正樹)