2016年06月30日 10:41 弁護士ドットコム
関西を中心に活動する女性アイドルグループ「PiGU(ピグ)」の所属事務所は6月20日、公式ツイッターで「ファンとの繋がりが発覚した」として、ある女性メンバーを同日付けで解雇したと発表した。
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同事務所はさらに「性的な出会い目的で弊社タレントに近づいた」として、3人の「繋がった人物」のハンドルネームをあげ、出入り禁止にすると宣言した。また、同日時点で、この3人に対して、損害をめぐる法的な措置についても顧問弁護士と検討していることを明らかにした。
この発表における「ファンとの繋がり」「法的な措置」という言葉の意味は少し不明瞭だが、アイドルとファンが「交際」した場合、事務所はファンに対して損害賠償を求めることができるのだろうか。また、アイドル自身に損害賠償を求めることも可能なのだろうか。エンターテインメント業界の法律問題にくわしい太田純弁護士に聞いた。
「アイドルと事務所との間の契約で、『恋愛禁止』規定がさだめられていた場合、アイドルがファンと交際したら、この規定に違反したことになります。ただし、禁止規定があるとしても、ただちに有効になるわけではありません。
事務所が契約を解除(または解雇)したり、損害賠償責任を問えるかについては、個別ケースごとに『規定の効力』を検討する必要があります。
その規定が法的に意味なければ、交際した相手(ファン)の責任を問うことは前提を欠くことになります」
太田弁護士はこのように述べる。恋愛禁止規定に効力があるかどうかのポイントは何だろうか。
「『恋愛禁止』規定の効力を考えるにあたっては、アイドルと事務所の契約関係の法的性質を検討しなければなりません。
つまり、(1)労働契約に類するのか、(2)事業者としての契約(委託契約など)に類するのかによって変わります。
その検討においては、禁止規定の内容や必要性、合理性、報酬の金額・支払い条件、業務遂行における指揮命令の状況、業務内容や時間管理に関する自己決定権の有無など、さまざまな事情が総合的に考慮されます」
(1)労働契約の側面が強い場合、どうなるのだろうか。
「アイドルの清廉なイメージを保持するためとはいえ、恋愛禁止規定に強い効力を認めるのは難しいです。
比較論ですが、会社の従業員に対して、私生活上の制限や副業禁止などを就業規則で定めた場合、違反があればただちに解雇できるのかという論点があります。形式的に一発アウトとするのは、厳しすぎるという見解があります。
実際上、その従業員のおかれた職務の内容や地位、職場の秩序維持の必要性、制限の必要性・合理性などを勘案して判断されます。
アイドルが労働者と同じような立場である場合、恋愛する自由は、個人の幸福追求権の内容の一つと考えられます。
その場合、人格的な権利を制限され、規定を違反すれば解雇されて生活基盤をうしない、ひいては損害賠償まで求められるということは、否定されるでしょう」
逆に、(2)事業者としての契約の側面が強ければどうなるのだろうか。
「この場合、事務所側は、禁止規定の効力に応じて契約を解除したり、場合によって、アイドルに対して損害賠償責任を問える場合もあります。
なお、契約解除(または解雇)できるかということと、賠償まで求めることができるかは、法的に別次元の問題です。
仮に、損害賠償まで問えるケースだったとしても、何が損害なのかという認定や、算定の問題があるほか、楽曲や映像の権利帰属や収益配分の程度などを勘案する必要があります。
事務所側としては、それまでの運営コストや育成のためにかけた費用が損害だと主張したいでしょう。しかし、すべてが無駄になったわけではなく、それまでの活動に寄与した点が考慮されます。
そして、事務所側に多くの利益が入り、アイドル側には定額の報酬だけが支払われるケースでは、信義則に照らして、高額の賠償責任をアイドルに負担させるのは酷であるとして、相当程度に減額されると思います」
ファンに対して損害賠償を求めることはできるのか。
「事務所側が、契約外の第三者である交際相手(ファン)に対して、賠償責任を問えるかについては、事務所とアイドル本人の契約関係の分析を踏まえたうえで、ファンの関わりの程度、故意過失、予見可能性などを主張・立証していくことになります。
したがって、事実認定のハードルがかなり高いケースだといえます。つまり、どれだけ手持ちの証拠があるか、ということになるでしょう」
太田弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
太田 純(おおた・じゅん)弁護士
訴訟事件多数(著作権、商標権などの知的財産権、不正競争防止法、名誉棄損等)。その他、数々のアーティストの全国ツアーに同行し、法的支援や反社会的勢力の排除に関与している。
事務所名:法律事務所イオタ
事務所URL:http://www.iota-law.jp/