2016年06月28日 10:52 弁護士ドットコム
乳児への予防接種を拒否したことなどを理由に、九州地方の家庭裁判所が3月、児童相談所による母親の「親権喪失」申し立てを認めていたと共同通信が6月上旬に報じた。「親権停止」ではなく、予防接種拒否を理由にした「親権喪失」は極めて異例だという。
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報道によると、乳児は昨夏、自宅玄関前に放置されていたことから、ネグレクトとして一時保護された。児童相談所は、乳児を親から離して里親委託しようとしたが、法定の予防接種を受けていないために、委託先を決められなかった。子どもに予防接種を受けさせるには原則保護者の同意が必要だが、児童相談所が再三、同意を求めても、母親は応じなかったという。
親権喪失は、虐待など、子どもの利益を害する行為について、2年以内に改善が見込めない場合、無期限に認められる措置で、民法で規定されている。
家裁は、母親の予防接種拒否の意向は、思想・信条よりも、児童相談所への反発からと判断したが、「親権喪失」という異例の決定をどのように評価するべきか。榎本清弁護士に聞いた。
「通常、『予防接種の拒否』というケースは、親権停止が想定されています。しかし、今回の決定は『親権喪失』です。影響の大きい手段を取ったという点で、問題をはらむ決定です。
予防接種のような医療ネグレクトの場合は、親が同意して通常特定の医療行為がなされればよいわけです。つまり、2年以内に原因が消滅するため、親権停止という影響の小さい手段で対応可能です。もちろん、今回も、予防接種を受けさせれば問題は解決しますよね。このため、親権停止という取扱でも十分だったという考え方もできます」
しかし、それでも家裁は親権喪失に踏み切った。
「そうですね。今回のケースには、2つの特殊性があります。
(1)前提として、予防接種拒否以前に、ネグレクトがあったこと
(2)予防接種の拒否が医学・思想上の問題ではなく、児相職員への感情的な反発心を背景にするものであった――という点です。
医療ネグレクトについては、思想・信仰上の問題等のデリケートな問題を含むことが多く、その判断にも一定の配慮が要請されます。信仰による輸血拒否は、有名な事例です。予防接種にも同様の問題を生じうるところです。
しかし、今回は、(2)の理由から、予防接種の拒否に関する思想・信仰にどのように配慮するかという問題にはなりません。そして、(1)の状況と相まって、養育態度が著しく不適当という判断に至ったものと思われます」
今回は、特殊な事例と考えるべきなのか。
「はい。親権の制限というものは、家族への影響が非常に大きいものです。このため、できるだけ抑制的に行うべき決定です。ですから、このケースを『予防接種の拒否を理由に、親権喪失を認めた』という形で一般化すべきではないでしょう」
榎本弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
榎本 清(えのもと・きよし)弁護士
埼玉弁護士会所属。2005年弁護士登録。児童虐待案件で、児童相談所対応、審判対応などをした経験をもつ。離婚・相続問題、交通事故紛争等の一般民事から、労働問題まで幅広く対応している。
事務所名:西風総合法律事務所