2016年06月10日 10:21 弁護士ドットコム
安保法制の成立をめぐる報道で、全国紙の傾向が二極化していたことがデータによって裏付けられた。朝日新聞と毎日新聞が反対派の識者を多く取り上げたのに対し、読売新聞と産経新聞は賛成派を多く登場させていた。メディアの誤報などを分析する日本報道検証機構(GoHoo)が調査し、6月8日に発表した。
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対象は、朝日、毎日、読売、産経新聞の全国紙4紙。法案閣議決定翌日の2015年5月15日から、成立した翌日の9月20日までに報じられた安保法制関連の記事約4000本を調べた。文中にコメントが採用されたり、インタビュー記事が掲載されたりした人物を目視で抽出し、傾向を探った。
憲法学者や国際関係学者などの専門家の登場回数では、朝日がのべ221回で最多。以下、毎日が125回、産経77回、読売75回と続いた。このうち、朝日と毎日では憲法学者が半数以上を占めていた。今回、安保法制をめぐっては、多くの憲法学者が反対を表明していた。
4紙の専門家の登場回数を個人別に見ると、安保法制反対派では、憲法学者の小林節・慶応義塾大教授、長谷部恭男・早稲田大学教授が人気。賛成派では、憲法学者の百地章・日本大教授と西修・駒沢大名誉教授が多く登場した。
朝日では、小林教授と長谷部教授の意見を合計43回紹介したのに対し、百地教授と西名誉教授の登場は合計10回。毎日も同様の傾向で前者33回に対し、後者は6回だった。読売は前者9回、後者4回。産経新聞は前者8回に対し、後者は17回と回数が逆転していた。
安保法制をめぐっては、SEALDsをはじめ、多くの市民団体がデモを行った。これらのデモを識者や参加者のコメントつきで報じたかどうかの統計では、朝日がのべ214人、毎日が178人を登場させたのに対し、産経は11人、読売は10人の意見しか紹介しなかった。各紙のデモに対する扱いの大きさや、取材への力の入れ具合が鮮明になった。
調査を行った日本報道検証機構の楊井人文代表は、東京・渋谷区での自由報道協会主催の記者会見で、「自社の立ち位置を打ち出すこと自体は問題ない。ただし、社論に引っ張られ、取材対象が社論に近い人ばかりになってしまうと、読者に多様な意見を紹介できなくなる恐れがある」と語った。
同機構はさらに分析を進め、調査結果を年内にも出版するという。
(弁護士ドットコムニュース)