2016年06月19日 10:11 弁護士ドットコム
犯罪捜査のためなら、本人へ通知しなくても携帯電話のGPSの位置情報を取得できるーー。NTTドコモが5月から発売している夏モデルのスマートフォンの機種(アンドロイドOS)に、こうした機能をもつ位置情報アプリがプリインストールされた。既存の機種についても、アプリのアップデートで対応する。
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これは、2015年6月に総務省が「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を改正したことを受けての措置だ。弁護士ドットコムニュースの取材に対し、KDDIは「準備が整い次第、(ガイドラインに対応する措置を)開始する予定」、ソフトバンクは「対応するかどうか検討中」と回答した。
改正前のガイドラインの「位置情報」の項目(26条)では、次のように定められていた。
「電気通信事業者は、 第4条の規定にかかわらず、 捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、 当該位置情報が取得されていることを利用者が知ることができるときであって、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得するものとする」
この規定が2015年6月の改正により、「当該位置情報が取得されていることを利用者が知ることができるときであって」の部分が削除された。そのため、本人に通知しなくても、捜査機関が位置情報を取得できるルールになった。
こうした運用は法的には問題ないのか。刑事手続の問題に詳しい萩原猛弁護士に聞いた。
「結論からいえば、本人へ通知することなく、携帯電話のGPSの位置情報を捜査機関が取得することは、刑事手続の原則である『令状主義』の基本的要請に反しており、問題があると考えられます」
萩原弁護士はこのように述べる。どういうことだろうか。
「携帯電話のGPSによって個人の位置情報が取得されるということは、『個人がいつ・どこにいたのか』ということ知られることを意味します。
これは、個人の私的領域に対する介入であって、プライバシーの侵害行為といって良いでしょう。
こうした国民の権利を侵害するおそれのある捜査手法は、裁判官が発行する令状がなければ実施することができません。これを『令状主義』といいます。日本国憲法35条1項は次のように定めています。
『何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、……正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない』
この憲法の規定は『住居』『書類』『所持品』という『モノ』の所有権を守ることに目的があるわけではありません。
国家がみだりに『個人の自由の領域(=プライバシー)』に介入することを阻止するために『モノ』を例示しているに過ぎないのです。
捜査機関による個人の位置情報の取得も、個人のプライバシーの侵害行為ですから、この憲法35条の規制を受けるべきということになります。
捜査のためであっても、プライバシーの侵害は『必要最小限度』に限定するよう、裁判官によって事前に審査し、その判断を『令状』によって明らかにさせようとしているのです」
総務省のガイドラインには、「裁判官の発付した令状に従うときに限り」という限定がついている。「令状主義」の要請は満たしているのではないか。
「実際にこの『令状』に基づいて捜査が行われる際には、『令状』が捜査対象者に『呈示』されなければなりません(刑事訴訟法110条)。
捜査対象者は、『令状』の呈示を受け、自己に対する捜査機関のプライバシー侵害の範囲を認識することで、反論の機会を与えられるからです。
しかし、携帯電話のGPSによる位置情報を捜査機関が取得することが、裁判官が発布する令状によって規制を受けたとしても、それを本人に知らせないのであれば、捜査対象者に令状が『呈示』されていないことになります。
これは、個人の全く知らないところで、捜査機関によって個人の行動が監視されるということです。憲法第35条の令状主義の基本的要請にも反しています。
犯罪捜査のためにどうしても必要だというなら、捜査機関の濫用を防止するために、国会において犯罪の重大性や他の代替手段の不存在など、厳格な要件を規定するよう刑事訴訟法の改正によって対処すべきでしょう」
萩原弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。
事務所名:ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/