2016年06月10日 11:21 弁護士ドットコム
求人票の内容と、実際の労働条件が異なる「求人詐欺」が社会問題になっている。厚生労働省によると、2014年度にはハローワークで、求人詐欺に関する相談が1万2000件あったという。
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被害者を支援するため、労働系弁護士や労働組合などでつくる「ブラック企業対策プロジェクト」は、6月12日の午後5時~8時まで「求人詐欺無料電話相談ホットライン」を開設。相談者の労働環境を聞き取り、アドバイスをおくる。
担当者は、「辞めるだけでなく、職場環境を改善して残るという選択肢もある。相談機関につながっていれば、いろんな手が打てる。『おかしい』と思ったら電話して欲しい」と話している。電話番号は、0120-987-215。すべて無料。
プロジェクトの構成団体のひとつ、NPO法人「POSSE」には年間3000件ほどの労働相談がある。その多くに、求人詐欺が絡んでいるという。次に紹介するA子さんの事例もその1つ。A子さん(21)はこの春、入社1年足らずで会社を辞めた。長時間労働とパワハラに悩まされ、心療内科からは適応障害と診断された。心も体もボロボロだった。
「踏み切りを見ると、吸い込まれそうになるんです。いつも同期と『飛び込んじゃおうか』って言いながら帰っていました」
A子さんが勤めていたのはエステ業界の大手。求人票では実労働時間が8時間、休憩は90分とされていたが、実際はほとんど休みがなく、朝から晩まで長時間労働を強いられた。求人票では良く見えた給料も、固定残業代込みの金額。いわば水増しされた形だった。さらに、タイムカードが途中で切られてしまうので、どれだけ残業しても超過分は支払われない。求人票では「ない」とされていたノルマも存在し、商品の自腹購入を迫られていたという。
「会社に行けば『売り上げ、売り上げ』。辞めると言っても、なかなか辞めさせてくれない。死ぬか続けるかで悩みました。今は前を向くしかないけど、内定をもらった頃に戻って、就活をやり直したいと思うこともあります」
POSSEにはこのほかにも、多くの相談が寄せられているが、特にA子さんのような固定残業制で給料が水増しにされているケースが目立つという。
求人詐欺については、厚生労働省が罰則を検討し始めたが、今のところはほぼ野放し。求人票よりも雇用契約書が優先されるためだ。POSSEのスタッフで、ホットラインの担当者でもある佐藤学さんは次のように指摘する。
「商品なら虚偽表示なのに、こと労働市場になると規制がない。リスクの重さが違うのに、虚偽・誇大広告が出し放題になっています。就職・求職活動が終わってから後出しで雇用契約書を出されても選択肢がありません」
厄介なことに、求人段階で「詐欺」かどうかを見分けるのは難しく、被害の確率をゼロにはできないという。「内定の段階で雇用契約書が出れば、仕事探しを続けることもできるのですが…」。
求人詐欺を行う会社は労働環境が悪く、人手が足りないから求人票をよく見せる傾向にある。佐藤さんは、「そのまま働いていると、求人票と違う労働条件を認めていたと解釈されてしまう可能性があるし、使い捨て、使い潰しの被害にあう可能性が高い。早めに相談してほしい」と話している。
(弁護士ドットコムニュース)