バクーは確かにストリートコースではあるが、セットアップの上で重要なのは、1本だけではない長いストレートだ。F1ヨーロッパGPの週末、チームが頭を悩ませた理由もそこにあった。
近年の新サーキットの多くと同様に、バクーのコースもヘルマン・ティルケによって設計されたもので、長いストレートの終わりに待っているビッグ・ブレーキングとタイトなコーナーという、彼のデザインに共通する顕著な特徴が見てとれる。しかし、そのパターンに新たな趣向が加わった。サーキット全体がバクー市街の建物に囲まれていながら、タイトでツイスティな部分もあれば、コース幅の広大な長い全開区間もあるのだ。
路面は新たに敷かれたアスファルト舗装で、うねりやバンプがないわけではないものの、白線やマンホールの蓋などは一切なく、他のストリートコースの路面とは明らかに一線を画している。
こうした条件から、多くのチームはローダウンフォースとドラッグの軽減を第一に考えて、スパと同レベルのウイング・セットを持ち込んだ。結果として、2本の長いストレートでの最高速は安全性に懸念が生じるほど高くなり、反対に低速セクションでは、どのドライバーもグリップ不足に苦しんだ。また、最高速の高さは、その後のブレーキングもハードになることを意味し、ドライバーとエンジニアはブレーキの消耗に不安を抱えながらレースに臨むことになった。
縦方向にGがかかる時間の長いコース特性のため、トラクションが重要になることは事前に予想されていた。真新しいアスファルト舗装のグリップレベルはかなり低かったが、逆に摩耗はほとんど問題にならないレベルに収まり、全体としてはデグラデーションも大きくなかった。多くのチームがトラクションとブレーキングスタビリティの確保に苦労したのは、ピレリが最高速時の負荷を考慮して、安全マージンを見込んだ高めの最低空気圧を指定してきたことも一因だった。
そして、もうひとつの懸念は燃費だった。どのパワーユニットも、ある程度は燃料のマネジメントをしないと、100kgではレースを走り切れないと予想されたからだ。セーフティカーが出動する確率が高いことを考えれば、実際にはそれほど燃費の面で厳しいレースにはならないとの見方もあったが、意外にも決勝でセーフティーカーが出ることは一度もなかった。
このようなバクー・シティ・サーキットのコース特性を踏まえて、各チームのアップデートを見てみよう。まずは、ニコ・ロズベルグが勝利を飾ったメルセデスから。
メルセデスは、予想されたとおり、カナダで短時間だけテストした曲線的なリヤウイングをバクーに持ち込んだ。昨年スペインとイタリアで使われたものと似たこのウイングは、ロードラッグ/ローダウンフォースを狙ったデバイスで、基本的には翼端部で発生するダウンフォースを減らし、それと引き換えにウイング全体のドラッグを軽減しようとしたものだ。
他チームでは、中央部分の迎角を浅く、翼端部を深くしたロードラッグウイングも見られる。だが、これとは逆に、メルセデスのウイングは翼端部の迎角を浅くすることによってエンドプレート部分の圧力差を減少させ、ウイング後方の渦流によって生じる抵抗を減らそうとしている。
また、メルセデスはバクーでの週末を通じて、大半のチームと同様にモンキーシートを使わなかった。全般にリヤウイングの角度が浅いため、その真下に備える小さなウイングレットによって気流を安定させる効果は、それほど必要とされないのだ。