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ドラマ『火花』インタビュー:林遣都 × 波岡一喜が語る、表現を仕事にする苦楽

2016年06月27日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016YDクリエイション

 ピースの又吉直樹による同名小説を原作としたドラマ『火花』が、オンラインストリーミングサービスNetflixで、世界190ヵ国へ全10話一挙に配信されている。師弟関係を結んだふたりの売れないお笑い芸人が上京して立身出世を志すも、厳しい現実に翻弄され、やがてそれぞれの道を歩む様を描いた青春ドラマだ。総監督に廣木隆一、その他の監督に白石和彌、沖田修一、久万真路、毛利安孝ら、映画界の俊英を集結させ、その完成度の高さからすでに各界で話題となっている本作。主人公・徳永役を務めた林遣都と、その先輩である神谷役を務めた波岡一喜に、制作の舞台裏を聞いた。


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■林「波岡さんと師弟関係を演じられるのは感慨深かった」


ーー映画のような美しい映像、練りこまれた脚本、緊張感ほとばしるリアルな漫才シーン、そしておふたりの熱演と、非常に見どころの多い作品で、Netflixがいよいよ日本でも本格的にオリジナル作品に注力していることが伺えました。出演が決定した際の心境は?


林:「これは大変な作品になる」と思って、正直かなりプレッシャーはありましたが、一方で、絶対に自分にとっても観た人にとっても心に残る作品にしようという気持ちも強かったです。その気持ちがプレッシャーよりも大きかったので、実際の現場では余計なことを考えずに、いまの自分のすべてをぶつけることができたと感じています。


波岡:お話をいただいたときは、素直にめちゃくちゃ嬉しかったですね。でも同時に、神谷という役はカリスマ性というか、人を惹きつける力を持っている人物なので、それをどう表現しようかと考えると、プレッシャーと不安でいっぱいになりました。ただ、撮影が始まって一話を撮り終えた時点で、いつもの遣都との関係性を、そのまま徳永と神谷の関係性にしていけるかなって思いました。徳永だけの神谷であれば良いってことがわかったんです。そこからは楽しんで、集中してやりきることができました。


ーーおふたりは撮影の前から先輩後輩としての関係があった?


林:10年近く前、僕が俳優の仕事を始めたばかりの頃に共演して、初めて撮影中に2人でご飯に連れていってくれた先輩なんです。当時はまだ地元に住んでいた高校生だったので、俳優を別世界の人たちのように見ていたのですが、波岡さんが誘ってくれてすごく嬉しかったです。


波岡:まあ、飯って言ってもファミレスですけれど。


林:仕事のこと、学校のこと、恋愛のこと……まあ、いろんな話をさせていただいて。そのあともちょくちょく連絡をくれていたので、僕にとって波岡さんは俳優界では数少ない、心を開いて気兼ねなく話せる先輩なんです。だから、神谷役が波岡さんだと聞いて安心しましたし、出会ってから10年近く経って、こうして師弟関係を演じられるのは感慨深かったです。


波岡:運命やな! こんなことはじめて言うけど。


林:もしかしたら、出会ったときにすでに決まっていたのかなって思いました。


ーー『火花』にも通じる劇的な出会いですね。今回は役柄もお笑い芸人とのことで、俳優であるおふたりにとっては共感する部分も多かったのでは。


林:表現することを仕事にしようと夢を持って東京に出てきて、でもそんなにうまいこといくわけもなく、慣れない環境の中で埋もれていきそうになりながらもがいて、這いつくばって。そこで出会った仲間と助け合いながら、なんとかしがみついて続けていく姿には、やっぱり深く共感しました。本当に、自分に置き換えていました。


波岡:お笑いの世界の話だけど、自分らがおもろいかどうかもわからんっていうのは、すごくわかるところがありますねぇ。でも、神谷は自分がおもろいと思ってること、その感性をすごく信じているんですよ。徳永にも「お前ならもっとできると思うで、お前がもっとおもろいこと知ってるからなぁ」って言い続けていて。周りがどうこうじゃなくて、自分がおもろいと思うことをやれよって言葉は、なんか自分に言われてるような気がして。これまでも一生懸命やってきたけど、そこまで自分を信じてやってこなかったなぁって。もっと自分にわがままで、自分のやりたいようにやることも大事なんだなって、痛感させられました。自分がやりたい神谷を演じる、自分自身が神谷でいるってことは、今回すごく意識しましたね。原作に引っ張られる感じで。


■波岡「僕らは全編を通して自分の役柄のまま」


ーー東京のひとつひとつの街も丁寧に映し出されていて、自分たちが住んでいる街はこんなにも魅力的なのかと気づかされる作品でもありました。


波岡:渋谷、池尻、三宿、下北沢、246沿い、高円寺、吉祥寺、上石神井の家までの道のり、高田馬場、そして芸人として売れたら六本木。こんなにガチで撮っている作品、まずないですよ。


ーー人の多い東京で、どうやってあの画を撮ったのでしょう?


