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瀬川あやかが、音楽と看護師を両立する理由「誰かの力になるという点では、どちらも違わない」

2016年06月21日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

瀬川あやか(写真=下屋敷和文)

 “現役看護師のシンガーソングライター”瀬川あやかが、メジャーデビューを果たした。2011年に看護師になるために上京した彼女は、病院に勤務しながら弾き語りのライブを年間50本以上のペースで行い、シンガーソングライターとしての個性を少しずつ培ってきた。彼女の特徴であるポジティブでポップな楽曲、明るくて伸びやかなボーカルは、1stシングル『夢日和』からもしっかりと感じ取ってもらえるはずだ。
 
 今回のインタビューでは、看護師とアーティスト活動を両立させてきたこれまでのキャリア、シングル『夢日和』を中心に語ってもらった。その健康的で前向きなキャラクターは、シンガーソングライターとしての彼女の魅力に直結していると思う。(森朋之)


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■看護師の実習中に音楽の力を感じられる場面に出会った


——6月15日にメジャー1stシングル『夢日和』がリリースされます。デビューするという実感はありますか?


瀬川:凄くワクワクしてるんですけど、実感はあんまりないですね、正直言って(笑)。いろんな情報が解禁になって、こういうインタビューも増えてくると「そうか、デビューするんだな」って思ったりはしますけど、まだ夢みたいです。


——“現役看護師のシンガーソングライター”ということですでに話題となっていますが、楽曲を作り始めたのはいつ頃なんですか?


瀬川:まだそんなに経ってなくて、大学時代からなんですよ。歌手になりたいという気持ちは小さい頃からあったんです。モーニング娘。さんをテレビで見て「こういうふうに歌って踊るのって、素敵だな」って。でも、私の地元(北海道富良野市)はすごく田舎だから「歌手になりたい」なんて言うとポカンとされちゃうんですよね。バカにされるとかではなくて、「歌手なんて、実際になれるものなの?」って感じで。


——富良野にいた頃は、まったく音楽活動はしてなかった?


瀬川:してないですね。地元のカラオケ大会に出るとか、それくらいで。あ、でも、5歳くらいからピアノを習ってたんです。高校に入ったら続けられなくなったんですけどね。旭川の高校に通ってたんですけど、通学に往復4時間かかってたので。たとえばダンスを習いたいって思っても旭川まで行くしかないから、ちょっと難しいんですよね。


——確かに歌手になるなんて現実味がないのかも。


瀬川:そうですね。看護師になるという目標もあったから、みんなの前では「看護師になりたい」って言って、裏の夢として歌手もあるっていう(笑)。高校を卒業して看護師になるために東京に来て、大学のミスキャンパスコンテストに出たことをきっかけにいまの事務所との出会いがあったんですけど、「(音楽活動の)機会を与えてもらえるのであれば、やってみてもいいのかな?」と思うようになって。ただ「どっちにしよう?」と迷ってる間に看護師になるための実習期間になって、そのときは1回、音楽活動のほうを諦めようと思ったんです。事務所にも「看護師になります」って言って、自分のなかでも決心がついたというか…。でも、実習中に音楽の力を感じられる場面に出会ったんですよね。寝たきりに近くて、身体を動かすのが大変な患者様がいらっしゃったんですが、音楽を聴いたり、歌うことで、自然と体が動きやすくなって。


——医療の現場で音楽のパワーを目の当たりにした、と。


瀬川:そのときに思ったんですよね。「音楽と看護師、どっちにしよう?」ってずっと考えていたけど、誰かのためを思って、誰かの力になるという点では、どちらもぜんぜん違わないなって。曲を書くようになったのも、そのときからなんです。誰かのことを思って歌うのであれば、自分の言葉、自分のメロディじゃないと伝わらないなと思ったから、だったら試しに書いてみようって。


——最初から音楽の方向が決まっていたんですね。


瀬川:そうですね。自分が歌って気持ちいいっていうだけではダメというか。最初に書いた曲は「はじまり」という曲なんですけど、まさにそのときの気持ちを歌ってるんです。「イヤなことも楽しいこともたくさんあるだろうけど、初心をすぐ思い返せるように、いま思っていることをそのまま書こう」と思って。<声に出して 夢を描こう>という歌詞があるんですけど、ずっと言えなかった夢を声に出し始めたときだからこそ書けたと思うんですよね。いま「はじまり」を聴き返してみても——初めて作った曲だから、ダメなところもたくさんあるんですけど(笑)——いまは書けない曲だなって思うし。


——看護師とシンガーソングライターを両立すると決めてからは、病院での勤務とライブの日々ですか?


