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「長瀬智也くんを面白く演出したかった」 宮藤官九郎監督『TOO YOUNG TO DIE!』インタビュー

2016年06月24日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

宮藤官九郎

 宮藤官九郎監督の最新作『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』が6月25日に公開される。不慮の事故でこの世を去った高校生の大助が、地獄で出会った赤鬼のキラーKの“鬼特訓”のもと、地獄からの生還を目指して奮闘する模様を描いたコメディだ。リアルサウンド映画部では、メガホンを取った宮藤監督にインタビューを実施。7年ぶりの映画主演となったキラーK役の長瀬智也や、脚本で参加したドラマ『11人もいる!』(テレビ朝日系)以来のタッグとなる大助役の神木隆之介とのエピソードなどを交えつつ、地獄とロックをテーマに映画を撮ろうとした理由について、じっくりと話を訊いた。


参考:映画館は作り手の“情熱”をどう伝える? 『TOO YOUNG TO DIE』極上音響上映の意義


■「最初は“長瀬くんを面白く演出したい”ということだけだった」


ーー『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)や『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005年)など、脚本作と監督作でこれまで4度タッグを組んできた長瀬さん主演作ということで、宮藤監督にとっても、かなりやりやすかったのではないでしょうか?


宮藤官九郎(以下、宮藤):長瀬くんとコミュニケーションをとるようになったのは、実はすごく最近なんですよ。『うぬぼれ刑事』(2010年/TBS系)ぐらいから、演出的なことや作品に関すること以外の話を少しずつするようになって。連絡先を交換したのもこの作品の撮影前でしたね。


ーーそうなんですか? それは宮藤監督のほうから?


宮藤:長瀬くんのほうですね。何かの番組で会った時に「ちょっと映画のことでいろいろ聞きたいことがあるので、連絡先交換してもらっていいですか?」って言われて。そこからいろいろ話をするようになったんです。だから、気心知れるようになるのもこれからですかね(笑)。


ーー(笑)。撮影前には2人で作品について話し合いもされたんですよね。


宮藤:そうですね。一緒にご飯を食べに行って、僕のほうから「映画はこういう感じにしようと思っていて、今はここまで進んでいる」という話をしたり、長瀬くんのほうからも何か気になることがあったら言ってくださいと。映画の中で出てくる鬼ギターは、ESPに行って実際に作ってもらったんですけど、まだ完成前の途中の段階のものを「今こんな感じです」と長瀬くんに写メを送ったりして。「劇中で実際に音を鳴らして撮るシーンはないです」って最初に言ったのに、「ピックアップは何ですか?」と聞かれたり(笑)。「音は鳴らさないんだけどな」と思いながら、真面目に「ピックアップはESPのだと思うけど」と答えると「ストラップの位置はどの辺ですか?」と、また細かい質問が飛んできて(笑)。長瀬くんは本当に細かいところまで気にしていましたね。


ーーそもそも地獄とロックをテーマにした理由はどういう経緯だったんでしょう?


宮藤:今回の作品に関しては、最初にそこまで内容やテーマがあったわけではないんですよ。1番最初にアイデアとしてあったのは「長瀬くんを面白く演出したいな」ということだけで。昔、長瀬くんが、リチャード・リンクレイター監督がジャック・ブラック主演で撮った『スクール・オブ・ロック』が好きだと言っていたんです。ああいう映画はアメリカにはたくさんあるけど、そういえば日本にはあまりないなと思って。長瀬くんにジャック・ブラックのように過剰な芝居をしてもらうために、嘘にならないような設定を考えようと思い始めたんです。


ーーなるほど。


宮藤:あと、もともと長瀬くんとは一緒に音楽映画をやりたいっていう話をしていたんですよね。たぶん『うぬぼれ刑事』の時だから、6年前ぐらいですかね。僕も長瀬くんも『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』を観ていて、ああいう感じのバカバカしいことを一緒にやれたらいいねと。最初は、長瀬くんの役も鬼ではなかったんですよ。『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』に悪魔が出てくるんですけど、僕も長瀬くんもああいうイメージで。でも「いや、もうちょっとこう…」とか言っている間に、だんだん仏教のほうにいって、どんどん鬼になって……という感じで、キラーKというキャラクターになっていきましたね。


