9年ぶりのインディカー開催となったロード・アメリカ戦。AJフォイト・レーシングから参戦する佐藤琢磨は、直前のテストに来れなかったため最初から後手に回っていた。
快晴の下、金曜日は1時間15分と長めのプラクティスが二度行われた。チームメイトのジャック・ホークスワースとセッティング作業を分担して進めたものの、ライバル勢には大きく水をあけられていた。全長が4マイルと長いコースということもあるが、トップからは0.8402秒も離され、ポジションは13番手だった。
■セッティング変更でスピードは向上
明けて土曜日。琢磨は一気に巻き返した。前日の夜9時過ぎまでエンジニアたちとデータを検討し、大きく方向転換したセッティングを施したマシンは、ハンドリングもスピードも向上していた。ポジションは8番手で、セッション終了間際に速さを見せたチップ・ガナッシ勢ふたりとの差はまだ0.5秒以上あったが、3番手だったウィル・パワー(チーム・ペンスキー)とは0.389秒差で、5番手だったサイモン・ペジナウ(チーム・ペンスキー)とは0.1407秒の差しかなかった。予選ファイナルへと食い込んでいく可能性十分の位置につけたのだ。
しかし、予選は思わぬ結果となってしまった。まさかのラウンド1敗退。直前のプラクティスで22台のうちの8番手だった琢磨が、Q1グループ1の11人中で8番手に終わったのだ。ブラックタイヤでのチェックでは4番手につけていたが、レッドに変更してからのタイム短縮が小さかった。
ダウンフォースをつけ過ぎたのか? と最初は考えられたが、原因はクルーの作業ミスにあった。車高設定で必要な手順がひとつ抜けたため、ノーズは低過ぎ、リヤは高過ぎるマシンとなっていたのだ。
「明日のプラクティスファイナルで満タンのチェックなどを行う。マシンは絶対にいいはずなので、後方スタートでも追い上げる」と琢磨はレースに気持ちを切り替えていた。ところが、そのプラクティスは雨のため、確認作業は行えなかった。
予報の通りに決勝までに空は晴れ上がり、路面は完全ドライになった。
■コース上でライバルを次々とパス
サポートレースがふたつ行われたとはいえ、朝方の雨で路面のラバーは流されてしまった。レース序盤はグリップが低くなり、荒れた展開になることも考えられた。琢磨は新品のレッドでスタートに臨むことを決めた。
青空の下、少々蒸し暑いコンディションでレースはスタート。ポールシッターのパワーがレースをリード。1周目にセバスチャン・ブルデー(KVSHレーシング)はチャーリー・キンボール(チップ・ガナッシ)にリヤホイール・ガードを破壊され、1周遅れに陥った。7周目には優勝候補の一角、予選2位だったスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がエンジントラブルでリタイアした。
琢磨はスタートで安全にポジションをキープ。ブルデーがピットしたことで14番手、4周目にファン・パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー)をパスして13番手、ディクソンがマシンを停めたことで12番手。6周目にマックス・チルトン(チップ・ガナッシ)をパスして11番手、11周目にアレクサンダー・ロッシとカルロス・ムニョスのアンドレッティ・オートスポート勢をパスして9番手とコース上で次々ライバルをパスしてポジションを上げていった。
ピットストップは12周目。ここでも琢磨陣営はレッドタイヤをチョイス。ピットストップを終えてダッシュすると、ピット出口までにキンボールの前に出ることに成功した。全員がピットストップ1回目を終えた時点でポジションは8番手に上がっていた。
ポジションは同じままだったが、琢磨はこのスティントでブラックタイヤ装着で走る上位陣との差を着実に縮めた。そして、迎えた2回目のピットストップ、クルーたちの奮闘もあって琢磨はライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)の前にピットアウトした。
■まさかのトラブルが降りかかる
さらに上位へ! と期待をしたいところだったが、ここで琢磨はブラックタイヤを装着。このスティントはいかに粘り強く走り、最後のピットストップに繋ぐかが課題だった。ところが、ここで琢磨に悪い知らせが……。ピットレーン入口でスピード違反があったというのだ。それも、2回のピット両方で。
27周目、琢磨はドライブスルーペナルティを受ける。これで18位まで一気にポジションダウン。終盤のリスタート時に琢磨はもう一度ピットをドライブスルーし、17位でレースを終えた。マシンの仕上がり具合、そして琢磨の目覚しい走りにはまったくそぐわない結果となった。
「インディカーに参戦を始めた頃から、ロード・アメリカのことは聞かされていました。とてもクラシカルなコース。ちょっと危ないコーナーもあるけど、そういうのもないと……ね」
「いい走りができていたテストに来なかったけれど、チームが頑張って予選前までにライバルたちに追いついた。予選は残念な結果となったけれど、決勝でのマシンはとても速かった。ピットストップもクルーが凄く速く仕事を済ませてくれ、ポジション・ゲインができていた」
「ピット・スピードリミッターの設定により、上り坂のピットロードでスピードを落としても加速をしてしまい、計測地点で時速50マイルをギリギリ越えてしまっていた」と琢磨は語った。結果は残せなかったが、チーム、そして自らが高いパフォーマンスを発揮できたことを高く評価していた。