瀬川:はい。看護師として勤務し始めたのは昨年なんですけど、最初はもちろんわからないことだらけだし、探り探りという状況で。音楽のほうも曲を作り始めたばかりだったし…。でも、だからこそ「自分にやれるのは努力しかない」と思えたんですよ。とにかくたくさん曲を生み出して、ライブの数も増やして。経験を重ねて成長するしかない! っていう。それは看護師としても同じですね。


——努力家なんですね!


基本、負けず嫌いなんですよ(笑)。いまの活動はまわりのみなさんに助けてもらえるから出来ることですけど、結局、がんばらないといけないのは自分ですからね。病院のほうにも、就職するときに「音楽もがんばりたいと思っています」とお伝えして、それも理解していただいているので。


■落ち込んでいるままで終わる曲にはしたくない


——では、デビュー曲「夢日和」について聞かせてください。記念すべきデビューのタイミングでこの曲を選んだのはどうしてなんですか?


瀬川:いくつか候補があって「うーん」って悩んでたんですよ、じつは。最初「夢日和」は候補のなかに入ってなかったんですけど、だんだん「この曲しかないな」って思うようになったんです。「夢日和」って、まさに両立させようと決めた時期に書いた曲なんですよね。自信なんてなくて、すごく迷っていて、不安もたくさんあったけど、そういう状況だからこそ出来た曲だなって。


——シンガーシングライターとしての原点だったんですね。


瀬川:そうですね。そういう迷いの時期って、誰にでもあると思うんですよね。「自分のなりたい像」と「まわりから求められる像」の差に悩んだり…。でも、そういうことを考え過ぎて、自分の限界を決めてしまうのはもったいないじゃないですか。だから「不安を力に変えて、夢を追いかけよう! まずはやってみよう!」という気持ちを込めてるんですよね、「夢日和」には。みなさんの背中を押せる曲になったらすごく嬉しいし、自分の背中を押せる曲でもあるなって思います。


——いまも不安は残ってるんですか?


瀬川:ありますね。「夢日和」に対しても「本当にこれでいいのかな」って思うし、どういう反応があるんだろう? という不安もあるし。音楽のキャリアが少ないことも自覚してるし、看護師としても未熟なので…。でも、がんばるしかないですからね。


——鈴木Daichi秀行さんによるアレンジも、楽曲のテーマにすごく合ってますね。ソウルミュージックのエッセンスを感じさせつつ、前向きな気分を誘うサウンドに仕上がっていて。


瀬川:聴いていて元気になれる曲にしたかったんです。不安も歌ってますけど、ちゃんと救いがあるというか、希望を感じられる曲にしたかったので。静かなところはしっかり聴かせたいし、サビは盛り上げたい。私は音楽理論がわからないし、至らないところもたくさんあると思うんですけど、鈴木さんが私の良さを活かしながら、足りないところをしっかり補ってくれて。いい曲になって嬉しいです。


——カップリング曲の「はりーあっぷ」は恋愛のドキドキ感をストレートに描いたポップチューン。


瀬川:設定としては「好きな人がいて“今日こそ自分の気持ちを言うぞ”って思っていても言えない女の子」なんですけど、誰が聴いてもポジティブになれたり、元気になれる歌にしたくて。ひとつの歌詞、ひとつのフレーズだけでもいいから「この曲を聴いたことで、ちょっとポジティブになれた」と思える要素があったらいいなって。「夢日和」もそうですけど、自分のキャラクターが伝わる曲になったと思います。不安や迷いがあったとしても、ずっと落ち込んでいるままで終わる曲にはしたくないので…。


——“最後は前向きに”というのがルールになってる?


瀬川:ルールとして決めているわけではないんですけど(笑)、たとえば友達に「じっくり浸れる曲が聴きたい」って言われて、「わかった!」って作り始めても、出来上がりは尻上がりになってるんです。


——(笑)。出来上がってみると、気分がしっかり上がるような曲になっていると。


瀬川:そうなんですよね。「悲しいな、つらいな。でも……」って元気になっていく(笑)。悲しいだけで終わってしまう曲って、歌っていてもシックリ来ないと思うんですよ。だから友達にも「ごめん!やっぱり浸れる曲は書けない」って言うしかなくて。


——友達から「こんな曲が聴きたい」って気軽に言われるのも、瀬川さんらしいと思います。親しみやすいんでしょうね、きっと。


瀬川:すごく応援してくれますからね。ごはん食べて話してるときも「いまの話、歌詞にしていいよ」とか(笑)。


——音楽活動のスタッフ、病院の方を含め、いい縁に恵まれてますよね。


瀬川:ホントにそう思います。まわりの人に生かされているというか、もう感謝感謝ですね。


■誰かの人生に寄り添えるような曲を


——「夢日和」も「はりーあっぷ」もすごくライブ映えする曲だと思いますが、瀬川さんにとってライブの魅力とは?


