いよいよ今週末、6月18~19日に決勝レースを迎える2016年ル・マン24時間耐久レース。その決勝を前に、三度の優勝経験をもつアウディスポーツ・チームヨーストのワークスドライバー、ブノワ・トレルイエが、現地から『ル・マンの七不思議』を届けてくれた。サルト・サーキットの“ご近所さん”でもある地元の“ベンちゃん”が、独自の視点でル・マンの見どころを教えてくれた。
<その1:サルト・サーキット>
これこそ記念碑だね! 僕らは文字どおり、その長さでも、そのスピードでも“別次元”の周回に挑むことになる。各ターンは本当にユニークで、それぞれが個性的なキャラクターと独自の“サガ(武勇伝・伝説)”をもっている。ダンロップカーブ、テルトルルージュ~アルナージュ、インディアナポリス、フォードシケイン、などなど。そして極めつけはミュルサンヌ。そのラインは世界で最も有名と言っていいだろう。ル・マンが世界で賞賛される理由のすべてがある、と言ってもいいね。
<その2:パドック>
こちらも本当にユニークなんだけど、どちらかと言うと『ビレッジ』の話をする必要がありそうだね。ル・マンのパドックでは、僕らは仕事をするのはもちろん、睡眠をとったり、食事をしたり、ときには買い物をすることだって可能なんだ。サーキットの外壁から一歩足を踏み入れたら、そこはパラレルワールドが広がっている感覚だね。小さな通りを持った街並みに、レストランや世話役のいるホテル、本当に「村」と呼ぶべき感じ。僕も毎年、イベントの前週からバンガローの位置を確保して、妻のメラニーと息子のジュールと自分たちでバンガローのセッティングをするんだ。だから毎晩、家族と過ごすことができる。ル・マンは人生そのもの……と言ってもいいね!
<その3:スタート>
これは本当にル・マン独特の瞬間。外から眺めるのと同じくらい、コクピットからの景色も経験してきたけど、僕はチームのガレージから出ていく瞬間がたまらなく好きであることを認めなければならないね。とくにフォーメーションラップでは、フォードシケインに差し掛かると、音楽のクレッシェンドみたいに歓声がどんどん大きくなる。そのたびに毎回、本当に鳥肌が立つ。「この瞬間のために生きている!」と言っても過言ではないね。
<その4:ポルシェカーブ>
ここは正解がない。難易度のレベルはどこにも比べようがないんだ。ル・マンでの良いマシンの条件は、コーナーで失速しないように助けてくれつつ、ストレートラインのスピードを極力伸ばす、そのレアなブレンドに成功しているクルマだ。ラインは本当に狭い。このS字のポルシェカーブを全開で攻めるのはいつも正義だ! サーキットのこのセクションは……まぁ、どのコーナーもそうなんだけど、「なぜ自分がこの仕事をしているのか」を、いつも思い出させてくれる。初めてLMP1で走った時──ペスカローロのマシンだったけど、僕は得意げに攻めていた。それでも、リアビューミラーには常についてくるGTマシンが映っていた。つまり、僕は自分のこと(とLMP1マシンの速さを)を完全に過小評価していたんだ(笑)。
<その5:観衆>
このイベントの一週間は、そこにいるすべての人と何もかもを共有することになる。これはル・マンを特徴づけることのひとつだ。ある意味で、究極のパラドックスとも言えるけど、ファンの総数は本当に巨大なものなんだけど、お互いの距離はすごく近いんだ。テストデーから始まり、ドライバーパレード、車検、予選、そしてレースまで、幾度か顔を合わせる機会があって、自然と顔なじみになる。そんなのは他のどこを探してもないよ。それはガジェットなんかを通じてでは得られない本物の経験で、それこそがル・マンだ。とくに僕は、この近くのアランソンで生まれ育ったから、より特別な感じがするよ。
<その6:親しい人々>
僕は毎年、自分の家族や友人、そしてかつてのパートナーたちとここで顔を合わせる。ル・マンはいつも『再会の場所』でもあるんだ! そのことを僕は本当に、心から楽しみにしている。だから、必ずどこかのタイミングで、みんなでバーベキューを囲める時間を作るようにしているんだ。これは偉大なこのイベントのほんの一部だけど、僕にとっての小さな喜びなんだ。
<その7:表彰台>
これこそ! 僕の7番目の“ワンダー”だね。いちばん素晴らしいことだけど、いちばん達成するのが難しいことでもある。僕はこれまで11回の挑戦で、6回も経験することができた。もちろん、すべてが勝利だったわけじゃないけどね(笑)。最後の瞬間、自分の名前が呼ばれるのは本当に魔法のような気分だ。その場所から、人の渦のような大観衆を見る時は心の底から震えがきて、めまいがするほど素晴らしい景色なんだ。どこまでいっても人の波の終わりが見つけられないくらいだよ。願わくば今年もその絶景をポディウムから見たい。それが、僕の“セブンス・ヘブン”だね!