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おやすみホログラム、いよいよリキッドの舞台へーー新機軸も飛び出した“奇祭”を振り返る

2016年06月24日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

おやすみホログラムセカンドワンマンライブ『2』の様子。(写真=すずき大すけ)

 おやすみホログラムによる奇祭が終わった。それは、2016年6月15日に渋谷TSUTAYA O-WESTで開催されたおやすみホログラムのセカンドワンマンライブ『2』のことだ。


 しかし、現在のアイドルシーンの中で「汚ったねぇ現場」としてその名を轟かせてきたおやすみホログラムにしては、メンバーのダイブは少なかったぐらいだ。特に、おやすみホログラムのカナミルがいつも行う、フロアへの容赦のないダイブは、「おやすみホログラムの現場で一番ひどいピンチケはカナミル」と言われるほどであることを考えると、本当に少なかったほどである。言い換えると、完全にバンド編成をメインとした音楽で勝負したステージだった。そして、それでふだんのライブに何ら見劣りするところはなかったのだ。


 おやすみホログラムにはいくつかの編成がある。まず、普通のアイドルのようにオケだけを使い、メンバーのカナミルと八月ちゃんが歌うスタイル。そして、プロデューサーのオガワコウイチのアコースティック・ギターだけを伴奏にして歌うアコースティック編成。また、ジャズ畑のミュージシャンを中心にした「OYSMAJE(おやすみホログラム・オルタナティヴ・ジャズ・アンサンブル)」もある。最後がバンド編成の「おやすみホログラムバンド」だ。


 チケットがソールドアウトしたこの日のライブでは、最初の3曲がオケだった以外は、すべておやすみホログラムバンドによる演奏だった。そして、現在の編成としてはおやすみホログラムバンド最後のライブになることも事前に告知されていた。バンドは、ギターのオガワコウイチ、サックスの福山タク(NATURE DANGER GANG)、ギターのハシダカズマ(箱庭の室内楽)、ギターの上野翔(箱庭の室内楽)、ベースの小林樹音(THE DHOLE)、ヴァイオリンとキーボードの百瀬巡、ドラムの高石晃太郎、そしておやすみホログラムのカナミルと八月ちゃんという9人。大編成である。バンドが現れたとき「ギターが多い!」という声が会場から起きていたが、ギターが3人もいるのに、サックスとヴァイオリンもいるのでギター・バンドにはならないという特殊な編成だ。


 おやすみホログラムのセカンド・アルバム『2』は、前知識なしに聴いたらアイドルではなくオルタナのアルバムにしか聴こえないが、このバンドはそれを見事に再現する編成でもあった。おやすみホログラムとしては大胆なほどアコースティック・サイドを封印したライブであったとも言える。


 会場に着くと入場列が非常に長かったので、これは開演が遅れるな……と考えていたものの、ライヴは定刻通りスタート。1曲目は前夜MVが公開されたばかりの「too young」。それが鳴り始めると、昼間からTSUTAYA O-WESTの前で酒を飲んでいたヲタたちが用意した巨大な風船たちが会場に投げ入れられた。


 その一方で、この日のオケによるパートでは新たな振り付けがあった。フリースタイルの塊のようだった最近のおやすみホログラムとしては新鮮な光景だ。そのダンスが、フロアからステージに乗りあげた巨大な風船に押されてしまい、スタッフが風船を片付ける一幕も。2曲目の「note」では早くもフロアが荒れ狂い、風船が破裂する音も響いていた。地獄かよ。3曲目は冷ややかな打ち込みのトラックが心地いい「ニューロマンサー」。ここまでがオケによるパートだった。


 そして、バンドメンバーが登場すると、百瀬巡への熱い「百瀬」コールと大歓声が起きていた。おやすみホログラムがいるだろ……!


 バンド演奏で始まった「machine song」では、麻袋に詰められたままダイヴしてきたヲタがフロア前方へと運ばれてきた。コーヒー豆かよ……。「plan」では、演奏の疾走感に煽られて、フロアもさらに荒れ狂っていく。「last dance」「before」からの流れで溜めた熱が、「strawberry」やHave a Nica Day!のカヴァー「forever young」では暴発したかのようだった。チケットがソールドアウトするのもわかる。これほど自由な現場はそうそうないのだ。熱気のある場所に人は集まる。


 「under water」や2回目の「note」では百瀬巡がキーボードを弾いていたが、「note」ではオリジナルよりも激しい演奏に。「note」でのバンド演奏のタイム感も秀逸だった。


