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藤原さくらが明かす「ラヴソング」出演で得たこと「ずっと歌い継がれる曲を作っていきたい」

2016年06月17日 18:51  リアルサウンド

リアルサウンド

藤原さくら(写真=下屋敷和文)

 シンガーソングライターの藤原さくらが1stシングル『Soup』をリリースする。彼女自身がヒロイン役(佐野さくら)として出演しているフジテレビ系月9ドラマ「ラヴソング」の主題歌として制作されたこの曲は、福山雅治の作詞・作曲によるミディアムチューン。愛らしさと切なさが混ざり合うメロディ、カントリー・ミュージックのテイストを取り入れたサウンドメイクがひとつになったこの曲は、ドラマのストーリーと重なりながら、藤原さくらの個性もしっかりと際立たせるナンバーに仕上がっている。


 2016年2月に1stフルアルバム『good morning』をリリース後、初のドラマ出演をきっかけに一気に知名度を上げた彼女。今回のインタビューでは「Soup」の制作プロセスをフックにしながら、ドラマ出演で得たもの、活動状況の変化、シンガーソングライターとしての今後の展望まで、幅広いトピックについて率直に語ってもらった。(森朋之)


・「人と人が生きていこうとすれば、楽しいことだけではない」


ーー前回のインタビューは1stフルアルバム『good morning』のリリースタイミング。その後ドラマに出演したことで、いろいろ変化があると思いますが。


藤原さくら(以下、藤原):変化がありすぎて、よくわからないことになってますね(笑)。もうすぐ撮影は終わるんですけど、『Soup』のリリースがあって、その後はワンマンツアーが控えているので。


ーーまずはシングル『Soup』について聞かせてください。シングルのリリース自体、これが初めてですね。


藤原:そうなんですよ。いままでにミニアルバム(『à la carte』)、フルアルバム(『full bloom』『good morning』)は出してきたんですけど、シングルを出すっていうイメージが自分のなかになくて。しかも、福山雅治さんに書いていただいた曲ですからね。自分の人生のなかで、まさか福山さんの曲を歌わせてもらう日がくるなんて思ってなかったです。


ーー「Soup」のデモ音源を聴いたときはどんな印象を持ちました?


藤原:人に書いていただいた曲を歌うという経験があまりなかったというのもあって、当たり前ですけど「自分には書けない、福山さんならではの作品だな」って思いました。私が演じている佐野さくらの気持ちをちゃんと歌詞で表現されていて「すごいな」と感動したし、実際に歌ったときも「とてもかわいいし、ハッピーになれる曲だな」って。この曲、ドラマのなかでは第9話で佐野さくらと神代先生(福山)が作るという設定なんです。親友の真美(夏帆)の結婚式でスピーチのときに歌う曲なんですけど、「幸せになってほしい。いろんなことがあるかもしれないけど、がんばってほしい」っていう気持ちが込められているし、佐野さくらが神代先生に対して抱いている恋心にも重なるなって。大事な人との関係がスープをじっくり煮込むことに例えられているのがとても興味深いなって思ったんですよね。人と人が生きていこうとすれば、楽しいことだけではないと思うんですよ。「ぶつかり合いもあるだろうし、意見が食い違うこともあるけど、それを踏まえたうえで素敵な関係を築いていきたいという思いを歌詞にしました」って福山さんが言っているのを聞いて、「素敵だな。精一杯歌おう」と思えたというか。2曲目の「好きよ 好きよ 好きよ」(ドラマの第6話で披露された楽曲)もそうですけど、ドラマを見てらっしゃる方なら自然に入り込んでいける曲だと思います。


ーーレコーディングのときも、ドラマの役柄を反映させてたんですか?


藤原:そうですね。レコーディングのとき、実は歌いながら泣いちゃったんですよ。レコーディングしているときはまだドラマの放送が始まっていなくて、台本を読み進めて、少しずつ話の流れを理解している段階だったんですね。歌録りのときに、佐野さくらと神代先生が「好きよ 好きよ 好きよ」を作ることだったり、「Soup」が親友の結婚式のための曲だってことを教えてもらったんですけど、歌っているときにすごく感情が高ぶってしまって。そのときに初めて佐野さくらにならせてもらった感じがしますね。


ーーコードの使い方やメロディラインも、藤原さんのオリジナル曲とはテイストが違いますよね。


藤原:そうですね。まず「本当にこだわりのつまった作品だな」と思ったんですよ。自分で作る曲には分数コードはあまり使わないし、メロディのキーもわりと高めで。歌っていて楽しいですね。


ーーアコースティック・テイストのサウンドは“藤原さくら”の音楽にも共通してますよね。


藤原:生のサウンドだし、すごく豪華ですよね。フィドルやバンジョーが入っているのも、自分がいままでやってきた音楽に重なる部分があるのかなって。そこはもしかしたらわたしが歌うことを意識してアレンジして下さったのかなって思いますね。このシングル自体も“藤原さくら”としてリリースさせてもらっているし、ありがたいことです。


・「音楽をやっている藤原さくらも愛してもらえたら」


ーーさらにボーナストラックとしてドラマのライブシーンで披露された「Summertime(佐野さくら with 神代広平Ver.)」「500マイル(佐野さくら with 神代広平Ver.)」この2曲は完全に“佐野さくら”として歌っているわけですよね?