波岡:大事なのは、一般の方にご協力いただけたというとことですね。


林:本当に、それしかないですね。制作の人たちはすごかったです。毎回、街中での撮影のたびに頑張って人を止めて、よりリアルな東京を切り取ろうと奮闘していました。


波岡:吉祥寺では、駅前通りのど真ん中での撮影が多かったのですが、金曜日とか土曜日の夜中とかで、もちろん終電を終えてから撮影を始めるわけですけれど、人はいっぱいいるんですよ。でも、映像では誰もいないじゃないですか。特に徳永が手前に歩いてきて、俺が奥に歩いていくシーン、ずっとバスの上から撮っているんですけれど、脇の道は制作スタッフが総勢20人くらいで、カットがかかるまで全部待っていただいているんです。しかも長回しだから3~5分とか。すごかったな。そういう大掛かりな撮影が日常的にあった。


ーー演じていて特に印象的だったシーンは?


林:いっぱいあるけれど、強いてあげるなら最後のほうかな。特に最後の居酒屋のシーン。


波岡:ああ、あの居酒屋は強烈やな。ふたりでボロ泣きしながら、神谷が徳永から“おっぱい”で説教くらうところ。あそこ強烈やな。


林:あとは神谷の新しい彼女と鍋を食べるシーンも。後半では、本当に徳永と神谷として関係性ができあがっていたから、波岡さんの顔を見ているだけで泣けてくるんですよ。あんなに好きで憧れていた人が、なんでこんなにボロボロになってるんだっていう。台本で読んだときは、号泣するシーンが立て続けにあったから、やり切れるのかなって不安だったけれど。特におっぱいのシーンは自信なかった。


波岡:なにせ怒る対象がおっぱいやからな。


林:一歩間違えたら笑ってしまいそうな状況で、重く張り詰めた空気にできるか不安だったけれど、現場に入ってしまったらふたりで積み重ねてきたものがあったから、なんの違和感も感じずに演じることができた。あのシーンは見ている側からすると笑えるところもあって、原作で目指していた世界がちゃんと再現できたんじゃないかって思います。実際、あのシーンが強烈だったと言ってくれる方も多いですね。


波岡:後半もすごい覚えているけれど、初日も覚えていますね。徳永が漫才やって滑って、仇とったるわって俺らも漫才やって。ふたりでじっくり絡んでいるわけじゃないんですけれど、運命的な出会いのシーン。初日やったんで、現場は張り詰めていたし、おたがい緊張もしていたし、これからどうやって進んでいくんやろうって探っていたし。でも、ついに走り出したっていう。ドラマの中では夏の設定だけど、本当は極寒だったこともあって、すごい覚えていますね。


ーー今回は毎話ごとに違う監督が撮っていて、日本のドラマとしては珍しい制作体制になっています。その辺りは、演じていてどう感じましたか?


林:最初は戸惑うかなって思ったんですけれど、総監督の廣木監督が『火花』をどう撮っていくかについて、しっかりベースを作ってくれました。4ヶ月の撮影期間を、まるで10年生きているように演じてほしいという意思が、現場にいるすべてのスタッフの間でも統一されていた。自由に動いてくれっていう環境ができあがっていて、それは監督たちも尊重してくださいました。細かな指示もなく、役を信じてくれたというか。できあがった映像を観たときに初めて、それぞれの監督が僕らのいろんな部分を引き出してくださっていたんだなって気づきました。こんなことをやっていたんだって。


波岡:まったく遣都のいう通りで、僕らは全編を通して自分の役柄のままで居続ければよかったんです。廣木監督はもちろん、ほかの監督も「さあ、徳永と神谷をやってみてください」という感じで、「それ面白いね、そうくるならこうやって撮ってみようか」ってだけです。だから、監督が変わったことで僕らが不便を感じたことはないですね。ただ、いろんな監督と一緒に仕事をさせてもらえたのは、本当にラッキーだったと思います。出会いという意味でも面白かったし、良い意味で、最後まで全く飽きることのない現場でした。(松田広宣)