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kōkuaは「プロ集団」の枠を越え「有機的なバンド」となった 柴那典のツアー最終公演レポート

2016年06月29日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

kōkua(写真=岸田哲平)

 「ありがとうございました! またやるぜ!」


(関連:kōkua、メンバー全員インタビュー(前編)「5人の音楽性がミックスされて“らしさ”が生まれる」


 スガ シカオはライブの最後で、こう告げた。結成から10年を迎えて1stアルバム『Progress』をリリース、初のライブツアーを行ったkōkua。6月24日、その最終公演としてNHKホールでのライブが行われた。「アルバムデビューしたばかりの新人バンドです」とスガは言っていたけれど、メンバー全員そうそうたる実績を持つ面々だ。リハーサルやレコーディングでも、最も大変だったのは全員のスケジュールを合わせることだったとか。でも、ステージを見て強く感じたのは、単なる「プロフェッショナル集団」ではなく、5人が一つの「バンド」として有機的な結びつきを生み出していたことだった。


 kōkuaはNHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』をきっかけに結成されたバンドだ。最初は番組主題歌の「Progress」という曲を生み出すための、一度きりの企画モノとしての位置づけも強かったに違いない。しかし、そこから10年の年月を経て、kōkuaというバンドのアイデンティティが育っていった。あえてそれを言葉にするなら、スガがMCでも言っていた「大人のロック」というキーワード。リラックスしたムードと卓越したプレイで、洗練と迫力を併せ持つ空間を作り上げていた。


 ライブは「BEATOPIA」でスタート。まずは武部聡志(Key)、小倉博和(G)、根岸孝旨(B)、屋敷豪太(Dr)によるセッションで会場を沸かせ、拍手に迎えられてスガ シカオ(Vo)が登場。まず披露したのは「Progress」だ。


 アルバム収録の「幼虫と抜け殻」に続けては、「オバケエントツ」「愛について」とスガシカオのソロ曲を続ける。印象的だったのは、kōkuaというバンドが演奏することで、普段以上にシンガーとしてのスガ シカオの魅力がクローズアップされていた、ということ。


 スガ シカオは、これまでライブでのサポートメンバーに「Shikao & The Family Sugar」や「FUNK FIRE」という名を付け、意図的にその存在をフィーチャーしてきた。ソロ名義でのライブでは、彼はただ歌うだけでなくバンドの生み出すグルーヴ全体を統括するような役割も果たしてきた。しかし、kōkuaではあくまで5分の1としての存在に徹している。それゆえに、終盤に披露した「コノユビトマレ」や「午後のパレード」も含めて、彼の歌い手としての魅力がストレートに伝わってくるような感覚があった。


 そして中盤は各メンバーが作曲を手がけたナンバーを演奏するパートへ。屋敷豪太作曲の「1995」はゆったりとしたビートが印象的なノスタルジックなバラード。根岸孝旨の「黒い靴」はダークな渋みを持ったロックナンバー。小倉博和がメインボーカルもつとめた「道程」はアメリカン・ロックを彷彿とさせるヌケのよい一曲、そして武部が作曲した「kokua's talk 2」では、インストゥルメンタルのセッションにあわせてスガがラップを見せる。


 続いてはカバー曲を披露するパートだ。屋敷豪太がかつて在籍したSimply Redのヒット曲「Stars」では、スガが作詞した日本語詞を原曲のメロディに忠実な歌い回しで歌う。続いてはダリル・ホール&ジョン・オーツ「Every Time You Go Away」を披露、ブルー・アイド・ソウルの名曲で落ち着いたムードを作り上げる。


 さらには、楽屋に花が届いていたという井上陽水の70年代の名曲「青空、ひとりきり」をカバー。ソウル歌謡な演奏に乗せてスガがセクシーな歌声を響かせる。そして圧巻だったのは岡林信康「私たちの望むものは」。アカペラから始まり5人の音が折り重ねっていく展開で、最後には壮大で感動的な空気を生み出していた。


 終盤はFM802に提供した「Music Train ~春の魔術師~」から再びアッパーな楽曲を続けて披露、本編ラストはアルバム『Progress』のラストトラックでもあった「夢のゴール」へ。


 アンコールを求める歓声に呼ばれて登場したスガは、「このバンドでは『夢』というものを、そして『未来』というものをテーマのひとつにしている」と語る。自分の人生の未来だけじゃなく、子供世代や孫世代にとっての「未来」、逆に両親や祖父母の世代から見た「未来」、そういうものも含めて書いた曲だと、「砂時計」を披露する。そしてラストは、バックに映し出された歌詞と共にもう一度披露した「Progress」だ。


 5人がステージが去り、客電がつき、スタッフによる退場の誘導が始まった後も、ダブルアンコールを求める拍手と歓声はしばらく止まなかった。そのことも、とても印象的だった。


 9月からはスガ シカオの最新アルバム『THE LAST』の全国ツアーも始まる。「大人のロック」としての円熟味を見せたkōkuaとは対照的に、こちらは「むき出しのスガ シカオ」を見せるエネルギッシュなものになるだろう。


 スガ シカオの、そしてkōkuaの「次」がいよいよ楽しみになるような一夜だった。(柴 那典)