藤原:そうですね。オーディションのときから「藤原さくらとは違う歌い方にしてほしい」って言われていて。最初は「うーん…」って思ってたんですよね、じつは。いままでは「その歌い方が個性だから、そのままでいい」という感じだったんですけど、「その歌い方だと、藤原さくらの色が出過ぎる」って。そこはもう、やりながら探っていった感じですね。選曲に関しても、ずっと話し合ってたんですよ。私自身が自然に歌える曲がいいということもあったんだけど、「佐野さくらはどういう女の子だろう?」ということも考えて。まず、「500マイル」は彼女にとってすごく大事な曲なんですよね。ドラマのなかでは(佐野さくらの地元)広島と東京の距離を感じさせる曲だし、それは私が福岡から上京してきたときの気持ちにも重なっていて。


ーードラマで歌われているのは忌野清志郎さんの歌詞によるバージョン。原曲はヘディ・ウェストで、ピーター・ポール&マリーのカバーでも有名なフォークソングですが、藤原さんのルーツとも重なりますよね。


藤原:大好きな曲ですね、ホントに。「Summertime」も昔から好きな曲で、以前からライブで歌ったりもしてたんですよ。ドラマのライブ・シーンでは「音楽業界の人が見に来る」という設定だったんですけど、私も高1のときに受けたオーディションで英語の歌を歌ったから、そこも重なっているかなって。撮影のときは「佐野さくらは英語が上手くないんじゃないか?」という話もしてたんです。だからライブシーンでも、そういう設定での発音にこだわってみました。発音のチェックもあえてしなかったし、「いまのはスムーズすぎるから、もうちょっと下手に歌って」みたいなこともあって。そこはすごく難しかったですね。福山さんがギターのアレンジにすごくこだわってらしたのも印象に残ってます。歌い方がある程度決まったあとも「ギターの録音はもうちょっとかかるから、先にごはん食べてて」と、ずっとギターを弾いてらして。まさにプロフェッショナルだなって思いましたね。


ーードラマの現場を経験することで、得られたものも多かったのでは?


藤原:そうですね……。演技って、まったく自分ではない人になるわけじゃないですか。それって、人の曲をカバーするときの感覚に似てるなって思ったんです。今回のドラマの場合は、佐野さくらと自分の似た部分、重なる部分を考えながら演技させてもらったわけですけど、カバーするときも「ここは共感できるな」というところを意識しながら歌うので。あと、撮影の現場もすごく刺激的だったんです。わからないことだらけだったんですけど、みなさんすごく優しくて、いろいろと教えてくれて。いちばん最初は監督に“手取り足取り”という感じでしたけど(笑)、共演者の方々が自分の芝居に対して、すごく自然に応えてくれるのも楽しくて。セリフは同じでも、声の色や目線の高さを変えるだけで、相手の方の演技も変わるんですよね。もちろん監督やまわりの方とも話しながら、どう演じるか決めていくんですけどね。


ーー決まった段取りがありつつ、本番でしか生まれないケミストリーもあるというのは、ライブに似てるかもしれないですね。


藤原:あ、確かにそうですね。テストの段階で号泣しすぎて、本番で枯れ果てたこともありましたけど(笑)。音楽をやっている方も多い現場だったから、いろんな話を聞けたのも良かったですね。私、宇崎竜童さんの曲が大好きなんですよ。休憩時間も宇崎さんを捕まえて、いろんな話を聞かせてもらって。「曲作りで悩んだときは、こういうことをやってみたら?」というアドバイスをもらったり、ギターの弾き方を教えてもらったり。福山さんともいろんな話が出来たし。


ーーでは、今後の音楽活動について聞かせてください。6月25日(土)に福岡、7月1日(金)に東京でワンマンライブ「『good morning』~first verse~」を開催、さらに9月から10月にかけて全国ワンマンツアー「『good morning』~second verse~」が行われます。


藤原:“first verse”はドラマが始まる前からチケットの先行予約が始まっていて、いままで私の音楽を好きでいてくれたファンの方々が来てくれると思うんですよ。“second verse”はタイミング的に、ひょっとしたらドラマで私のことを知ってくれたお客さんが多いかもしれないので、ライブの雰囲気もかなり変わるんじゃないかなって。ドラマで初めて藤原さくらのことを知ってくれて、私の音楽にも興味を持ってくれた人たちが来てくれるんだったら、期待を裏切らないようにしたいですね。「音楽をやっている藤原さくらも楽しそうでしょ?」というところを見てもらいたいので。


