2016年06月22日 10:31 弁護士ドットコム
Jリーグのクラブに所属する外国人選手に対して、SNS上で差別的なコメントが投稿されるケースがあいついでいる。
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6月11日には、J1浦和のサポーターを名乗る人物が、J1鹿島に所属するブラジル人、カイオ選手に対して、ツイッター上で人種差別的なコメントを投稿した。浦和は6月13日に発表した経過報告で、投稿の意図や謝罪の意思を確認するために、投稿者に接触をこころみたが、本人が待ち合わせの時間・場所にあらわれなかったため、法的措置も辞さない姿勢を示した。
その後、浦和は6月16日、投稿者と面会し、謝罪を受けたことを公式サイトで報告した。「差別的な行為は断固として許すことができない」としたうえで、本人への対応について「今後の取り組みなどを見たうえで決める」とコメントした。
浦和は、2014年も差別的な横断幕が掲げられたことが問題となり、差別撲滅に向けた取り組みを行うと宣言していた。今後も差別的な投稿が繰り返された場合、浦和はどのような法的措置をとりうるのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。
「刑事的には、浦和を被害者とする偽計業務妨害罪(刑法233条)で告訴等をすることが考えられます。
浦和のサポーターを名乗って相手チームの選手に対して人種差別的言動をおこなえば、浦和はその言動についての事後対応のために、通常業務の遂行に支障をきたすおそれがあるからです」
林弁護士はこのように述べる。では、民事的にはどうだろうか。
「民事的には、この投稿者に対して、今後の観戦拒否(いわゆる出禁)や損害賠償請求が考えられます。
一昨年の差別横断幕事件のとき、Jリーグから無観客試合の制裁を受けた浦和レッズがかぶった損害額は3億円にものぼるという計算もあるようです。無観客試合とまでいかなくても、制裁金がかされれば、浦和がその負担をかぶります。
Jリーグから制裁を受けなくても、今回の問題で浦和に損害が生じたと主張して、浦和が投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることもありえます。
浦和の主張する損害すべてを投稿者に請求できるとは限りませんが、投稿者個人には大きな負担になるでしょう」
今回の問題の直後、6月12日から13日にかけてツイッター上で、J2長崎に所属する在日コリアン、李栄直選手に対して、国籍や被爆者を蔑視するような差別的な書き込みがあった。長崎はツイッター社に投稿削除を要請した。
林弁護士は「この投稿者についても刑事・民事の法的責任が厳しく問題にされてもおかしくないでしょう」と話す。
外国人選手に対する差別的な書き込みがあいついでいること受けて、Jリーグの村井満チェアマンは6月16日、「卑劣であり、絶対に許されることではありません」という声明を発表した。こうした状況をどう考えるべきか。
「Jリーグはその規約に『Jリーグ関係者による差別は許されない』という内容を明記しています。
しかし、サッカーあるいはスポーツの世界だけが差別のない聖域になることが目指されているわけではありません。国や社会を構成する私たち一人ひとりが、差別を許さない価値観を共有できるかどうかが問題だと思います。
最近、わが国では、国籍や人種について、醜悪な差別的言動が目立つようになってきたように思います。黙認することは差別主義者を助長させますから、スポーツの場でもそれ以外でも、機に応じて差別を拒否する態度を表明すべきです。
ただ、ある言動に差別のレッテルを貼って攻撃することも逆に問題です。また、差別について鈍感であることも差別主義者を結果的に支持する結果になりえますので、一人ひとりの読み取る力(リテラシー)や感覚を高めることも必要になってきます。
なかなかしんどいことですが、自分を含めたみんなが差別されずに安心して生きていける世界にしていくには、一人ひとりの『不断の努力』が大事なのだと思います」
林弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道出身。大阪大学卒・京都大学大学院修了。平成17年10月弁護士登録。東京弁護士会、島根県弁護士会、沖縄弁護士会に所属の後、平成28年3月に札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。『スポーツ事故の法務-裁判例からみる安全配慮義務と責任論-』(共著)。
事務所名:北海道コンテンツ法律事務所
事務所URL:http://www.sapporobengoshi.com