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山下vsマーデンボロー。今季の全日本F3を象徴する第7戦のバトル

2016年06月12日 12:41  AUTOSPORT web

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山下健太(ZENT TOM'S F312)
6月11日に、鈴鹿サーキットで開催された全日本F3第7戦の決勝レースは、今季のランキング首位を争う山下健太(ZENT TOM'S F312)とヤン・マーデンボロー(B-MAX NDDP F3)のトップ争いがサーキットを大いに盛り上げたが、最後は山下にとって最悪な、マーデンボローにとっても悔しい幕切れとなってしまった。

 今季の全日本F3は、B-MAX Racing Team with NDDPがフォルクスワーゲンA41エンジンを投入。開幕前から非常にパワフルと言われており、今回の鈴鹿でもS字をはじめとしたセクター1が速いTEAM TOM'S勢と、バックストレートを中心としたセクター3が速いB-MAX Racing Team with NDDP勢という勢力図が金曜の専有走行から展開されていた。

 1周のラップタイムではTEAM TOM'S勢が速く、11日午前の予選では第7戦、第8戦とも山下がポールポジションを獲得していたが、予選後から山下は「ここで連勝しないと、あとのラウンド(富士、もてぎ、オートポリス代替戦、スポーツランドSUGO)は苦しい」と、悲願のタイトルに向け強い意気込みでレースに臨んでいた。

■直線が速いマーデンボロー。S字が速い山下
 迎えた11日の第7戦では、山下は「スタートはあまりうまくいかなかった」とチームメイトの坪井翔(ZENT TOM'S F314)に並ばれるものの、アウト側から坪井に被せるかたちで首位をキープ。「そこからは後続との差を作ろうとがんばって、それなりに開くことはできました」と1周目から逃げ切りをはかる。

「そこからはタイヤマネージメントをして、ゴールまでいこうと思っていた」という山下だったが、背後には2周目に坪井をオーバーテイクしたマーデンボローが接近してくる。今季から全日本F3に参戦しているマーデンボローは、ニッサンGTアカデミー期待の星。ゲーム『グランツーリスモ』育ちの異色のキャリアをもつが、その速さは誰もが認めるところ。第6戦岡山でも雨中のレースで抜群のコントロール能力をみせ、全日本F3での初優勝を飾っている。

 マーデンボローは少しずつ山下とのギャップを縮めはじめ、毎周のようにタイム差は減っていった。「マネージメントどころではなくなって、離せるところはS字しかなくてがんばったんですが、その貯金を全部セクター3で使ってしまう感じになった」という山下に対し、「セクター3は僕たちの方が強力だった。かなり接近していて、何度か山下をパスしようとしてチャレンジしたんだ」というマーデンボローは、コース後半を勝負どころとして、9周目の日立オートモティブシステムズシケインで、イン寄りのラインをとっていた山下の、さらにインに飛び込んだ。

 しかし、マーデンボローはシケインの縁石で軽くマシンが跳ねてしまい、ステアリングを切り込むものの、山下に接触してしまう。マーデンボローの左フロントタイヤに山下の右リヤタイヤが乗り上げるかたちになってしまい、山下は接触で右リヤの足回りを壊してしまった。

 これで山下は痛恨のリタイア。一方のマーデンボローは、フィニッシュまで走りきり優勝か……と思われたが、レース後全日本フォーミュラ3選手権統一規則 第15条1.1)(危険なドライブ行為)違反により、競技結果に40秒加算。10位となり、こちらも無得点となった。

 第7戦を終えて、ランキング首位は45ポイントで山下が守っているものの、ここまで未勝利ながら着実に表彰台を積み重ねている坪井が41ポイントで迫ってきている。マーデンボローは37ポイントで3位だ。今季3勝の山下だが、リードはかなり少なくなってしまった。

■いらだつ山下。「もう残りは厳しいかもしれない」
 ランキング首位を争っていた双方にとって痛恨の結果となったレースだが、マーデンボローはレース後の記者会見で「僕としてはブレーキが遅かったわけではないんだけど、タイミングとしては悪くて、ドアは閉じていたんだ。それで接触してしまった」と状況を語った。

「ビデオを見た限りでは、自分はいいポジションをキープしていたと思っているんだけど、彼には悪かったと思っている」

 一方の山下は、レース後マーデンボローのアタックに対しいらだちを隠せない様子で「あの場所で来ても無理だろうとは思っていました。本来なら引くか、アウトにいくかだと思うんです。でも、あそこで来てもぶつかるしかない。そんなことをしなくても、アウトからいけば抜けたと思うんですけど……。(接触しても壊れない)ゲームの感覚でいられると困っちゃいます」と辛辣な言葉を残した。

「明日勝てても、その後はもう勝てないくらいに思っています。鈴鹿でここまで追いつめられたら、もう残りは厳しいかもしれない。仕方ないですが……」

 今季の全日本F3は、強力なメンバーが揃う一方で、そのドライバーたちが背負うものも大きい。F3参戦3年目の山下にとって、今季のタイトル獲得は至上命題だ。一方のマーデンボローも、ニッサンの大きな期待とともに戦っている。そんなふたり、特に山下にとって、今回の接触は痛い取りこぼしとなってしまった。