瀬川:当たり前かもしれないですけど、会場に来てくれた方と目を合わせながら歌って、同じ空間を共有できるのはすごく素敵だなって思いますね。「良いライブをやらなくちゃいけない」っていうプレッシャーもありますが、やっぱりライブは楽しいです。大きい会場で歌いたいという気持ちもあるんですが、ステージと客席の距離が離れていても、親近感があって“近くにいる”って思ってもらえるようなアーティストになりたいですね。


——歌詞のテーマ、サウンドのテイスト、ライブの在り方を含めて、すべてが明確ですよね。アーティストとしての方向性に関しては迷ったことはないですか?


瀬川:そうですね…。いまはこれでいいと思ってがんばってますけど、この先、「これじゃダメかも」って思うときも必ず来ると思うんです。そうなったときは、その気持ちにしっかり向き合えばいいんじゃないかなって。あとは自分がなりたい像、やりたいことをどんどん口に出すべきだなって思いますね。有言実行じゃないですけど、言霊って絶対にあると思ってるので。


——なるほど…。瀬川さん、どうしてそんなにしっかりしてるんですか?


瀬川:ハハハハハ! それはたぶん、自分が弱いからだと思います。すごく落ち込みやすいし、だらしないところもたくさんあるんですよ、実際は。ネガティブになりがちだからこそ、落ち込んだときはちゃんと落ち込んで、そこからポジティブに切り換えるようにしていて。ライブをやるたびに「あそこが良くなかったな…」って思うけど、そのまま落ち込んでいても何も変わらないじゃないですか。あとはもう「じゃあ、やるしかない。私、やれ!」っていうことなので(笑)。


——物事の良い面を見る力が強いのかも。


瀬川:都合のいいように考えているだけかもしれないですけどね(笑)。私の曲を聴くことで、そういうふうに思えたらすごく嬉しいですね。


——瀬川さん自身も「音楽を聴いて元気になった」という経験を重ねてきたんでしょうね。


瀬川:それはいっぱいありますね。人の感情には起伏があるし、昨日と今日、1時間前と1時間後でも違うじゃないですか。そのときどきで印象に残っている曲もいろいろあるし、だからこそ「この曲を聴けば、あの瞬間を思い出す」ということが起きると思うんです。私も曲を聴いて「この頃はあの先輩が好きだったな」とか「受験で大変だったな」って思い出したりするので。「夢日和」を聴いてくれた人が、何年か経って「あのとき迷ってたけど、この曲を聴いて前向きになれたんだよな」なんて思ってくれたら最高ですよね。そうやって誰かの人生に寄り添えるような曲を作っていきたいので。


——そういうスタンスだと、やっぱり歌詞が大事になりますね。


瀬川:そうですね。私、歌詞カードを見ながら曲を聴くのが大好きなんですよ。すごい爆音のロックでも歌詞を読んでみるとすごく深いことを歌ってたりするし。「夢日和」の(ブックレットに掲載されている)歌詞は手書きしてるんですけど、ひとつのフレーズでもいいから興味を持ってくれたら嬉しいですね。


——ふだん歌詞を書くときも手書きなんですか?


瀬川:まとめるときはパソコンですけど、最初は手書きですね。いつも鉛筆で書いてるんです。看護師試験の勉強をしているときもそうだったんですけど、鉛筆が短くなるのが嬉しいんですよね。「これだけがんばったんだな」って(笑)。


——昭和っぽい(笑)。


瀬川:よく「おばさんみたいなこと言わないで」って言われます(笑)。おばあちゃん子だったから、その影響もあるのかも。


——最後に今後のビジョンについて聞かせてください。メジャーデビューを果たした後、まず何をやりたいですか?


瀬川:いろんなところに行って、いろんな人に会いたいですね。私の曲を聴いた人がどんな反応をしてくれるのか見たいんですよ。ちょっとでも響けば最高だし、響かなかったとしたら「どうしたらいいんだろう?」って考えたいし。そうやって自分に向き合って、もっともっと成長していきたいですね。


——看護師としては?


瀬川:私は病院の外来に勤務していて、毎日、違う患者様に接しているんですね。経過を見る力を養うのは大変ですけど、自分なりに看護師をどう極めていくかを考えていきたいなって。「ほら、ふたつもやってるから」って言われたくないというか、そこで悔しい思いはしたくないですからね。看護師の仕事もしっかりやって、曲もたくさん生み出して。両方ともがんばっていきたいです!