ーー5年前に話をされていた時点では、具体的なイメージもなかったと。


宮藤:そうですね。長瀬くんと僕とで話をしていく中で決まっていった感じです。最初は本当に『スクール・オブ・ロック』みたいな映画、というアイデアしかなかった。まあ、結果的にできあがったものは、『スクール・オブ・ロック』とは全然違うものになりましたけど(笑)。


ーー地獄に落ちる高校生・大助役の神木隆之介さんとは、『11人もいる!』(2011年/テレビ朝日系)で脚本家として一緒にお仕事をされていますが、今回初めて監督として一緒にやってみていかがでしたか?


宮藤:神木くんはもうキャリアが違いますよね。自分ではそうは思っていないでしょうけど、あの年代の役者さんの中では、引き出しや経験値が桁違いに多いから、繊細に演技の微調整ができる。リハーサルを繰り返すうち「面白いんだけどちょっとやりすぎかな」と思ったことがあって。それで、神木くんに「少し戻してください」って言ったら、スッと戻してきたんですよね。そういうのって、やっぱり経験がないとできないことですから。


ーーこれまでの神木さんのイメージとはかなり異なる役柄でした。


宮藤:ああいう役なので、本人が面白がってノってやってくれたのはよかったですね(笑)。こっちが勝手に抱いているイメージもありますけど、神木くんだから100%チャラくはならないと思っていたので。その感じが、クラスの中で頑張ってモテようとチャラく振舞うけど、いまひとつ板についてない高校生の感じと、すごくシンクロしたんですよね。撮影中にもこれぐらいがちょうどいいなって気づいたりして。そういう発見があるっていうのは、やっぱり彼がいい役者さんだからなんですよね。


ーー神木さんが輪廻転生して様々な動物に生まれ変わるのも印象的でした。何になるかはどういう基準で決められたんですか?


宮藤:僕の中でなんとなく方向性は決まっていました。1回目は残念な感じを出したいから、家族と一緒に暮らせる、僕も飼っていたインコにしたりとか、2回目は短く済ませたいからザリガニがいいなとか、大きいものにもならないとマズいよなということでアシカになったりとか……(笑)。そういう感じで自分の中で決めていきましたね。最初は正直、フルCGでやるだろうなと思っていたんですよね。じゃないとこの映画は無理だろうなって。でも、頑なに絶対にそうはさせないぞという雰囲気をスタッフの皆さんにすごい出されて(笑)。ただでさえ地獄が舞台の作品でお金がかかるのに、現世のほうでもそんなことをやったら大変だぞみたいな。だからみんな「これはCG使わずに本物でやったほうがいいですね」って言うんですよね(笑)。大助がHのコードを押さえるところなんかは絶対にフルCGだと思っていたんですけど、スタッフさんたちが実際にやっている動画を見せられて、「この人たち本当にこれやろうとしてるんだ!?」ってビックリしましたね。だから僕も腹を決めて、もうやってやるぞという感じで全部本物でやり切りました。


■「日本人が観ても恥ずかしくならないことを意識した」


ーー動物もそうですけど、登場人物がかなり多いですよね。豪華な役者さんたちがカメオ的に出演されているのも見どころのひとつだと思います。特に中村獅童さんの役柄は衝撃的でした。


宮藤:去年、獅童さんが出演した歌舞伎の脚本を自分が書いたりしたので、断りづらいだろうなと思ってオファーしました(笑)。この役を誰がやるのかを決めてしまったらOKというか、逆にこの役が誰にも決まらなかったら、このシーンはカットしろって言われるだろうなと思っていたので、獅童さんが受けてくれて本当によかったです(笑)。この映画は基本的にCGを使っていないんですけど、獅童さんのシーンはCGです。さすがにアレは無理でしたね(笑)。


ーーでしょうね(笑)。ほかにも音楽界を中心に、様々なフィールドで活躍されている方々が出演されています。宮藤監督の中で最も印象に残っているのはどなたですか?


