2016年06月20日 10:51 弁護士ドットコム
LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の権利を守る動きが国際的な潮流になりつつある。2015年には、アメリカの全州で同性婚が認められ、日本でも渋谷区が同性のパートナー同士を公的に認める条例を制定した。
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一方、LGBT関連のニュースは増えたものの、周囲にLGBTの当事者がいなくて、現実感がないという人も多いのではないだろうか。日本にはLGBTがどのくらいいて、どういうサポートが必要なのか。「LGBT支援法律家ネットワーク」で活動する原島有史弁護士に話を聞いた。(取材・構成/染谷美樹)
ーーLGBTの人に会ったことがないのですが、どのくらいいるのでしょうか?
6月1日に発表された博報堂DYグループのLGBT総合研究所の調査によると、LGBTの当事者は5.9%、その他の性的マイノリティに該当する人は2.1%という結果でした。5.9%というのは、少なそうに見えて多い数字です。例えば、「佐藤さん」とか「鈴木さん」、「高橋さん」といった苗字の知り合いが周りにいませんか。これまでの人生の中で、クラスや職場に1人くらいはいたんじゃないでしょうか。こうした苗字と同じくらいの割合でLGBTの当事者はいるんですよ。
会ったことがないと思うのだとすれば、それは単純に当事者からカミングアウトを受けていないだけ。会っていないということはないはずです。LGBTに差別的な発言があったとして、当事者がその場にいる可能性はとても高いのです。
ーー差別を受けるからカミングアウトしづらい?
カミングアウトをしない理由は人それぞれですし、場面によっても異なるでしょう。ただ、差別の問題は大きいと思います。日本の場合、そもそもLGBTについて見聞きすることはこれまでほとんどありませんでした。最近でも、テレビのバラエティ番組では、例えばゲイといえば「オネエキャラ」ということで、笑いの対象になることがすごく多い。あとは、気持ち悪いキャラクターとして扱われたりとかですね。
カミングアウトしたら、自分も同じように扱われてしまうかもしれない。そういう不安で話せないということは多いと思います。
ーーメディアの扱い方に問題があるということでしょうか?
いわゆる「オネエタレント」が、自分たちはオネエですというキャラクターでテレビに出ること自体を否定するつもりはありません。ただ、そうじゃない当事者もたくさんいるということは、どこかで示す必要があります。
女性的でないゲイだってたくさんいますし、男性的な格好をしていないレズビアンも当然います。同性愛というのはあくまで性的指向の話であって、個人の性格や服装とは直接は関係ありません。LGBTというのは「オネエか、宝塚の男役か」みたいなイメージを植え付けてしまうような風潮は正しくないと思います。メディアでのLGBTの取り上げ方は、いまだに人権意識がすごく低いと感じることがあります。
ーー最近はマンガやライトノベルなどでもLGBTが扱われることも増えました
若い世代ほど、LGBTに寛容という調査結果があります。確かにマンガやライトノベルなど、ポップカルチャーの影響があるのかもしれません。ただ、「BL(ボーイズラブ)」や「百合」と呼ばれるジャンルには、性的な部分を強調しているものが多く、注意が必要です。LGBTと聞くと、どうしても「同性間で性行為をする」というイメージばかり先行しています。やっぱり、メディアがちょっと偏っている気はしますね。
自分が「襲われる」とか「狙われる」という言葉が、特に男性の同性愛者に向かって使われることがあります。でも、ゲイやレズビアンは、同性であれば誰でも良いというわけではありません。異性愛者だって、相手が異性であれば誰でも良いというわけではないのと同じです。そんな当たり前のことですら、日本では常識になっていない。
例えば職場の飲み会で、同僚の男性が女性社員に対して「君は僕の身体を狙っているんだろう」みたいなことを言ったら、それはもう完全にセクハラですよね。それなのに、同性愛者の場合、同性だったら誰に対しても迫っていく、みたいなイメージで語られることがある。それは、話している本人は自覚していないのかもしれませんが、どこかで同性愛者を見下しているのではないでしょうか。
ーーやはり日本はLGBTへのサポートが遅れているのでしょうか?