 ミディアム・ナンバーの「帰り路」では、カナミルと八月ちゃんのハモりが美しい。ハーモニーはおやすみホログラムの大きな魅力のひとつだ。「our future」「夜、走る人」「11」と続いた本編終盤では、ときにサイケデリックな百瀬巡のヴァイオリンが大きなアクセントになっていた。


 「誰かの庭」で本編は終わったが、アンコールの声は止まらない。すると、おやすみホログラムとコラボレーションしてきたラッパーのハハノシキュウの映像がステージ上のスクリーン流れだした。その「おはようクロニクル」は、おやすみホログラムのメンバーの名前や曲名などを織り込みつつ、おやすみホログラムのこれまでの歩みを描いた楽曲だった。


 そのライムにフロアから歓声が起きる中、ハハノシキュウ本人も登場。そして突然、「3回目のワンマンが決まる / その会場を今から教える」と、ハハノシキュウによって次のワンマンライブの場所が発表されたのだ。それは、2016年11月16日の恵比寿LIQUIDROOMだった。


 LIQUIDROOMは、おやすみホログラムにとって大きな意味を持つ場所だ。おやすみホログラムが現在のスタイルになったきっかけは、Have a Nice Day!とのコラボレーションでアンセム「エメラルド」を生みだしたことだった。そのHave a Nice Day!が、2015年11月18日に『Have a Nice Day!「Dystopia Romance」リリースパーティー』を開催し、925人を動員した場所がLIQUIDROOMなのだ。そして、カナミルと八月ちゃんは、おやすみホログラムがそのライヴのゲストとして1曲しかできなかった悔しさを述べてきた。2016年5月24日には、映画『モッシュピット』の上映後のトークショーで、カナミルがしばらく沈黙して考え込んだ後に、「いつかLIQUIDROOMに925人以上を動員する」と宣言したばかりでもあった。おやすみホログラムは、遂にそれを現実にしようと動きだしたのだ。


 アンコールが始まると、オガワコウイチが「僕らの船がないと漕ぎだせない」と前振りをした。何かと思えば、ビニールボートのようなものが2台フロアに投げ込まれ、それにカナミルと八月ちゃんがそれぞれ乗って「Drifter」を歌う趣向。奇祭のようだと感じたのはまさにその光景だった。八月ちゃんが「もっとフロア後方に行きたい」と言いたげに指をさしても、真下で支えているヲタには見えないので、なかなかうまく移動しない。しっかりと歌うための趣向だったのだろうが、最終的にはビニールボートからカナミルがフロアへダイブしていた。


 2回目の「ニューロマンサー」を経て、ダブルアンコールへ。そこで歌われたのは、初披露の新曲「planet(仮)」だった。突然のエレクトロ・ディスコである。フロアが反応の仕方を模索している雰囲気の間にライヴは終了した。最後の最後で新機軸を打ち出してきたのだ。


 バンドで演奏するオガワコウイチの姿を見ながら考えたことがある。彼はアメリカでいうならナードの青年のようであるし、おやすみホログラムのファースト・アルバム『おやすみホログラム』は、アメリカのカレッジ・チャートに入るインディー・ロックのようなサウンドだった。オガワコウイチが「Pitchforkで評価されたい」と語っていたことも思い出す。彼のようなバンド畑の人物が、アイドルをフロントに立たせることによって評価を得ていく過程は、まさに日本独自の文化だろう。


 そして、おやすみホログラムのこの日のフロアは「品がない」というぐらいの盛りあがりで、そこにもうひとつの可能性を見た。2016年5月25日にはHave a Nice Day!もTSUTAYA O-WESTでワンマンライヴを成功させたが、同じようにモッシュやダイヴが起きていても、Have a Nice Day!はダンスフロアっぽく、おやすみホログラムはヲタのノリだった。おやすみホログラムはHave a Nice Day!を強く意識しているが、彼女たちの現場はしっかりと独自の進化をしているのだ。また、冒頭からクラップケチャ(落ちサビでケチャを捧げる際に手を打つスタイル)が鳴り響き、他現場から流入した新規ファンの多さも実感した。


 おやすみホログラムは、2016年11月16日にLIQUIDROOMで925人以上を動員できるのだろうか? それは決して夢物語ではないだろうと、この日のライブを見て感じた。ふだんの「手癖」を意識的に封印してステージに立ったカナミルと八月ちゃんが、そう感じさせてくれたのは言うまでもないだろう。(宗像明将)