人は、自分にとってあまりにも当たり前なことを相手が知らないと、つい「そんなことも知らないの?」とカチンと来てしまうもの。立場が違う人同士の会話ではよく起こることですが、就活生にとっても決して他人事ではありません。
学生はビジネスを知らないのは当たり前のことなのに、採用担当者はつい高望みをしてしまいます。このことが面接の場で、思わぬ影響を及ぼします。その典型的なポイントが「志望企業のお客様は誰か?」という点です。(文:河合浩司)
「商品を買ってくれる消費者」だけがお客じゃない
会社はお客様に商品・サービスを買ってもらうからこそ、利益を生み出せます。社会人は日々その活動の中に身を置いていますから、当たり前に理解しています。しかし、就活生からすると別世界の話。分かっていないこともよくあります。
数年前、合説会場の休憩所で、就活生とこんな話をしたことがあります。彼はメーカーを中心に就活していたのですが、ずっと苦戦し続けていたそうです。少し話をしてみると、彼が苦戦する理由がよく分かりました。
「じゃあ一例として、食品メーカーのお客様は誰だと思う?」
「当然、商品を買ってくれる消費者です」
やはりそう考えてしまうのか――。もちろん間違いではありませんが、それでは会社の中にどんな「仕事」があるのかイメージすることはできません。そこで私は「君は食品メーカーのA社から、直接商品を買ったことがあるかい?」と尋ねました。
彼は、あると答えようとして、ちょっと考えて「あ、ありませんね」と言いました。そこで私は「じゃあ、食品メーカーのお客様は誰なんだろう?」と尋ねました。
「……なるほど、コンビニやスーパー、ということですか?」
もちろんその前に卸があったり、小売店の他に飲食店に納品したりすることもありますが、要するに小売に買ってもらえなければ、お店には並びません。マーケティングのように消費者に直接働きかける仕事もありますが、ほとんどの仕事がそうではないわけです。
「自己分析」より大事なことがおそろかになっていないか
つまり、自分がどのような仕事に就いて働くのかイメージせずに、面接で「おいしい商品を消費者に広めます!」と訴えているだけでは、採用担当者には届きません。
自社の商品を消費者に届けるためには、さまざまな取引先とやり取りしなければなりません。この仕組みを理解していないと、面接で仕事の話が噛み合わなくなる――。直販専門の一部の会社を除けば、こういう理解が必要になるはずです。
誤解のないように補足しますが、消費者がお客様ではないとか、消費者をないがしろにしていいとかいう話ではありません。エンドユーザーに支持されることは、確かに重要なこと。しかし日々の仕事において、直接お金を払ってくれる取引先が大事なのは、ビジネスにおいて明白な事実です。
そのことを考えずにやる気と熱意だけで押し切ろうと考えて、勘違いしたアピールをしても、面接で落ち続けてしまうでしょう。自分は社会に必要とされていないと自己否定に陥る前に、「志望企業のお客様は誰なのか?」を確認してみてください。
本来なら、こういった内容を教えることが就職支援には必須のはず。この程度のことであれば、誰でも教えられることだと思うのですが、「自己分析」や「面接対策」などの小手先を教え込むよりも重要ではないでしょうか。
あわせてよみたい:面接10連敗「就活落ちた日本死ね」