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松本潤主演『99.9』、殺人犯に仕立てられた主人公はどう戦う? 『金田一少年』に通じる要素も

2016年06月12日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 残り2回となった『99.9 刑事専門弁護士』(TBS系)。主人公・深山大翔(松本潤)が殺人罪で逮捕されるという衝撃的な第7話のエンディングから、第8話は結束した斑目法律事務所全体が深山の弁護に注力するという予測は的中したが、そのままクライマックスに流れ込むことはなかった。


参考:松本潤主演『99.9』第7話は“ミステリー”から“サスペンス”へ 斑目法律事務所はどう結託したか


 ここでふと、主人公が殺人犯に仕立て上げられてしまうというプロットから、ドラマシリーズ化もされた人気漫画『金田一少年の事件簿』を思い出した。松本潤が主人公・金田一一を演じた第3シリーズでは同様のテーマは描かれなかったが、初代の堂本剛が演じた第2シリーズでは『金田一少年の殺人』、4代目の山田涼介が演じた第4シリーズのNでは『金田一少年の決死行』と、二度に渡り主人公は殺人犯として追われることになるのである。両方ともドラマでは中間のエピソードであったが、後者は原作マンガではCaseシリーズの最後のエピソードとしての位置であった。


 そう考えると、物語のフィナーレには相応しいテーマになると思うのだが、その選択をしないのがこの『99.9 刑事専門弁護士』の読めないところだ。これまでたくさんの伏線を残しながら、一切明かされてこなかった深山大翔の過去について、斑目法律事務所のチームが調べ上げていきながら、徐々に紐解かれるというのも自然な流れだと思ったが、あくまでも深山の父親が無実の罪で逮捕され、公訴中に死亡してしまったということが明かされるに留まった。


 前述した『金田一少年の事件簿』の2つのエピソードでは、主人公は逃亡しながら事実と真犯人を探し始める。ところが深山大翔は逃げ出さない。探偵と弁護士という大きな違いがあるとはいえ、自分が逮捕されているという事実を巧みに利用するのだ。検察官から情報を聞き出し、それを接見に訪れた佐田(香川照之)や立花(榮倉奈々)に調査させることによって、是が非でも真実に辿り着こうとする。たしかにこちらの方が、ドラマチック過ぎずに現実的な流れに見える。


 不起訴にしようとする佐田に対して、それでは事件関係者として情報を得られないからと起訴されることを望む深山。有罪率99.9%の残り0.1%を、自分の弁護士生命を賭けてまで解き明かそうとする大ギャンブルに打って出るのだ。そして冷静かつ正攻法で対処する姿によって、“弁護士”という存在の意味を生み出すことになった。


 いとこの坂東(池田貴史)と、加奈子(岸井ゆきの)が面会に訪れる場面で、加奈子は仕切りのアクリル板に顔と手を密着させ、それによって付着した皮脂の汚れを、深山は拭くように言う。結局拭くものがなく、そのままになった汚れを、次に入ってきた佐田はそれを拭いながら、「こっち側の窓も拭けないやつを早期釈放するのが俺の仕事だ」と言い放つ。つまりは、佐田の持論である「依頼人の利益」ということだ。


 幾度となく、佐田の言う「依頼人の利益」と深山の「0.1%の事実を追求する」がぶつかってきたこのドラマだが、第7話で佐田が「事実を追求することが依頼人の利益となる場合もある」と発言したように、その両方の持論の折衷案というか、両方を尊重したスタンスに流れつつある。


 佐田が、今回の事件の首謀者と思しき、3年前に深山が弁護し有罪となった女性・岩下亜沙子(夏菜)に弁護側証人としての証言を求める場面もまた然り。深山が証言のひとつを採用しなかったことで、有罪になり人生を狂わされたと語る岩下に対し、「私があなたの弁護人になっていたら、その証言を採用していたかもしれない。でもそれで無罪になっていても、あなたの人生を狂わせなかったかは判らない」と言った上で「太陽の下で正々堂々と生きることもできます」と、依頼人の利益よりも事実を明らかにすることを優先する姿勢を示す。


 一方で、岩下が証言台に立ち、深山を陥れる経緯を洗いざらい話した後に映し出される深山は、これまでにないほど複雑な表情であった。依頼人の利益を無視してまで事実のみに執着した結果起きた今回の事件に対しての自戒の念だろうか。だとしたら少なくとも、自分が陥れられることに対する後悔ではなく、罪もない人間の命が奪われたことへの後悔に他ならないのであろう。


 第6話で、18年前に起きた殺人事件がきちんと捜査されていれば、その怨恨による暴行事件が発生することはなかったと、当時の担当検事だった佐田に深山が言う場面があった。今回のケースは、きちんと信念を持って捜査をしていても、その結果によって新たな事件が生み出されてしまったのだ。人間は何十年も生き続けるのだから、弁護士という職業は、その依頼人の人生を守る覚悟が必要なのである。事実の追求も必要だが、依頼人の利益を考えなくてもいいわけではない、と深山は思い始めているのではないだろうか。


 さらに、今回明かされた父親の過去についての考えも、深山の中に浮かんだように思える。無実の罪で逮捕された父親は、事実に辿り着く前に亡くなってしまった。それに対して自分は、事実に辿り着くことができた。おそらく、深山が刑事事件専門の弁護士になり、事実を追求する姿勢になったきっかけは父親の事件が何も明かされないまま終わってしまったことにあると見て間違いなさそうだ。となると、やはりその事件の担当検事は大友検事正(奥田瑛二)だったということになるだろうか。(久保田和馬)