ーー知名度が上がってファンの幅が広がったことで、ライブも在り方も変わってくるだろうと。


藤原:おかげさまでドラマが放送されてからTwitterのフォロワー数もすごく増えてるんですよ。演技をしている藤原さくらを知っている人のほうが多いのは不思議な感じですけどね。私は音楽が好きで、「こういう音楽はどうですか?」という感じで活動してきたので、そこも愛してもらえたらいいなって。音楽をやっている自分を生で見てもらえるのは特別なことですし、ツアーはすごく楽しみですね。


ーーライブ自体、かなり久々ですからね。


藤原:そうなんですよ。この前、エリック・クラプトンのライブを見に行ったんですけど、そのときも「早くライブをやりたい!」って思ってしまって(笑)。5月にドラマ劇中ヒロイン“佐野さくら”として池袋で路上ライブをやらせてもらったんですけど、本格的なライブはやっていないので……。そういえば、その路上ライブのときもすごくたくさんの方が来てくれたんですよね。高校生もいっぱいいて、やっぱり「いままでとは違うな」って思って。出待ちっていうか、「握手してください」なんて言われるのも初めての体験だったし、ドラマってすごいなって改めて思いましたね。街中で声をかけられて「私のこと、知ってるんだ?」っていう感覚も初めてだし……。私自身はぜんぜん変わってないんですけどね、良いのか悪いのかはわからないですけど(笑)。ドラマだけじゃなくてラジオも始まって、いろんなところから私のことを知ってくれる人が増えて。大きな人生の転機ですよね、ホントに。


ーー一気に状況が変わってますからね。


藤原:あれよあれよという間にワーッと進んでるところもあるんですけどね(笑)。去年ドラマのオーディションがあって、今年1月に決まって。その後、バイクの免許を取って、髪を染めて、整備工場で整備の練習をさせてもらったりもして。自分のアルバムのリリースもあってバタバタしているところで撮影が始まって、「Soup」のレコーディングがあって、放送が始まって……。休みの日もありましたけど、台本を覚えたり、曲の練習をしてたので、すごく慌ただしかったんですよ。インタビューで「今後も女優を続けるんですか?」ってよく聞かれたんですけど、そんなことを考える余裕もなかったんですよね。音楽も演技も、自分が出来ることを精一杯やるっていうだけだったので。佐野さくらは吃音で悩んでいる女の子で、中途半端にやるのは失礼だと思ったし、真剣に役作りに向き合って。その結果、自分に興味を持ってくれる人が増えたのは嬉しいことだし、大事な時期という自覚はありますね。


・「“誰が聴いてもいい曲”という作品を作ってみたい」


ーー撮影が終われば曲作りの時間も増えていくと思いますが、シンガーソングライターとしてのスタンスは変わらないですか?


藤原:変わってないと思いますけど、自分の欲を満たすだけではダメだなという気持ちもあって。求められているものも変わってきていると思うし、それは真摯に受け止めたいですね。


ーー「求められるものが変わっている」って、具体的にはどういうことですか?


藤原:まず、いままで事務所の方もレコード会社の方もすごく良くしてくれて、私のやりたいように楽しくやらせてもらってきたんですよね。さっきお客さんの層が変わってきたという話をしましたけど、たとえば女子高生に聴いてもらうとしたら「「かわいい」」(アルバム『good morning』)みたいな曲がわかりやすいと思うんですよね。恋する乙女みたいな歌だし、日本語の歌詞なので。実際、テレビで私のことを知ってくれた人は「「かわいい」が好き」って言ってくれる人が多いんですよ。そういう意味では、私がやりたいことは変わらないんだけど、いろんなことを考えながらやるべきだろうな、と。


ーーわかりやすく言うと「キャッチ—な曲がもっと必要」ということですか?


藤原:そうですね。ただ、それも自分の根本にあることだと思うんですよ。私、ずっと前から「目標はポール・マッカートニー」って言ってるんですけど、ポールって超キャッチーじゃないですか。


ーー超キャッチーだし、コンサートではお客さんが聴きたい曲をやりますよね。


藤原:そうそう(笑)。私はワールドミュージックも好きだし、マイナー調の曲やワルツもやりたいけど、“誰が聴いてもいい曲”という作品を自分でも作ってみたいと思うし、これからも自分が信じる音楽をやるべきだなって。


ーー次の目標は“いい曲を書く”。めちゃくちゃ真っ当ですね。


藤原:いい曲を書きたいですからね、ホントに。「500マイル」もそうですけど、ずっと歌い継がれて、聴き継がれる曲ってあるじゃないですか。そういう曲を作れるアーティストでありたいというのは、ドラマが始まる前も後も同じなので。ただ、ハードルはすごく上がってますけどね。そうやって自分にプレッシャーを与えるのもいいことだと思うんです、のほほんとやってるよりも。(取材・文=森朋之)