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indigo la End、新作で濃いグルーヴを獲得した理由ーー核を担うドラマー・佐藤栄太郎のプレイを分析

2016年06月13日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

indigo la End『藍色ミュージック』(通常盤)

 indigo la End(以下、インディゴ)のメジャー2ndアルバム『藍色ミュージック』は、オルタナティブな音楽性とポップスとしての完成度を併せ持ち、バンドの個性を改めて示した素晴らしい作品である。中でも特徴的なのは、これまでの作品よりも音数を絞ってリズムを際立たせ、ファンクやR&Bといったブラックミュージック寄りの作風に接近しているということ。この方向性のキーパーソンとなったのが、昨年3月に正式加入したドラマー・佐藤栄太郎の存在である。


 インディゴ加入以前の佐藤は、川谷絵音がファンを公言するKUDANZのサポートを務めていた。KUDANZはササキゲン(Vo./Gt.)のフォーキーな歌メロを楽曲の軸にしつつも、かつては<残響レコード>から作品を発表していたように、ポストロックにも通じるよく練られたバンドアンサンブルも持ち味で、インディゴとの相性の良さがわかる。しかし、それ以上に重要なのが、佐藤がMISTAKESというバンドのメンバーでもあったということ。「we are R&B band from japan」(Twitterアカウントより)と名乗るMISTAKESは、アークティック・モンキーズの「505」をR&B風にカバーしたライブ映像をYouTubeにアップしているように、黒いグルーヴを持ち味とするバンドであり、その核を担っていたのが、佐藤のドラムだったのだ。


 つまり、佐藤栄太郎というドラマーは、8ビート主体のパワフルなロックドラムと、16ビート主体のファンキーなプレイを併せ持ったドラマーであり、特に後者の要素がインディゴの進化には欠かせなかった。なぜかといえば、インディゴは前作『幸せが溢れたら』の時点で、山下達郎の名前を挙げながらブラックミュージック路線にトライするも、結果的にはロック色が強く残った作品になっていたのだ。しかし、佐藤の加入後初めて発表されたシングル『悲しくなる前に』では、表題曲でアグレッシヴなプレイを見せる一方、カップリングの「夏夜のマジック」では早速R&B風の楽曲に貢献し、この一曲は今ではバンドの重要なレパートリーとなっている。また、「悲しくなる前に」のAメロや、夏「夜のマジック」のサビで聴くことのできる、訛りの効いた独自のタイム感は、佐藤のプレイヤーとしての個性をよく表してもいた。


 アルバムでは一曲目の「藍色好きさ」から、バンドのパワーバランスの変化がはっきりとうかがえる。イントロには佐藤のパワフルなドラムが配置され、Aメロでも後鳥亮介のベースとのせめぎあいが印象的なように、楽曲の軸を担っているのはリズム隊。長田カーティスのギターはかつての裏メロを弾きまくるスタイルから、音数を絞った装飾的なスタイルに変化し、川谷に至ってはアコギのストロークのみで、サビで落とす展開も印象的だ。現在「indigo la End 本人が“藍色好きさ”叩いてみた」という動画がYouTubeにアップされていて、手足を絶えず動かしながら、独自のタイム感をキープしている様子が興味深い。


 また、明確な新機軸となっているのが「ココロネ」や「ダンスが続けば」といったループを主体としたBPM120台のダンスナンバーで、普段は主張の強い後鳥のベースも、これらの曲では佐藤の叩き出すファンキーなグルーヴに乗っかって、ループフレーズを繰り返す。本人たちも語っているように、近年のダフト・パンクを意識しつつも、ABサビの構成ははっきりとしていて、あくまでポップスであろうとしている点は見逃せない。さらには、近年THE NOVEMBERSとの作品で大胆なサウンドデザインを聴かせるエンジニア・岩田純也の助力も大きく、前述の2曲や、あるいはラストの「インディゴラブストーリー」などで聴くことのできるミュートの効いた音色も、ミニマルなグルーヴに大きく貢献している。


 佐藤加入以前からインディゴのメンバーのプレイヤビリティは高く、ライブでバチバチとぶつかり合う様を見て、「ZAZEN BOYSみたいだなあ」と思っていたのだが、そもそもZAZEN BOYSというバンドもレッド・ツェッペリンのようなハードロックと、ヒップホップやファンクの融合を目指してスタートしたバンドであり、同じくザ・ローリング・ストーンズのようなロックンロールとファンクの融合を志向していた元ズボンズの松下敦の加入によって、その音楽性がさらに花開くというストーリーを辿っていった。今回のインディゴへの佐藤の加入を、それと照らし合わせることは可能だろう。そして、近年のブラックミュージックの流行によって、ジャズやヒップホップ周りのドラマーに注目が集まる中にあって、佐藤のような幅の広さを持つドラマーはなかなかいないであろうことも強調すべき点だ。現在のメンバー4人によるさらなる化学反応に期待したい。(金子厚武)