いつもは政治色が濃くなりがちなFIA金曜チーム代表会見ですが、ヨーロッパGPは少し雰囲気が違いました。メルセデスのトト・ウォルフ、ウイリアムズのクレア・ウイリアムズ、ルノーのフレデリック・バスール、マクラーレン・ホンダのエリック・ブーリエ、ハースのジーン・ハースと代表者級が顔をそろえたため、まずは司会者が今シーズンここまでの総括となるような話題を振って、競技そのものが中心の内容に。
フロアの記者からは「初開催のサーキットの印象」「ストレートが長いだけに予選でチームメイト同士スリップストリームの使いあいをするのか」といった質問が飛び、金曜会見では珍しいくらい、いつになく政治抜きのスポーツ面の話題が続きました。
一瞬だけ場の空気が変わったのは「地元アゼルバイジャンの通信社が、いわれのないパス発給拒否を受けた。人権問題として、どう思うか?」という質問が投げかけられたとき。
これに対してウォルフは「スポーツとは人々に感動を与え人々を一体にするためのもの。レース開催については統括団体であるFIAと商業権保持者であるFOMが責任を負うべきものであり、我々は深く関知していない」と当たり障りのない回答。ウイリアムズ副代表も「我々は政治家ではなく、カレンダーで指定された場所に行ってレースをするだけ。日曜に素晴らしいレースをお見せするだけです」と同調。
これに対して、自由の国アメリカのジーン・ハース代表が、堂々たる演説を披瀝してくれました。
「レースはスポーツであり、それを楽しむ人々を一体化してくれるものだ。その下では人と人の違いなど克服できる。例えば私の母国アメリカ合衆国とロシアの間には長い諍いの歴史があるが、私がロシアGPで彼の地を訪れたときに人々は非常に親切で、ロシア訪問は素晴らしい経験だった。F1には、そうやって人と人との問題を和らげる力があるんだと私は心から思うよ」
政治もビジネスもF1の一部だとは良く言ったものですが、やはりスポーツとしての本質に魅力があってこそのF1。そんな当たり前のことを忘れかけているからこそ、ときに迷走してしまうのかもしれません。ハース代表の言葉が、多くのF1関係者の胸に響いたことを願いたいところです。