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『おそ松さん』舞台化になぜ賛否両論? ギャグ作品を2.5次元化するハードルの高さ

2016年06月30日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

「おそ松さんon STAGE ~SIX MEN'S SHOW TIME~」公式サイト

 赤塚不二夫による名作マンガ「おそ松くん」の登場人物たちが大人になった姿を描き、社会現象を巻き起こしたTVアニメ『おそ松さん』が、『おそ松さん on STAGE ~SIX MEN’S SHOW TIME~』と題して2.5次元ミュージカルとなることが発表され、ネットで賛否両論の声が挙がっている。


参考:『おそ松さん』はTVアニメ復活の“のろし”となるか? 社会現象となった理由を徹底解剖


 第1弾キャストとして高崎翔太、柏木佑介、植田圭輔、北村諒、小澤廉、赤澤遼太郎ら人気2.5次元俳優が発表されているほか、岸谷五朗と寺脇康文の演劇ユニット「地球ゴージャス」の演出助手などを務める小野真一が演出を手掛けることが明かされているが、原作は深夜アニメという枠を活かした自由なネタに定評があったこともあり、その仕上がりを懸念する声が少なくない。実際に舞台化するにあたってどんな課題があるのか。『おそ松さん』に詳しく、2.5次元ミュージカルへの見識も深いライターの韮澤優氏に話を聞いた。


「2.5次元ミュージカルの原作となる作品の多くは、8頭身のイケメンキャラクターが活躍するものが多く、生身の人間が演じてもそれほど違和感がありませんが、『おそ松さん』のキャラクターはずっとディフォルメされているため、ビジュアルが発表されたときは、やはり違和感を持った人もいたようです。観ているうちに兄弟それぞれの見分けが付いてくるのも、アニメのおもしろさのひとつでしたが、その辺りは舞台では表現できないので、どう解消していくかも気になるところです。また、アニメの内容自体も一話完結のギャグや短編のコントのようなものだったため、どうやって起承転結のある2時間弱のミュージカルに仕上げるのかも、大きな課題となるのでは。たとえば『ドラえもん』なら、映画化する際はのび太を中心とした冒険物語になったりするわけですが、『おそ松さん』にはまだそういった前例がないため、場合によってはアニメからかけ離れた内容になる可能性もあります。2.5次元舞台の題材としては、かなりハードルが高いのは間違いないです」


 キャスティングは、原作アニメを踏まえて選んでいることが伺えるものの、演技についても課題はあるという。


「たとえばかわいいイメージのトド松役に赤澤遼太郎さんを、クールなイメージの一松役に北村諒さんをキャスティングするなど、アニメの世界観を引き継ごうとしているのは良いと思います。ただ、2.5次元ミュージカルでは一般的な映画や舞台の演技とはまた違い、どちらかというと声優に近い演技が求められます。リアリティよりも、作品の世界を崩さないでいかに再現するかが大切なんです。そうした演技は、たとえばスポ根ものやファンタジーであればうまくマッチするケースが多いのですが、『おそ松さん』のような日常を舞台とした作品の舞台化は、今までになかなかなかったので、どのように演出され、俳優がそれに応えるか……。未知の世界に挑まないといけないのではないでしょうか」


 また、主催がどんなスキームで今回の舞台を実現するのかも、注目すべきポイントだと、同氏は続ける。


「2.5次元ミュージカルは、俳優や演出、脚本が大事なのはもちろんなのですが、すでにスキームを確立している大手の興行主が手がけているかどうかも、仕上がりを左右する大事なポイントとなります。というのも、現在2.5次元で人気の俳優は、年に10本以上の作品に出演することがザラで、キャスティングの際はかなり早い段階でスケジュールを抑えて、入念に準備する必要があります。それが可能なのは、やはり大手なんですよね。今回の主催である『「おそ松さん」on STAGE製作委員会2016』に、実際にはどんな企業が関わっているかも、今後気を付けてみると良いでしょう」


 一方で、開演前は酷評が多かったものの、いざ上演してみると、『刀剣乱舞』のように、舞台、ミュージカルともに高い評価を得ているものもある。また、自転車をあえてハンドルだけで表現して喝采を浴びた『弱虫ペダル』のように、舞台ならではのアイデアで結果的に高い評価を得る作品も少なくないのが、2.5次元ミュージカルだという。賛否両論のある今回の『おそ松さん on STAGE ~SIX MEN’S SHOW TIME~』は、果たしてどんな評価を得るのだろうか。(松下博夫)