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「迷惑客拒否OK」で「民泊」のガラパゴス化を回避…旅館業法見直し案の見方

2016年06月29日 10:41  弁護士ドットコム

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厚生労働省が、ホテルや旅館などで「迷惑客」の宿泊を断れるよう、旅館業法を見直す方針を示した。


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旅館業法では、ホテルや旅館の営業者は原則として宿泊を拒絶できず、例外的な場合に宿泊を拒否できると定められている。訪日旅行客の増加を受けて、空き部屋などに有料で泊める「民泊」を営業しやすくするために、この要件を緩和する。障害や人種などで、不当な差別を理由とするような場合は、拒否できないよう、条件は残す。



この方針について、差別を助長するのではないかという声も上がっているが、これまでのルールはどうなっていたのか。厚労省の方針をどう考えればいいのか。旅館業法に詳しい金子博人弁護士に聞いた。



●世界的には、「客を選ぶのはホテルの自由」が原則


「1948年に施行された旅館業法では、5条で、ホテル・旅館の営業者は、宿泊を拒絶できないが、次の場合は、例外的に、拒絶できると定めています。



(1)伝染病にかかっていると明らかに認められるとき、


(2)賭博その他の違法行為、または風紀を乱す行為をする虞(おそれ)があると認められるとき、


(3)施設に余裕がないとき、その他都道府県が条例で定めるとき(要するに、満室なら断れるということです)」



金子弁護士はこのように指摘する。なぜ、こうした規制の緩和が検討されているのか。



「2008年に、米国シリコンバレーでスタートした民泊サービス『Airbnb』は、世界的に活用されており、今や、年間売り上げ300億ドルに達する巨大企業に育っています。日本でも、最近利用が急増しています。



このシステムの特徴は、ゲスト側は、利用者の過去のコメントを参考に、宿泊するかどうかを決められる一方、ホスト側は、登録客の評価を参考に、迷惑客などを排除できる点です。



要するに、『泊めるかどうかは自由だが、自己責任で、不良な宿泊所、不良なゲストを排除する』ということです。



この自由が認められないと、安くて充実した宿泊がしたいという来日客を排除することになり、日本だけが『ガラパゴス状態』になってしまうでしょう」



世界的には、日本のような規制は珍しいのか。



「世界的にみると、日本とは逆に、一般のホテルでも、契約自由の原則に基づき、ゲストもホテルも、『相手を選ぶのは自由』というのが原則です。旅館業法のような規制は、まずありません。そのため、『Airbnb』のようなシェアリングサービスが急速に普及しているのです」



●「拒否できるかの線引難しく、慎重な議論必要」


「諸外国でも、人種、宗教、思想信条、緊急の場合(周辺に、代替する宿泊場所がない場合)など、人権にかかわる場合には、宿泊拒否は違法としていることが普通です。



とはいえ、どこの国でも、拒否できるか否かの線引きは難しく、争われた裁判例も多いです。



日本でも、紛争になったケースは少なくありません。裁判で争われたケースとしては、すでに完治しているハンセン病療養所入所者の宿泊を拒否したケース(裁判では違法とされました)や、右翼団体の街宣車の騒音にさらされるとして、日教組の宿泊をホテル側が拒否したケース(裁判では違法と判断されました。ただし、このケースは世界的には合法と判断されるケースだったと思います)があります。



今回の改正で、世界の例に合わせ、原則宿泊拒否を自由として、ダメな例を列挙するのか、逆に原則禁止のまま、許容される例を増やすかは、今後の議論によるでしょう。拒否できるか否かの線引きは難しく、慎重な議論が必要だと思います」



金子弁護士はこのように述べていた。



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
金子 博人(かねこ・ひろひと)弁護士
「金子博人法律事務所」代表弁護士。国際旅行法学会の会員として、国内、国外の旅行法、ホテル法、航空法、クルージング法関係の法律実務を広く手がけている。国際旅行法学会IFTTA理事。日本空法学会会員。
事務所名:金子博人法律事務所
事務所URL:http://www.kaneko-law-office.jp/