宮藤:木村(充揮)さんですね。向井(秀徳)さんが仕上げてきた曲がゴスペルだったので、最初はゴスペルのグループにお願いして、黒人の方たちに唄ってもらったんですよ。でも、地獄を讃える話なので、皆さんやりづらかったみたいでかなり難航したんですよね。そしたら助監督さんが「木村さんに唄ってもらったらどうでしょう?」って言ってきて、「それものすごくいいですね!」という感じで、木村さんにお願いすることになったんです。唄ってもらうんだったらせっかくだし現場に来てもらおうってなって、現場に来てもらうんだったらせっかくだしちょっと出てもらおうってなって……という感じで(笑)。みうら(じゅん)さんもそうですけど、シャレが通じるというか、そういう人たちに出てもらえたのは本当によかったですね。


ーーあのゴスペルだったりボサノバだったりっていう音楽は、向井さんにお任せで作ってもらったんですか?


宮藤:今回、KYONOさんに作ってもらった主題歌の「TOO YOUNG TO DIE!」と、(益田)トッシュさんにお願いしたデビルハラスメントの曲以外は、全部向井さんにお願いしているんです。これは自分の勝手な考えかもしれないですけど、向井さんとはこれまで4本一緒にやってきて、自分が映画監督して経験を積んでいるのと同時に、向井さんは劇伴という分野で経験を積んできていて、すごく引き出しが増えているんですよね。だから今回も僕は普通にオーダーしたんですけど「ボサノバになっちゃいました」とか「ゴスペルにしてみました」とか、こっちの想像を軽く超えてくるというか、向井さん自ら新たな引き出しを開拓しているんですよね。今回はかなりバラエティに富んだ内容になっていると思います。向井さんもやっぱり基本的に映画好きなので、そのセンスを100%信頼してお任せできましたね。


ーー事前に情報がなければ向井さんの曲だとはわからなかったかもしれません。


宮藤:僕も向井さんがあんな王道のバラードを作ってくれて、おまけにギターソロまで弾いてくれるとは思ってもいませんでした。撮った映画をなるべく多くの人に観てもらいたいと僕が思うのと同じように、向井さんも音楽の引き出しを増やしたいっていう意識があるんじゃないかなって思いました。


ーー主題歌の歌詞は宮藤さんご自身が手がけられていますが、あの歌詞はどのように生まれたんですか?


宮藤:シナリオを書きながら、キラーKが自己紹介をするとしたらこんな感じかな……と想像しながらですね。あまり深くは考えていなかったんですけど、実はこの歌の中にこの映画のテーマが全部入っているんですよ。だから今振り返ってみると、映画の内容は歌詞を書きながらその時に決めたのかなって。「俺の右腕はジミヘンの左腕」「俺の左腕はカート・コバーンの右腕」。この2行はすぐに思いついたんです。そしたら、他のパーツも誰かのがいいな……と思って、じゃあ下半身はマイケル・ジャクソンかなとか、日本人がいないのもな……と思って、歌は清志郎さんかなっていうところまできた時に、「みんなとっくに地獄に堕ちた」「カッコ良すぎて地獄に落ちた」っていう歌詞を書いたんですよね。その時点でこの映画はこういう内容になるって決まったのかもしれません。


ーーまさに“ロック”という感じですよね。


宮藤:ロックの映画といえば、それこそ『スクール・オブ・ロック』とか、もう少し遡れば、『ファントム・オブ・パラダイス』や『ロッキー・ホラー・ショー』とかあるじゃないですか。でも、多くの日本人にとっては、自分たちから生まれた文化じゃないからどうしても気恥ずかしいというか、受け止めるのに時間がかかってしまう気がするんですよね。それが、舞台を“地獄”にした理由のひとつかもしれません。地獄を知らない人はいないし、地獄を舞台にした邦画もありますけど、地獄とロックを結びつけた映画はたぶん日本にはないのかなって。海外だと『ビルとテッドの地獄旅行』とかありますし、音楽だと地獄とロックの組み合わせは、かなり親和性が高い。でも日本で“地獄とロック”をテーマに映画を作ろうとすると、やっぱり難しいところがあるんですよね。少しリアルな路線のものじゃないと、皆さんあまり観てくれない気がしますし(笑)。だから自分はこの映画で、日本人が観ても恥ずかしくないロックミュージカルにしようということを意識しましたね。今自分ができる形としては、ロック映画としても、地獄の映画としても、日本人が観て照れないで楽しめる映画になったと思います。(宮川翔)