2011年、ジュネーブの国連人権委員会で、性的指向や性自認にもとづく差別や人権侵害を非難する決議案が採択されました。日本はこの決議案に賛成し、国際社会ではLGBTの権利擁護を進めるコア・グループの一員として活動しています。
さらに、この決議案に反対していたイスラム諸国などが提案した、「人類の伝統的価値観のよりよい理解を通じた人権及び基本的自由の促進決議」と「家族の保護決議」(伝統的な意味における家族の尊重との調整を目指す決議)という2つの決議案には、いずれも反対票を投じています。
それなのに、国内ではほとんど何もやっていない。外に対する顔と内に対する顔がまったく違う。同性カップルに対してなんの保証もない、法律もないというのは、G7の中では日本だけです。
ーーでは、今後どういうサポートが必要になっていくのでしょうか?
LGBTに対する差別を禁止するような法律はすぐにでも必要だと考えています。
また、家族制度は社会に合わせて変わっていくべきです。パートナー条例などもありますが、条例だけでできることには限りがあります。いずれは同性間での結婚が認められるべきだと考えます。
同性婚については、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」とした憲法24条の文言を理由に、違憲だと主張する人もいます。しかし、憲法は国家の権力を制限するためにあるもので、国民の権利を制限するためにあるものではありません。婚姻の自由の中に、同性婚も含めて考えることは立憲主義に反するものではありません。
ーーアメリカで同性婚が認められたのには、何か社会的な圧力のようなものがあったのでしょうか?
アメリカも一夜にして同性婚が認められたわけではなく、長い長い市民運動の歴史があります。最終的には、政界、経済界、法曹界、社会学、精神医学など様々な分野の人々が同性カップルの婚姻を支持しました。アメリカでは、民間企業もLGBT支援に積極的に関わっています。企業の寛容性やサポート体制を評価して公開している団体などもあります。
また、LGBTを含めた社会的マイノリティに対して寛容な企業の方が、従業員の作業効率が良く、より能力を発揮できるとされています。従業員に多様性があった方が、先進的な取り組みをできる傾向もあります。
日本の企業のトップ層の中にも、グローバル化の中で生き残るためには、日本企業もより積極的にダイバーシティ経営を推進していくべきだ、と考えている方が増えてきました。ビジネス雑誌でも、LGBTに関する特集が組まれています。
ーー最後に支援活動をする上で、意識していることはありますか?
GWに代々木公園で開催された「東京レインボープライド2016」では、2日間合計で7万人もの人たちが参加しました。我々LGBT支援法律家ネットワーク有志も「パレード見守り弁護団」といった形で「弁護士」の腕章を着けてパレードに協力させていただきました。パレードに参加している人たちだけでなくて、沿道にいる人たちも楽しそうで、「頑張れよ」なんてハイタッチをしたりしていました。
社会的な認知や寛容性を高めていくためには、攻撃的であったり、批判ばかりを繰り返していたりするのではいけないと思います。
これは、アメリカの同性婚問題のリーダー的な立場にいたエヴァン・ウォルフソンさんも強調していたことです。反対する人たちを非難するのではなく、どちらとも態度を決めかねている人たちに説明して、味方を増やしていくことにこそ時間を使いたいと思っています。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
原島 有史(はらしま・ゆうじ)弁護士
LGBT支援法律家ネットワークメンバー。特定非営利活動法人EMA日本理事。過労死問題や解雇などの労働事件、離婚・相続などの家事事件などに関わる傍ら、LGBT支援の分野でも積極的に活動している。
事務所名:早稲田リーガルコモンズ法律事務所
事務所URL:http://www.legalcommons.jp/